【29】憧れの存在
――――国内の一大イベントが迫る……それは城内は最高潮に忙しいと言うこと。王都での王室参加イベントは騎士団や王都の商業組合も手伝ってくれるが、近衛騎士や城の官吏たちにはその前に国賓を迎える準備もあるのだ。
「終わらねええぇっ!」
もう何百往復してんだ!けど城内を走り回るのは主に体育会系の役目。下手に文官走らせて行き倒れられたら俺らが運ぶのである。なら小間使も果たそうじゃないか!
「あ、ロシェさんいいところに。これもお願いします」
「これも頼めます?宰相府に」
そうこうしている間にも溜まるわ溜まる。外からも商人やドラッヘンに滞在する駐在員も出入りして調度品を設えたり国賓の出迎えの打ち合わせをしたりと大忙し。俺らの仕事もどんどん溜まる。
「あ……ロシェ?今はお使い……ですか?」
その時聞き慣れた声がしたかと思えばそこにアーサーがいたのだ。
「お前……手ぶら……イイモノミツケタ」
「……へ?」
「お前も手伝え!お前も建国祭の警備やるんだからな!!」
「え……いいんですか?私も近衛騎士たちを手伝うと言ったら断られてしまって」
「どこの近衛騎士じゃぁそいつぁっ!使えるもんは王子でも使わんでどうする!」
「はい!私も兄上たちのためにも頑張ります!」
「よ~~し、行くぞぉっ!」
「……王子にやらせていいんすか?」
「いや本人がやりたがってるし」
「さすがはロシェさん。使えるもんは王子でも使えだなんて」
ふんっ、そんなに褒めるなお前たち。
「アーサー、次は宰相府」
「はい!」
「次、外交庁!」
「はい!」
「次は配達!王城の医務室回んぞっ!」
「はいいいぃっ!!」
「さぁて次は最後だ近衛騎士団長室ううぅっ!」
「はいいいいいいぃっ!!!」
「団長お待たせっしたぁ――――っ!!!会議の資料お茶弁当その他ァッ」
「お待たせしました!近衛騎士団長!」
笑顔で配達を終えた俺たち。そして近衛騎士団長は俺の隣のアーサーを一瞥した後俺に向き直る。
「方々からアーサー殿下が小間使いをしていると言う噂が回ってきたのだが……何故アーサー殿下がこのような……」
「いやー、みんな喜んでましたよ?アーサー殿下自ら配達をこなしていく姿に」
「まあ激励にはなるだろうが」
「私も参加させていただき光栄の極みです!」
「……まあご本人が仰っておられるのなら」
やっぱそうだよな!?
「コンラートへの説明はお前からしておくように」
「……え?」
背筋に嫌な気配を感じ、ぷるぷるとしながら振り向く。
めちゃ笑顔100%のコンラートさあぁんっ!?こっえええぇっ!!
「アーサーさまの護衛の近衛騎士が10人ほどダウンしました」
「何言ってんだコンラートさん。そいつらが鍛練不足なだけじゃんか」
「まあロシェの言わんとすることも分かります。しかし今はどの近衛騎士も手がいっぱいです。代わりがいないので、復活するまで代わりをしてくださいね」
「……へ?コンラートさんは……」
「これから近衛騎士の幹部会議なもので」
そうだったぁ――――っ!!!
※※※
――――王城・中庭
「んもう……コンラートさんのドS」
「まあまあ、コンラートも少し休憩してこいと言う程度の意味だったんだと思う」
「まあそうかも」
少しばかり王子を走らせ過ぎたか……全くバテてねえけど。
「その、ロシェ」
「どうした」
「建国祭が終わればいつものように遠征に出るつもりだ」
「……」
思えば俺が辺境にいる間、コイツはコイツで気をまぎらわすようにあちこち遠征に出ていたか。
「お前は竜の血が濃いからこそ誰よりも強く味方にとっては何よりもの心の支えになる」
「ああ。最初はこの胸の奥にある竜の本能から目をそらしたくて仕方がなかった。けれど遠征先でみなと戦ううちに自分が存在する意義を自覚するようになった」
それもアーサーにとっての成長を促してくれたのだろう。
「俺は……辺境に行くつもりだ。ロシェの生まれ育ったルーツに」
「ルーツはお前も同じだろう?辺境は竜の故郷だ。王族以外の竜人もいる珍しい土地だ」
「確かに習ったが……本当なのか」
「少なくとも俺は会ったよ、竜に」
「えっ、と……まさか口説かれたりとか」
「何言ってんだお前は。たとえ口説かれたりしても気に入らなければぶっ飛ばすぞ、俺は」
「そ……それは本当にやれそうなのがロシェだが」
「だてに辺境育ちじゃねえからなあ。それに辺境は竜だけじゃない。シェリルもあちらにいるんだぞ。ちゃんとできんのか?」
「だからこそだ。婚約者でも何でもない今なら、きっと今まで見ようとしなかったものも見える気がする。そして何よりあなたのように強くなりたい」
「……お前の方がきっと強いだろ」
数多のアルファはぶっ飛ばして来たが、さすがに竜の血の濃いアルファの本気を完璧に打ちのめすことができるか……微妙なところだ。
「いや……まだまだロシェにはかなわない。あなたに認められるアルファに……男になるために」
「お前はいつもそれだ」
「あなたはそうして多くのものたちにとって憧れの存在だから……追い付きたい。俺はまだまだ未熟だからこそ、追い付きたいと思う。いや……追い付く」
そのためにアーサーも覚悟を決めつつあると言うことだ。
「……分かった。俺は止めやしねえよ。努力するお前は嫌いじゃない」
「ロシェ……っ」
「でも、まずは建国祭だろ?みんなで一緒に乗りきろうぜ」
「もちろん」
決意を新たにしたアーサーと共に王宮へ足を向ける。しかしその途中だった。
「あれは……デニズか?」
「その、彼は侍従ですよね」
格好もそうだが、オメガのチョーカーを付けた南国風の者と言えば王宮のオメガの侍従たちがほとんどだ。
「ユラさま付きの子だよ」
そっと彼の側に近付く。
「デニズ、こんなところでどうした?迷ったか」
どうしてか反応が鈍い。聞こえていないのか……?そんなはずは……。
いや、何だ。あの虚ろな目は。それに目に一瞬焔が映った気がした。そして何か知らない匂いが一瞬鼻を掠める。
「デニズ、しっかりしろ。俺の顔が見えるか。俺の目をしっかりと見るんだ」
「……え……あっ、ろしぇ、さま……?」
目に光が戻る。彼はひどく驚いたように俺を見る。
「デニズ、俺が分かるな」
「は、はい。でもどうしてここに……あれ、ここは……」
デニズは来た覚えがないとばかりに首を傾げる。
「何があったか思い出せるか?」
「えと……ぼくは、おつかいに……侍従長からおつかい……あ、今、何時で……」
「昼をとっくに過ぎている」
「……そんな……っ、どうしようっ、ぼく、どうして……こんなっ」
「落ち着け。ユラさま付きの侍従長には俺が話す。とにかくまずは医務室へ。アーサー、悪いが」
「ええ。私でも王太子妃宮の前までは行けますから。侍従長を呼んできます」
「そうしてくれ」
俺はデニズを抱えると、医務室へと足を向けた。




