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【40】冬支度



――――建国祭が落ち着いたドラッヘン王国は王都でも初雪がちつく季節だ。


「リュカさま~~っ!」

さあ~~て交代時間だぁっ!!

こんな時期はリュカさまにはあったかくしてもらわないと~~っ!

夕方、冷え込む夜に備えて毛布を携えルンルン気分で出勤したのだが。


「ふえぇ……ロシェ?」

リュカさまの頬が……赤い。


「ここ数日の冷え込みのせいですかね。ゆっくりお休みなさいませ」

トーマスたちが看病をしていた。


「ああ、医官は既に呼んで診てもらってますので、毛布を」

「あ、はい」

看病を交代し、熱っぽいリュカさまの傍らに付き添う。


「おねつ……でちゃったの」

「大丈夫、すぐ良くなりますよ」

指通りのいい髪をすいてあげれば、はにゃりと頬を緩ませてくれる。ああ俺の天使。


「やはりロシェがいると逆に熱が上がらないか?」

「……エレナさん!?濡れ衣だぁっ!」


「リュカさま、私は交代になりますがロシェはこき使ってくださいね」

「うん……たくさん、たよりにするね」

ぎゃんかわだろう俺のご主人さま。エレナさんも内心絶対萌えている。


エレナさんと交代し夜は俺が専属で付き添いだな。


暫くうとうととしたリュカさまはすやすやと寝息を立てる。


「早く良くなるといいなあ」

昔から体調を崩しやすいから。ただでさえこの子は……。


「この前セイレンさまが来られた時は何ともなかったのですが」

「トーマス」

トーマスが様子を見に来たようだ。


「ばあちゃんね。建国祭の時しれっとうちのリュカさまをなでなでしてったんだから。俺だってなでなでしたいのにー」

「全くあなたがたはよく似ていますね」

「そう?」

「違いと言えば竜の角や尾がないくらいでしょうか」

まあ俺は母親似でもあるからな。


「けど……大丈夫。今回のは竜の血の影響じゃないよ」

孫にも何となく分かると言うか。

竜の血に身体もついてきたのはアーサーだが、竜の特徴があっても身体が人間よりになってしまったのがリュカさまだ。

逆に俺は竜の特徴はないが身体は丈夫。ひとによってさまざまだ。


「通常は竜の遺伝子の方が強く出るけど、辺境でもそう言うことは稀にある。夕飯前に薬湯をこしらえておくから」

「ええ、お願いしますね」

母さんもよく処方していたからな。辺境の竜人がなかなかあちらを離れないのも辺境にはそこら辺の専門家が揃っているからだろう。もちろん王家のためにこちらの医官も身に付けてはいるが、たいていは辺境で学ぶのだ。


ま、たいていは成長と同時に丈夫になっていく。リュカさまもきっと……。



夕飯近くになればシャロンが来てくれたので、シャロンの診察の傍ら薬湯をこしらえる。


「そう言えばロシェ」

「うん?」

薬草をすりつぶしつつ返事を返す。


「アーサー殿下は今辺境なんだよなあ」

「そうだな。遠征に行ってる」

不思議とアーサーの遠征先に辺境が入らなかったのは大人たちの采配か。あちらには俺もいたしアマゾネスな(あね)さんもいるからな。


それでも冬は人手は多い方が助かるし、王子として辺境を……俺たちのルーツを知ることも必要なことだと思う。


「寂しかったりしないの?」

「何で?俺にはリュカさまがいる」

「お前ほんとブレないなあ」

ケラケラとシャロンが笑う。

まあ……少し味気ないと言うか……静かな気はするがな。


そして夕飯が近付けばリュカさまがむにゃむにゃと目を覚ます。


「夕飯の前にお薬飲みましょうね」

「うん……ろしぇ、しゃろんもきてくれたの?」


「ええ。だいぶ頬の赤みも減ったようで安心しました。この調子ですよ」

「うん!」

こくんと頷き、んくんくと薬湯を飲むリュカさま。ちょっと苦味があるのに偉いなあ、リュカさま。ちゃんと全て飲み終えたリュカさまをなでなでなで~~。


「すぐにお夕飯が来ますよ」

「うん!」

そしてイルが持ってきてくれたのは。

「ロシェさま直伝のお粥です」

こちらではあまり一般的ではないが、辺境は国境があるからよく入ってくるんだよな。


「リュカさま、あーん」

「あーむっ」

イルがふうふうしながらリュカさまにあーんしてあげている。リュカさま、可愛すぎるなぁ。


「あのね、でもね」

どうしたんだろう?


「ぼくもそろそろひとりで食べられるよ?」

その瞬間第3王子宮中に激震が走ったことだろう。

リュカさまのお熱が下がったら緊急第3王子宮会議である。うう……あーん卒業なんていやだぁっ。これはリュカさまの家臣団一同の総意である!!


「いやお前ら。リュカさまが将来フォークとスプーンより重いものが持てなくなったらどうすんの」

でもシャロン!だってシャロン!リュカさまはまだまだ俺たちのかわいいアイドルなんだもんっ!!


「はいはい、盛り上がりすぎてリュカさまのお熱がぶり返したら困りますので。寝仕度の時間ですので交代」

トーマスが手を叩けば交代の近衛騎士や侍女たちがやって来る。うう……でもリュカさまの体調第一。


「あとロシェ、あなたは近衛騎士団長室へ」

「え?こんな時間に珍しいな」

「あなたにお客さまが来ているようです。それもこのような夜遅くに……」

「……確かに。明日改めて……とは行かない事態かもな。とにかく行ってくる」

「ええ、こちらはお任せを」

トーマスに頷きを返しつつ、近衛騎士団長の元に急ぐ。


ドアをノックすれば早速入るように促される。そうして部屋に足を踏み入れればそこで団長と待っていた青年に驚く。


落ち着いた茶の髪色に銀の角、銀の竜の尾。そして真っ黒な瞳。その青年は辺境での知己であった。


「リュヤー!?どうしてここにっ」


「辺境伯から紹介状をもらったんだ」

それで近衛騎士団長に面会を要請できたのか。しかしこんな夜にとは。一体どういうことだ?


「どうしてもロシェに知らせないとならないことが起きた。落ち着いて聞け。お前たちの王子殿下……アーサーが行方不明となった」

「え……?」

その報せに一瞬、時が止まったような感覚に陥った。



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