ep.1 ギャルゲーの世界
多分、俺はギャルゲーのモブだ。確証はない。
なら何故ここがギャルゲーの世界だと思ったのか。
べつに、前世の記憶があったわけじゃない。
自分が転生者だと考えるなんてこともなく、高校に入学するまではこの世界に対して何の疑問も抱かなかった。
だが、高校の入学式の日、明らかに他とは違う異質な存在を目にした。
東堂陸希、南川美空、北沢夏海の3人だ。
他とは一線を画すような美しい顔立ちに、普通の高校なら間違いなく校則違反な金髪、銀髪、そして銅色の髪。
その他の生徒たちは黒髪か、せいぜい暗めの茶髪な点からも彼女たちが異常なのは一目瞭然だ。
それなのに、誰一人として彼女たちの髪には触れない。眉もまつ毛も髪とまったく同じ色だ。金や銅色はまだ分かる。でも、銀というかほぼほぼグレーの色は現実的に考えて遺伝じゃ説明がつかないだろう。それなのに、まるで彼女たちが“普通”であるかのように、誰も気にしなかった。これが、1つ目の理由。
2つ目の理由は、彼女たちが俺の幼馴染である西条明にゾッコンだということ。
明がモテること自体はまったくもって不思議じゃない。
なぜなら明は、成績優秀、文武両道、眉目秀麗、顔良し頭良し性格良しの超優良物件。小中高校と常にモテてきた。
たしかに明は、俺が女だったらとっくの昔に押し倒して既成事実を作ってそのままゴールインしていたくらいにはいい男だ。
だが、そんなにいい男とはいえ、財閥のご令嬢にギャル、クール系美少女が同時に告白するなんてあるか?そもそも、あんなクラスのマドンナ×3みたいな奴らが同じ高校で同じクラスになるなんておかしくないか?
そこで、1つの仮説が浮かんできた。
『ここはギャルゲーの世界である』
ギャルゲー、つまり恋愛シュミレーションの世界。
そう仮定すると、あの3人はヒロインで明が主人公。
彼らが主軸の世界なら、その他の人間がただのモブのように存在感がなく、彼女たちだけがスポットライトが当たっているかのように目立つのも合点がいく。それに、ヒロインが主人公に恋をするのは物凄く自然なことだ。
だが、この仮説には大きな疑問が生じる。
俺、須藤隼人の存在だ。
俺は明の幼馴染。でも、ギャルゲーに主人公の幼馴染なんて登場するか?それも男の。
それに、俺はヒロイン達から幾度となく恋愛相談をされている。
最終的な意思決定権は彼女たちにあるとはいえ、恋愛シュミレーションとしてはもっとも重要な告白イベントを左右するのもそうだが、そもそものストーリーにすら影響を及ぼしかねない人間が存在していいのか?
そんな疑問もあって、俺はこの世界をギャルゲーの世界でありながら“現実世界”だと思っている。
この世界に誕生してから今年で18年目。俺は普通に生きてきた。明も、ヒロイン達も、血が通い、感情があり、“生きて”いる。
そんな彼らを、誰が“キャラクター”と呼べようか。
俺がどれだけこの世界がおかしいと思っても、この世界で異常なのは俺の方。
なら、せめて彼らの運命に影響を及ぼさないように慎ましく生きるとしよう。
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「おっ!今年も同じクラスだ!」
「誰と誰が?」
「僕と隼人が!」
「おぉ、これで小中高で合計12年連続同クラ達成か」
ここまで一緒だと、運命というか世界の強制力的なものを感じちゃうな。なにか、俺がいたほうがいい理由でもあるのだろうか。
「うちも同じクラスだよ〜」
「陸希も?」
この金髪の白ギャルが東堂陸希。
中身は誰とでも仲良くできる元気な女の子って感じなのだが、いかんせん見た目が、胸元は空いてるわスカートは短いわ、で目のやり場にこまる。そのくせ、常にテストで学年トップクラスの順位を取り続けるくらいには頭がいいのがこれまた信じられない。ギャルってこんなんだっけ?
「あたしも…」
「えっ!夏海も?」
こっちの銀髪ショートヘアのクール系美少女は北沢夏海。
クールな見た目と無口な性格から基本的に1人で行動していて、周りからは一匹狼として見られているけど、俺や明、他のヒロインの前だと結構笑ってる印象。
春夏秋冬季節に関係なく常に長袖のパーカーを羽織ってるけど、夏とか暑くないのかな。
「てことは……」
「私も同じですよ」
「やっぱり……」
最後にこの赤毛でロングヘアのお嬢様が南川美空。
言わずとしれた南川財閥のご令嬢だ。
基本的に、他人のことはさん付けで呼んでいるが、明だけはなぜか様付けで呼ばれている。
あと、家がデカい。庭に噴水があった。あの家はその辺の雑草ですら3000円くらいしそうで入るのに勇気がいる。
「じゃあ今年も5人一緒か!」
「そうだな……」
そりゃそうだよな、ヒロインが別のクラスになるなんてありえないよな。今年も明のハーレムラブコメを間近で見せられるのか。ギャルゲーの世界だから仕方ないけど。それはそれとして、小中では俺と明の2人組だったのに、高校入ってからは俺と明とヒロイン3人の計5人組として扱われるのはなんか癪なんだよな。ラブコメで負ける幼馴染ヒロインの気持ちがわかった気がする。明と付き合う気なんて毛頭ないけど。
「明ってさ、毎年最初はそこの席だよね」
「ん?そうだったか?」
明の席は窓際の1番後ろ、教壇から見て右の奥の角のところ。所謂、主人公席というやつだ。それからは席替え毎に前後左右のうち3箇所にヒロインが座る席に移動する。その度に、俺は明から見て斜め前か斜め後ろの席に移動する。今思えば、これも世界の強制力的なやつなのかもしれない。
「そんなことより、今日はこの後暇?」
「また、ファミレスで飯でも食いながら駄弁ろうぜって話?」
「正解!どうかな?」
「い………いよ、わかった」
学校の近くにあるファミレス。俺はこの店が嫌いだ。ヒロイン達の恋愛相談をいつもここで受けているから。自分から行ったことはない。いつも誰かに誘われて行く。断ればいいと思うだろうが、なぜか断れない。今さっきだって、俺は「嫌」と言うつもりだった。だが、俺の意思に関係なく毎回YESと答えてしまう。これも、世界の強制力なのだろう。
「こうやって全員揃ってご飯食べるのって久しぶりだな」
「そうですね」
「ホント久しぶりだよね〜」
「だね」
俺がこのファミレスを嫌いな1番の理由は、この疎外感。
恋愛相談の時も、今みたいにまるで俺がそこにいないかのように話をする。相談があると言うからわざわざ来たのに、何故ずっと独り言のようなものを聞かされ続けなければならないのか訳がわからない。
「すいませーん、この桜餅パフェ1つお願いします」
「かしこまりました」
俺が注文しても、それを食べ終わっても明たちは気づかない。自分が何のためにここにいるのかわからなくなる。何故こんな思いをしなければいけないのだろう。神様は俺のことが嫌いなのかな。
あ、そうだ。試しにこのまま家に帰ってみよう。何しても見向きもされないなら帰ってもバレないでしょ。なんでこれまで試さなかったんだろ。
「あれ、隼人何処行くんだい?」
俺が立ち上がった途端、明に引き留められた。
なんなの?俺のこと認識してたの?認識したうえで意図的に無視してたの?いじめか?いじめなのか?みんなで話し合って隼人のこと無視しようぜってなったのか?
「いや、帰ろうかと…」
「え、どうして?」
なんで?なんでってことは俺を無視してることにすら気づいてなかったってことか?でも、店員さんは俺の注文を受けたから俺が透明になったりしたわけじゃない。てことは、明とヒロイン達だけが俺を認識できなかった?訳がわからない、これも世界の強制力なのか?
「さて、そろそろお開きにしようか」
「そうですね」
「だね〜」
「賛成」
嘘だろ?俺のこと引き留めて質問しておいて返答待たずに話進めやがったぞ。もうこれは強制力とかそういうの以前に人としてどうかと思うぞ。やっぱり俺のこと嫌いだろこいつら。まあいいや、さっさと帰って可愛いかわいい俺の妹の笑顔でも見て癒されよっと。
「あれ?……ねぇさっちゃん」
「ん〜、なに〜?」
「お兄ちゃんが昨日コンビニ6軒はしごして手に入れた限定プリン知らない?」
「し、知らないよ?」
俺の妹、須藤咲。可愛い。天使。この世界において唯一の俺の癒し。お母さん産んでくれてありがとう。明やヒロイン達みたいに俺を無視することもないから、この子は俺と同じようにその他大勢の1人なんだと思う。
「食べた?」
「……食べてないよ?」
目は泳ぎまくってるし、口笛も吹けてないぞ我が妹よ。べつに、もともとさっちゃんにあげるつもりで買ってたから食べても問題なかったんだけど。ただ、欲を言うなら俺も一口欲しかった。
「美味しかった?」
「ん〜あんまり」
「そっか……それがさっちゃんの入学祝いってことでいい?」
「まあ、うん」
今年からは俺の可愛い妹もうちの高校に入学する。流石にないとは思うが、さっちゃんが明に惚れたりしたら俺は泣くぞ。何事もなく高校卒業できますように!




