【42】ドラグヌス辺境伯領
――――王都から超特急で移動し、景色が風のように過ぎ去る。ふとした瞬間覚える身震いはここが王都よりもより寒いドラッヘンの果ての辺境伯領であることを示している。
『ようやっとついた。生きてるかい?』
「当たり前だ」
ばあちゃんの飛行はリュヤーよりも荒いんだから。
リュヤーが光の信号の方角を目指し着陸すれば銀色の美しい竜が青年の姿になる。ここは……懐かしいな。辺境伯城だ。
そして俺たちを呼ぶ懐かしい声が聞こえる。
「ロシェ――――!」
「母さん!?」
「ぼくもいます!ロシェさま!」
「シェリルまで!?」
夜で冷え込むってのにこんな寒空の下に!急いでリュヤーと共に駆け付ければ、俺によく似た風貌のオメガの男性……母ルーチェ・グレイスと久々に顔を合わせるシェリルの姿をはっきりと確認する。
それから……辺境伯令嬢のマーガレット姉さんまでいる。姉さんはモーヴの髪に銀の竜の角に尾。瞳は瞳孔が縦長の金のアルファの女性だ。
「ぼくもルーチェさまの弟子ですから」
「そうそう、こっちに来て随分逞しくなったんだから。積もる話もあるけれど、今はアーサー殿下のことね」
「そうだな。ロシェ、中で父上やアーサー殿下の部下たちが待っている」
「分かった。早速行こう」
姉さんたちの後に続き俺たちは屋内へ急ぐ。中では辺境伯やコンラートさんたちが集まっており、資料や情報を少しでも集めてくれていたようだ。
「ロシェ、よく来てくれた」
ドラグヌス辺境伯アーノルドさま。色合いはまさに姉さんにそっくりだな竜人だ。
「いえ、アーサーのこと、聞いてます。俺が迎えに行かないと……」
「ロシェ」
するとコンラートさんが声をかけてくれる。
「申し訳ない。私たちがついていながら……何としてもお止めすべきだった」
「……ダメだよ、コンラートさん。多分アーサーを拐った竜はアーサーは殺さない」
恐らくは餌だ。リュヤーでも探ることができない状況で唯一アーサーを探せる存在。そんな俺を誘き出すためにやったことだ。
「だが他のみんなはそうじゃない。下手したら……っ」
「そうなる。だから止めたんだ」
リュヤーも竜だ。彼らもまたリュヤーに阻まれた。
「俺が本気でやりあおうとも、人質を取られている挙げ句、辺境の民が巻き込まれる」
人質はアーサーだけではなく辺境の民もだ。竜がひとたび暴れれば被害はとんでもないものになる。しかし竜にとっては関係ないことだ。
それでもひとと交わることを選んだ竜たちの弱みすら利用して……。
「だから相手の罠に嵌まるとしてもそれしかない。銀竜山脈の頂上なら竜以外はいない。いざというときは遠慮なくぶっぱなす」
どうやら今回の件はリュヤーの怒りまで買っているようである。
「他の竜たちが起きたらどうする?」
「そうだね……セイレンさまに瓜二つのロシェがかわいく謝れば許してくれる方に賭ける」
「そんなことするくらいならぶん殴って大人しくさせる」
「そう言うと思ったから、安心だ」
本当にこの竜は。しかし嫌いではない。
俺は辺境伯領での騎士団服に腕を通す。王都で外套をもらったとはいえ、こちらでは厳しい。さらに山脈の上ともなれば意味を成さないだろう。懐かしい防寒エンチャントの施された団服。また着ることになろうとは。
「気を付けてね、ロシェ。父さんたちも男爵領から応援してくれてるから」
「ああ、母さん。行ってくるよ」
母さんに行って来ますを言っていれば、向こうではシェリルがリュヤーと話している。
「その、アーサーさまのこと、お願いします」
「もちろん。必ず連れ帰ってくるから、ちゃんと寝るようにね」
「……うう……でも心配で」
「寝られる時に寝るのも必要だし、アマゾネスもいるんだからさ」
そう言うと姉さんが任せろと力強く頷いてくれる。そうは言ってもなかなか寝られるもんじゃないが……。俺も気持ちは分かるしそれで失敗したこともある。
「大丈夫。こっちは任せて」
「ま、母さんが言うのなら」
俺も母さんにたくさん学んだからな。
みなに行って来ますを言い、俺は再び竜の姿になったリュヤーの背に股がり山脈を目指す……。




