【36】番の本能
――――医務室で突き刺さった剣を抜いてもらい治癒魔法をかけてもらえば、脚は元通りに動く。
「ん、もうへっちゃら」
「辺境育ちはすぐにそう言うんですから。せめて体力の回復のために寝ていてください」
医官にそう言われ渋々ベッドに横になっていれば、不意にアーサーが顔を出した。
「傷は治ったと聞いたが、大丈夫か」
「まあねぇ。でも少し寝てろってさ」
医官にしろ治癒魔法士にしろ、怒らせたら恐いのは子どもの頃から知ってて染み付いてるかならあ。仕方がない。
「ロシェは少し休息を取るべきだ」
「……でも」
「少し危なかっただろう?」
「……来てくれたのは……助かった」
あの少年が剣を落とさなかったら、アスマの思うがままになっていたかもしれない。取り押さえるとしてもアーサーたちが来てくれて助かった部分が大きい。どんなに強くともひとりでは戦えない。辺境で散々学んだはずじゃないか。
「でも……どうして」
「ロシェのフェロモン……いや、それに似たものをまた感じた」
「どう言うことだ?まさかとは思うがあの実の……」
自分のフェロモンの匂いなど分からないし、それはアルファにしか分からない。逆にアルファのフェロモンもオメガにしか分からない。
「でもそのうちのひとつは確かにロシェのもの。重なりあうように同じような作用を持つものを感じた。けれど最後はロシェのフェロモンが呑み込んだ。そして俺たちもあの場に間に合った」
「どう言うことだ?アーサーが感じたフェロモンは『匂い』ではないとしたら……ひとつ仮説が思い付くな」
「それは……?」
「アルファの圧と言うものがある。それらはオメガにより効くがベータやそのアルファよりも本能が薄いものも検知する。それはアルファの出すカリスマ性や迫力もあるからなのだろう。しかしそれがオメガにより効くのがアルファのフェロモンが原因だとすれば……」
「オメガにも同じことが起こる」
「そう。お前がより感じるよう、フェロモンが何らかの作用をした。どのような作用なのか……今は断定できないが」
「一理あるかもしれない。少なくともコンラートは俺と同じ感覚は覚えなかったと言う。あれは俺にしか検知できなかった」
ならば認めたくはないがコイツはやはり遺伝子が結び付ける番なのだ。
「もしかしたらデゼルトの第2王子なら何か知っているかもしれない」
「……そうだ、その事で一件追加情報がある」
「うん?」
「あの少年だ。離宮にはアスマ以外の全員が揃っていたはずだった」
「そうだったな。では……何故あの子は」
「近衛騎士たちが確かめ、警備にあたる中逃げ出した」
「相当な訓練を受けていることは俺にも分かったよ。何せアスマは俺が最強の兵器になると言った」
兵士ですらない。ひととしてですらない。
「本当にクズだ」
「そうだな。だが怒りを鎮めろ、アーサー。お前は第2王子だ」
「……ああ。兄上も耐えているのに……済まない」
「そうだ、それでいい」
「ロシェに言われるとどうしてか冷静になれる」
ならば少しは年上として道を示せているだろうか。
アーサーと話していれば、コンラートさんがやって来た。
「デゼルトの第2王子がロシェとの面会を望んでいる」
「……俺と?」
「私も行くぞ、コンラート」
「隣国の王太子の我が国での騒動……元より我が国の王族も立ち合いが必要です。しっかりと自身を制しているようなので大丈夫ですね」
「何だか見抜かれている気が……」
「私を出し抜くのは20年早いです」
コンラートさんがにこりと笑んだ。




