プロローグ
この物語は、音楽と青春の話です。
うまくなりたい、追いつきたい、認められたい——そんな気持ちを抱えながら、それでも諦めずに弦を鳴らし続ける一人の少女と、その周りに集まった人たちの、ある一年間の記録。
華やかなステージの裏側にある、不安と葛藤と、それでも続けてしまう理由。そういうものを、丁寧に書けたらと思い、初めて書いてみました。
あなたの青春の記憶と、どこかで重なれば幸いです。
中学二年の頃のことだった。
初めて聴きに行ったライブで、木下来未は、Spinning Dreams (スピニング・ドリームズ)というバンドを知った。ギター&ボーカルの雪村いぶき、キーボードの桐島愛、ベースの藤代絵梨花。それぞれが違う色を放ちながら、それでも音は一つに重なっていた。中でも、ステージの中心でギターを鳴らすいぶきの姿が、来未の目に焼き付いた。眩しいくらい格好良くて、音が、生きていた。
あの日以来、来未の中で雪村いぶきは特別な存在になった。
ギターを始めたい。あんな風に音を鳴らしてみたい。そう思い立つと、来未はフリマアプリで中古のギターを手に入れ、コード本を買い、動画を見ながら必死に練習した。指先は痛かったし、Fコードは何度やっても綺麗に鳴らなかった。それでもギターを弾いている時間は、不思議なくらい楽しかった。
やがて高校生になり、来未は桜葉学園高等学校へ入学した。そして入学式の日、来未は衝撃の事実を知ることになった。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
壇上へ立った生徒会長を見た瞬間、来未は思わず息を呑んだ。柔らかな髪を揺らしながら堂々と挨拶をしているその人は――憧れの雪村いぶきだった。
入学式が終わった後も、来未の頭の中はいぶきのことでいっぱいだった。まさか同じ学校だったなんて。しかも生徒会長。あんな人がいる高校生活なんて、絶対楽しいに決まっている。そう思うと、胸が躍る思いだった。
新入生オリエンテーション期間も過ぎ、校内至る所で部活動の勧誘が始まったある日、来未はふと、ある思いに至った。(雪村先輩、絶対軽音部じゃん!)半ば、確信にも近い思い込みのまま、勢い任せに、来未はその日のうちに軽音部に入部した。だが、
「えっ? 雪村先輩たちですか?」
軽音部の先輩は、少し苦笑いを浮かべた。
「あー、いるんだよねぇ。あなたみたいにSpinning Dreams目当てで来る子」
「えっ?」
「スピドリなら、駅近くのライブハウスで活動してるらしいよ」
来未は目を瞬かせる。
「雪村先輩たち、軽音部じゃないんですか?」
「入ってないよー」
先輩は肩を竦めた。
「先輩たち、ガチだからね。私らとは見てる世界が違うのよ」
来未はしばらく言葉を失った。頭の中で何かがガラガラと崩れ落ちる音がした。
(それでも、今の自分には基礎が足りない……。軽音部に居ればきっとギターを教えてもらえる……はず)
来未はそう思い直し、とにかく活動に顔を出し続けた。しかし、軽音部の空気は、来未が思っていたよりもずっと緩かった。放課後に集まって、好きな曲を合わせて、楽しそうに笑って演奏する。別にそれが悪い訳ではない。けれど、来未はもっと上手くなりたかった。もっと、本気でギターを弾きたかった。




