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【35】罠



――――王城は緊迫した空気に包まれる。


何せ王太子妃付きの侍従が利用され、結果的に王太子妃が狙われた。


「デゼルトの一行は!」

「それが……っ、アスマ王太子の所在だけが掴めません!」

「いつの間にっ」

離宮は既に近衛騎士たちが抑えている。容疑者と見られる男も捕らえられたが、ひとりだけ何処へ行った!何か嫌な予感がする。


俺も捜索に加わる。人手の足りていない庭園の方角だ。


「……隠れられたらたまったものでは……っ」

その時気が付く。またツンと突き刺す匂い。これは……。


「……っ」

その匂いの元へと慎重に歩いていく。庭園からひと気のない回廊に入れば、誰かが倒れている。


「おい、大丈夫か!」

オメガの少年が顔を見上げた瞬間息を飲む。デゼルト人……それもひとりだけ付いてきたオメガの侍従!それに見覚えのある……生気のない眼差しは焦点が定まらない。


その瞬間、慌てて後ずさろうとした太ももに鈍い感触が走る。


素人じゃない、確実に鍛えてやがる!さらには二刀流。もうひとつの短剣は少年の手にある。しかし少年は意外にもその短剣を自分の喉に突き付けた。


「……は?」

「さすがの最強のオメガの騎士もこれでは手が出せまい」

その声とツンと鼻を掠める果実の匂いに顔をしかめる。


「お前を封じれば後はデゼルトのオメガどもを使えば容易い」

アスマがほくそ笑む。コイツは、ひとを何だと思っていやがる!


「あの子らはもうドラッヘンの民だ!」

「そちらが無理矢理拐ったのだ!彼らは我々のオメガだ」

「彼らはお前たちのモノじゃない!ひとりひとり意思を持った人間だろ!」

「ごたくはいい。それともこやつがどうなってもいいのか」

アスマは俺の目の前の少年を示す。自国民まで人質にとるだなんて……何てやつらだ。


「さあ、大人しくしろ。お前にも見せてやろう」

アスマが見せてきたのは赤い宝石のようなものだが、そこからは確かにあの実の匂いがする。


「お前を我らが手中に収めれば最強の兵器が完成するぞ!」

「ふざけんじゃねえっ!俺たちはモノじゃない。兵器じゃない!あの子たちも、それから彼もお前たちの都合のいいおもちゃじゃないんだ!」

未だ目を覚まさない彼を見る。しかしその瞬間僅かに目の光が揺れる。その手がぶるっと揺れた瞬間、アスマの頬が歪みぶっ飛んだ。


「ロシェ!」

「あーさー……?」

この場に踏み込んできたのはアーサーだった。


カランと落ちた短剣を続けて飛び込んできたコンラートさんが足で弾き飛ばせば、少年ががくりと崩れ落ちる。

敵意はないようだ。そして駆け付けてきた近衛騎士たちが少年を拘束しアスマを取り囲む。


「な……何故、操られん……しかも……あのオメガにかけた洗脳が……解けた?」

アスマは信じられないとばかりに放心状態だ。


「デゼルトの王太子アスマ殿」

アーサーが竜の怒りを滲ませながらも冷静に告げる。


「あなたを拘束させてもらおう」

「ば……バカな……私はデゼルトの王太子……ユラの兄だぞ!その私に何をっ」

「ご自分が何をしたかも分からないと?それにあなたにユラ義兄上の兄を語る資格があると!?」


重たい脚を引きずりながら、アーサーの前に出れば往生際の悪いアスマに向き合う。


「ロシェ!?」

するりと抜いた剣で踏み込めば臆したアスマがひっくり返るように背を床に付ける。そしてそのまままっすぐと剣を突き立てた。


アスマのこめかみギリギリに刃がギラリと光る。ツーッと伝う鮮血はアスマの目よりも赤い。


「オメガをモノ扱いしたと思えば次は弟呼ばわりか。いい加減にしろよ。アルファだけが生態系の頂点だと思うのなら大間違いだ……!」

短い悲鳴が鳴る。


「ロシェ、もう充分です」

アーサーが後ろから俺の身体を抱き締めるように下がらせる。完全に顔面蒼白なアスマが近衛騎士たちに拘束されて引きずられていく。


「まずは脚の剣を」

「アーサーさま、そちらは医務室へ。無理に抜くのは得策ではありません」

コンラートさんが告げる。

「では私が運ぼう」

アーサーに抱っこされる形では不服ではあったが……いつの間にこんなに逞しくもなったのだと嬉しい俺もいて終始無言で搬送される羽目になった。

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