表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/56

【41】辺境へ



――――旧知の竜がもたらした報せは衝撃的なものだった。


「アーサーが行方不明ってどういうことだ?コンラートさんたちだって一緒だったはずだ!コンラートさんたちは!?」


「落ち着きなさい、ロシェ」

「けど団長っ!」

「お前は近衛騎士だ。いついかなる時も冷静さを失うな。我々が冷静さを失えば守るべき主人を危険にさらす。忘れたか」


「……すみません」

まさか、あのアーサーが行方不明になるなんて報せを聞くだなんて思わなくて……っ。遠征を終えればいつものようにへらへらしながら帰ってくる……そう思っていたのに。


「では話を続けてくれ」

「それはもちろん。近衛騎士団長殿」

リュヤーは頷くと改めて俺に向き直る。


「アーサーが連れてきた供のものたちは全員無事、辺境でも大きな事件は起きておらず負傷者も他にない」

「ならどうしてアーサーはいなくなった?」

アイツはやるべきことをやらずに逃げるような男じゃない。


「取り引きだよ。自分が行くことで辺境の民や部下たちの命を守ったんだ」

「……行くって、どこに」


「辺境が何の住み処か忘れたかい?」

「まさか……竜?」


「その通り。辺境の銀竜山脈に住まう竜」

「何のために……」

確かにアイツは竜の血は濃いがそれを言うなら辺境伯だってそう。他にもいるだろう。それならどうしてアーサーを……?


「さてねぇ。それを問おうにも見付からない」

「拐った竜には目星がついていそうだな」

「俺が探せないほどのことを仕出かす竜なんてセイレンとあと一頭……」

ならばかなり厄介だが。


「ばあちゃんは……?」

少なくともばあちゃんがいればかわいがっているリュカさまの兄をみすみす拐わせるなどしないだろう。


「発情期だって」

「……くっ」

どうしてこうもタイミング悪く……いや、合わせたのか。


「だからね、もうひとつ可能性があるとしたらロシェ、君だ。君はアーサーの運命だ」

「認めたくはないが……そうだな」

「何?まだ反発しまくってんの?」

「……そう言うわけじゃない。少なくともアイツは……成長したよ。ちゃんと己が生まれた責任や義務を果たしている」

認めてやってもいい……いや、とっくに認めてはいるけど……。


「なら番のフェロモンを辿ればロシェなら行ける。危険を伴うから俺とふたりでになるが」

「それしかないか」

下手に大勢で動けば未だ眠れる竜すらも目覚めさせかねない。その竜がばあちゃんのように友好的だとは限らないのだ。下手に刺激して辺境伯領の民が犠牲になることだけは避けたい。


「既に上層部にはアーサー殿下の件は報せている。しかしながら手立てはそれしかないそうだ」

近衛騎士団長が苦しげな表情で告げる。近衛騎士団長からしたら弟の次男。甥っ子でもあるが近衛騎士として成長を見守ってきたこともあるのだろう。


「事態は急を要する。今から冬装備に着替えて向かうよ」

「……分かった」

リュヤーの言葉に頷く。


「だがロシェ。リュカさまは今日熱を出されたのだろう?心配されては困る。出立の挨拶をしていきなさい」

「……そうします」

俺は出立前にリュカさまの元を訪れた。俺の出立を予期してか既にエレナさんが交代で駆け付けていた。


「悪い、エレナさん」

日勤もあったのに夜勤まで。


「構わん。このような状況下。私も少しでもリュカさまの不安に寄り添いたい」

その様子ではエレナさんもリュカさまも知らされたか。


リュカさまのベッドを訪れれば、リュカさまがベッドから降りとたとたとやって来る。


「リュカさま、まだ安静に……」

「ロシェ」

リュカさまが俺にぎうと抱き付いてくる。


「リュカさま」

「アーサー兄さま……帰ってくるよね」

「……必ず、俺が連れて帰りますよ」

「うん、ロシェ」

リュカさまはぐすっと涙を滲ませながら見上げてくる。


「ですからリュカさまもどうぞ安静に。アーサー殿下が戻られた時、心配されないように」

「分かった……ぼくも、元気になるように、がんばる!だからね、ロシェ。ロシェも怪我しないようにね」

「ええ、もちろんです」

なでなでとリュカさまの頭をなでていれば、トーマスが外套を調達してきてくれたようだ。


「それでは行って参ります、リュカさま」

「うん、ロシェ」

エレナさんたちと共に見送ってくれるリュカさまに手を振り、俺は外套を羽織り外に繰り出す。するとそこには銀色の大きな竜が待っていた。


「まさかと思っていたけどそれで行くのか」

『これが一番速いだろう?』

下手したらアーサー以上。なんせこちらは本物の竜。伝令役として協力してもらうにしてもこれ以上の適任はいない。


『鞍はいらないだろう?』

「もちろん、慣れてるから」

普通はいるんだが……だてに辺境で鍛えてないと言うことだ。

竜の背に股がれば、銀の翼が風を纏い竜が浮き上がる。


「さあ、アーサーを迎えに行こう。リュヤー」

『ああ、ロシェ』

凍てつく暗夜を銀の竜が何者よりも速く駆け抜けていく。リュヤーが本気を出せば辺境までもひとっ飛びだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ