-6-
(改)4/30
セリフの調整を行いました。
(内容に変更はありません)
ペラペラとスケッチブックをめくる度に感嘆の息をあげる女子学生。
大げさな表現にも感じるが、それでも嬉しいものだ。
「あのっ!」
「ん……どうした?」
すべてのページを見終わったと直後、女子学生は急に力の入った声で俺に呼びかけた。
唐突に近くで言われたものだから少し驚いてしまった。
「雨は……嫌い?」
「え?」
重要な質問が飛んでくるものだと身構えていただけに拍子抜けしてしまった。
そして、空を仰ぎながら言った。
「嫌いかもな」
言った後に目線だけを落として女子学生を確認する。女子学生は視線を俺のスケッチブックに落としていた。
表情も暗くなるかなと思ったが、予想に反するかのように笑顔で話を始めた。
「やっぱりそうだよね。このスケッチブックの中に雨が降っている絵がひとつも無かったから……」
「それは違うと思うぞ。雨が好きでも嫌いでも雨がふっている風景なんて誰も書かないからな。俺の前にいる雨子をのぞいて」
「私は雨子なんて名前じゃないよ! 私は雨宮琴葉っ!」
雨宮琴葉――。
俺の中で不自然に反響する名前だった。名前に雨が入っているからだろうか?
「雨子も雨宮も似たような名前だろ?」
「違う!」
俺を睨みつけるように目を向ける雨宮。
だが、可愛らしいその目は睨むという仕草が不慣れなのか滑稽なものだ。
その必死な表情に俺は思わず口元を綻ばせてしまった。
「なにがおかしいの?」
「いや、可愛いなと思って」
「なっ……」
からかい半分の言葉を真に受けたのか、怒った表情のままゆっくりと俺から目線をそらした。
それもまた可愛らしく、滑稽だった。
「雨嫌い男さん」
雨宮が呟くように言い放った言葉。雨子の仕返しだろうか。
「それはもう名前ですらないぞ。ただ雨が嫌いな男の人だ。」
「……名前」
「名前じゃない」
「名前っ」
「名前じゃないっ」
名前ですらないというのに、それを強引に押し通そうとする。しつこい奴だ。
「名前じゃないじゃないっ! あなたの名前だよっ」
「俺の名前?」
こくりと頷く。
俺の名前が雨嫌い男さんではなく、俺の名前を教えて欲しかったと。
言葉が足りないから理解するのに時間を要した。
「俺は時田翔な」
「翔くん……?」
「いきなり馴々しい奴だな」
俺の名前を聞いて何かを考えているのかポカンとした表情で空を虚ろに眺めている。
考えたところで何も出てこないというのに。
「翔くん、お願いがあるから付いてきて!」
「え?」
何かをひらめいたのか、俺の疑問にも触れずに急いでまだ拾いきれていなかったカバンの中身を急いで詰めて俺の腕を引っ張った。