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【54】春



――――王都では雪が溶け春が来た。


近衛騎士団の演習場では新入隊員たちが訓練に励む元気な声が聞こえる。


「みな、頑張っているようで何よりだ」

木陰でそれを見守る俺の元にしれっと現れたのは近衛騎士団長だ。


「今年はオメガ性からも入団を募ったからな。貴族の師弟の方が多いが平民からも」

「意外といましたねぇ」

「大体がお前の影響だろう」

「そうっすか?」

「そうだ。面接の場で必ずと言ってお前の名が出る。さらには騎士ではなくとも侍従でも必要とされる場所は多い」

職の幅が広がったのは事実だな。


「お前はもう少し自分の影響力を考えるべきだな」

「ええ~~?王妃さまの積極的な雇用改革のお陰じゃないっすかね?」

あのひと他にも色々とやってるからな。お陰で平民や下位貴族でも優秀なものたちが活躍できる場が増えた。

俺にこの立場をくれたのも王妃さまだ。


「ティアも頑張っているようで兄として誇らしい」

近衛騎士団長が嬉しそうに告げる。


「なら俺も王妃さまへの恩のためにも頑張りますか」

ストレッチをして訓練に加わるため剣を取る。


「そうしてくれ。あと……」

「どうしたんです?」


「親として贔屓するつもりはないが、アッシュは大丈夫かと思ってな」

この団長は息子だからと贔屓するひとではない。むしろ実力や素質がなければ入団を認めないだろう。


「別に普通に頑張ってると思いますけど」

親の顔におごることなく他の騎士たちとも手合わせをしている。まあおごったその時は王妃さまに尻を剥かれるだろうが。


「それは良かった。しかしもしみなが私の顔を立てて、その……」

手加減したり甘くしたりとか?つまりはゴマすりを心配しているのか。


「任せてください団長。たとえアッシュが実は裏表がありすぎてひととしてくずであったとしても、アルファ至上主義のドクズであったとしてもリュカさまを泣かせたとしても。俺は……たとえ団長の息子であったとしても、容赦なく……屠る!!」

「いや、やめてくれ。息子をそんな風に育てた覚えはない」

団長が思わず制止してくる。


「……確かに真面目っすね」

「不真面目に育てていたらリュカさまの番には許さん」

「……アンタがそう言うやつだって……分かってたっ」


「なら不謹慎なことは言わないように。リュカさまの耳に入れば悲しまれる」

「ふぐぅっ」

悔しいがリュカさまはアッシュとは上手くやってるし、顔を合わせた日は楽しそうにアッシュの話をしてくれるもん。


「羨ましくなんてないもんっ!うおらあぁぁっ!抜き打ち試験だ並べっ!そしてアッシュ!まずはおめぇからだぁっ!!」

「ろ、ロシェさんっ!?」

アッシュがハッとしながらビビるが構わねぇ。


「こんなんでビビるならリュカさまをお前の嫁にはやらねえっ!」

「そ……それは困ります!」

アッシュが俺に向き直り応戦する。


さすがは団長の息子。ちゃんと受け止めてるな。だが……。


「リュカさまがお嫁に行くなんてイヤだぁ――――っ!」

「ぐふっ」

見ろ、これが辺境流奥義・ゴリ押しである。アッシュが衝撃を受けきれず尻もちを付く。


「いいえ、リュカさまは絶対に私が幸せにします!」

コイツ……まだ諦めてないだと!?


「ならば仕方がない……この俺直々にいいぃっ」

その時頭に手刀が下ろされる。


「あでっ」

「やめなさい、新人に」

団長ではない。この声は……。


「コンラートさん?何で……あっ」

「アーサーさまがお戻りになりましたよ。今は陛下への帰還の挨拶。終われば少し休息の時間です。そうですね……王城の庭園。あなたなら分かる場所と仰っておられましたよ」

「……っ」

「行ってきなさい。話すことがあるのでしょう?」

「……うん、そうだった」


「ではここは私に任せて」

「えっ、コンラートさんは休まなくていいのか?」

「休みますよ。この後は先輩団員からオイタをした時にどのような目にあったかの体験談を話してもらいますので、私は優雅に鑑賞しておきます」

相変わらずのドSだなあ。指導に来ていた先輩団員が青い顔になる。団長まで遠い目をしていた。


「なら任せるわ。また後でな~~」

オメガの騎士たちに手を振れば、手を振り返してくれる。

「相変わらずモテることで」

コンラートさんの苦笑を聞きつつも俺は待ち人を迎えに向かうのだった。


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