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ep.2 見ちゃった

「マジで覚えてやがれ、明の野郎!」


体育の時間に筆記用具を忘れたので教室まで取りに戻る羽目になった。明はいつもなら貸してくれるのに今日に限って頑なに貸してくれなかった。急にキレだしやがって、情緒不安定すぎるだろあいつ。


教室の前についてから思い出した。女子が教室着替えてるから、鍵もらわないとなんだった。最悪だよ。うちの体育教師は少しでも遅れたらめちゃくちすゃキレてくるってのに。何かの間違いで教室の鍵開いてないかな―――


「開いてる……」


誰かいるのか?教室の電気は消えてるよな。でも、電気が消えてても服くらい着替えられるか?とりあえず一旦中見てみるしかないか。いたら俺は覗き野郎になるかもしれない。いなかったらラッキー。ええい、ままよ!どうせ覗くなら堂々と覗いてやらァ!!


ガララッ!!


「先に言っておくが!俺はお前らの裸に興味はない!―――って、夏さんだけかよ」

「………」


電気の消えた暗い教室の中には制服姿のままのヒロイン『北沢夏海』が1人。自分の机の前に立っている。


「早く着替えて行かないとあの熱血ゴリラが激おこぷんぷんよ?」

「………」


とは言ったものの、男の俺の前で着替えたくないわな。夏さんはずっと無言だし。校内で無視されるのは初めてだぞ。何かあったのかな?まあいいや、さっさと退散しよっと。


「悪ぃ!俺がここにいたら着替えられないよな!」

「………」

「ちょ!何してんの!?」

「………」


夏さんが急に着替えだした。これ俺大丈夫かな。一応目はつぶってるけど、後から覗かれたとか言われないかな。ここで叫ばれた瞬間俺の人生終わるけど大丈夫かな。本当に大丈夫かな。マジで怖いんだけど。


「ちょっ!タンマ!一旦落ち着こ?ね?どこまで脱ぐ気?マジで………は?」


彼女がこれまで片時もパーカーを脱がなかった理由がわかった。服を脱いで露わになった彼女の身体にある無数の痣。それから、煙草を押し付けられたような跡。腹、腕、胸、ご丁寧に長袖を着れば隠せるようなところだけ。自分で付けたのか、誰かに付けられたのか、少なくとも、自然にできたものじゃないのは確かだ。


「だれか…だれか助けてよ………」


俯いた状態で涙をポロポロと溢しながら夏さんが呟いた。『だれか』目の前に俺がいるはずなのに、まるでこの教室に夏さん1人だけかのように発されたその言葉にどこか違和感を覚えた。


「うーん、とりあえず教師に相談……いや、まずは児相?それとも警察?」

「………え?」

「え?」

「ちょっ!?!?えっ!?!?なんでいるの!?」


終わったわ、俺の人生。自分から脱いで泣き出しておいてなんなのこの人。この状況、この経緯で人呼ばれた瞬間俺の負けが確定するのなんかのバグだろ。おかしいよ世界。


「俺は忘れ物取りに来ただけ。てか、目の前に俺がいるのに脱ぎだしたのはそっちだろ」

「嘘つかないで、人呼ぶよ」

「OK、わかった。嘘じゃないけど嘘でいいから。だから待て、な?今ここで人を呼んだら夏さんのその痣も追及されるぞ?いいのか?」

「………」


自分でも最低なことをしている自覚はある。だが、これも俺の人生を守るためだ。夏さんは春も秋も夏も冬も関係なく長袖のパーカーを着るくらいにはあの痣を隠したいみたいだからそれをネタに脅すしかない。


「そして順序が逆になったが一応聞こう。その傷って、大ごとにしたほうがいいやつ?それとも見なかったことにしたほうがいいやつ?」

「………見なかったことにして」

「OK、俺は何も見ていない何も聞いていない。よし、さっさと行こうぜ!」

「…何も聞かないの?」


聞きたくないと言えば嘘になる。何故夏さんの身体に痣ができたのか、何故『だれか』に助けを求めたのか。聞きたいことは山程ある。でも、これは俺の勝手な予想だが、おそらく夏さんの言っていた『だれか』は明だ。今ここにいるべき人間は、彼女の話を聞いて彼女の置かれている状況から救い出せる人間は俺じゃない。『ヒロイン(夏さん)』を救えるのは『主人公(明)』だけ。モブである俺はただの傍観者でいることしかできない。


「誰にでも、触れられたくない秘密の1つや2つあるもんだろ。それとも、俺に聞いて欲しかったのか?」

「それは……」

「話したくなったら話せばいい。そんときゃ、いくらでも相談に乗ってやるよ」


とは言ったものの、じゃあこれからは全部見て見ぬふりできるかと言われればそれはもちろんNOだ。夏さんを救えるのは明だけ。かといって、明が救うまでずっと見て見ぬふりし続けるのも嫌。なら、明に気づかせればいい。


「夏さんの身体に痣があったんだけど」


「先生、北沢さんの身体に痣があったんですよ」


「友人の身体に痣があって…DVとか、僕すごく心配で……」


「北沢夏海の身体には痣がある!!!!」


「とりま一旦脱いでみぃ!!」


あれから1週間いろいろ試した。

明に直接言ってみたり、教師に相談したり。児相にも電話した。でも、誰も取り合ってくれない。教室で授業中に叫んでも無視。最終手段として無理やりパーカーを脱がせようとしたが、もちろん普通に取り押さえられて終わった。


「予想はしてたが、まさかここまでとはな……」

「何が?」


ヒロインの身体の傷という間違いなくストーリーの根幹に関わるようなことを言いふらすなんて、世界の強制力が許さない。そしてわかったことが1つ、世界の強制力はヒロインや明以外にも影響を及ぼす。当然と言えば当然だが、まさか校外の人間にも影響があるとは思っていなかった。


「万策尽きたか……」

「ねぇお兄ちゃん、さっきから何言ってるの?」

「いや、夏さんの身体に―――」

「あっ!聞いたよ!夏海先輩の服を脱がそうとしたんだって?もしかして、夏海先輩の身体に興味が……」

「違うよ!?」


誰も俺の話を聞かないどころか、存在すら認識しないこともあるのに、なんでこういう余計なことはしっかりと認識して親にも連絡行くんだよ。いや、これが普通なのか。でも、ならなんで俺は謹慎も停学も受けてないんだ?そうなってもおかしくないかほどの問題を起こしたはずなのに。


「夏さんの身体に痣が………って、聞こえてるわけないか」

「わたしのことおばあちゃんだと思ってる?夏海先輩に痣なんて適当なこと言って、先輩の裸見たかったんでしょ!お兄ちゃんのえっち!」

「え?」


いま、俺の声が届いたよな。これまでは届かなかったのに。なんでだ?ここが俺の家でストーリーに影響がないから?話した相手が俺の妹だから?どちらにしろ、これは大きな一歩だ。さっちゃんを介してなら、明にも伝えられるかもしれない。


「さっちゃん、夏さんに痣があるって明に伝えてくれない?」

「やだ!わたしそういう人を辱めるようなことはしたくない!」

「俺が買ってたお互いアイスあげるよ。明相手じゃなくてもいいから」

「………やだ。嘘はつきたくない」

「わかった、ごめんね」


声は届くが信じてもらえないってところか。その上、明以外の人間にも伝えることを嫌がる。いつものさっちゃんなら食べ物で釣ったらすぐに寝返るのに。明やヒロイン達にも俺の声は届くようになってるのだろうか。今すぐにでも確認したい。


「もしもし明、今から話せるか?」

「今から?いいけど、どうかしたのか?」


思い立ったら即行動。夏さんの痣について何一つとして確証が得られていない以上、この意識が1番重要だ。


「お前さ、夏さんの裸見たことある?」

「……あるわけないだろう、ふざけるのも大概にしろ」


明が静かに怒りを露わにした。俺の発言に対する当然の反応。これまではこの反応すらも得られなかったからか、今のこの場の空気は最悪のはずなのにそれが嬉しいとすら思ってしまう。


「夏さんの身体に大量の痣があった。って言ったら信じるか?」

「……にわかには信じ難いな」

「たが、俺は見た。自分じゃ付けられない位置、そして服で隠せる位置だけに痣があったのを」

「もしそれが本当だとして、僕たちはもう2年以上一緒にいるんだ、気づかないわけがないだろ」


明の言うとおり、普通に考えて気づかないわけがない。去年は修学旅行もあった。もちろん夏も毎年遊んでる。泊まりがけで遊んだこともある。夏さんの痣に気づいたなら誰かが言及しているはずだ。俺だけじゃない、明も他の二人も誰も気づけなかった。


「信じられないのも無理ないさ、だったら確かめればいい」

「隼人…それはよくないよ」

「何を勘違いしてんのかわからんが、なにも裸にひん剥こうってわけじゃねぇ。ただ夏さんに羽織ってるパーカーを一度脱いでもらえばいい」

「でも、夏海はそんなこと……」

「嫌がるだろうな。なら何で嫌がる?ただ上着を少しの間脱ぐだけだぜ?寒いから?違うね、もう暦の上じゃ夏だ。みんな半袖を着てる。あんな格好してたら熱中症になってもおかしくねぇんだ。それなのに脱がない。おかしな話だろ?」


こうなったらなりふりかまっていられない。世界の強制力がいつ、また力を発揮しだすかわからないから、俺の声が届く間に明に俺の話を信じられなくとも「本当かもしれない」と思わせなければ。


「……わかった。確認してみよう」

「わかってくれたか…!」

「ああ、明日、夏海たちとショッピングに行く予定なんだ。隼人も来てくれ。駅前に10時集合だ」

「は?」

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