表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/539

第100話 一学期・期末テスト(3) at 1995/7/3

(くそっ! どこだ……どこにある……!?)



 僕は不自由な姿勢のまま、必死になって片手の指先でスマホのスクリーンをスワイプする。



『――その手順として『DRR』は過去あなたの選択肢をここに提示します』



 マニュアルには確かにそう書かれていたはずだ。今までは、過去の僕がとった行動、選択肢なんて確かめもしなかった。だって、僕が、この僕自身がしっかりと記憶していたから。だから、プッシュ通知で届いた現実乖離率の数値を見て、一喜一憂するだけでよかったのだ。



(あーもうっ! どこだ……どこだよっ!)



 教室内の誰にもわからない、理解できない苦悩と僕が闘っているうちにも事態は進んで行く。



「なんなんです、その伸びっぱなしの髪! 気持ち悪いったらありゃしないんですよー!」


「おいおい、そのへんでやめとけって、カエルよぅ」



 まさか――と思わず耳を疑ったが、水無月さんが何も言わないのをいいことに、次々と鋭利な言葉を投げつける吉川を遮ったのは、あの小山田だった。のんびりとした口調はこう続けた。



「あんま、そういうこと言うなよ」



 だが、次の瞬間、小山田の表情が嗜虐的に歪むのを僕は見た。



「ブッキーにそういうこと言ってると、お前、呪い殺されるぞ? だろ、死神ブッキー?」


「あー! そうでしたそうでしたー! 不気味なブッキーちゃん、ごめんしてねー。ねー?」



 ブッキー――その不本意で不条理なあだ名で呼ばれた水無月さんは、びくり! とカラダを大きくひとつ震わせると、そのまま小刻みに震えはじめた。長い髪の隙間から辛うじて見える白く骨ばった細い手は、スカート生地が皺になるほど強く、固く握りしめられていた。



(早く……早く……っ! このへんに……きっとあるはず……これか!?)



 もはや一刻の猶予もない、その焦りばかりが先行して、僕は本来の目的を見失いつつあった。


 あとから冷静になって考えれば、過去の僕の選択なんてどうだってよかった。

 今目の前で起こっていることにだけ、心を向ければ良かったはずだった。


 しかし、僕は決してあきらめず、そして、それを見つけてしまった。






『過去あなたの行動:読み込みエラー』


(――は? 一体どういう意味だ、これ……?)






 僕はすっかり混乱してしまい、やらなくてもいいことにまで手を出してしまった。今までの通知を辿ること。今までの分岐点。そして、今までの分岐点における過去の僕がとった選択肢。



(今まで一度も『読み込みエラー』なんてなかったじゃないかよ! こんな時に限って!!)



 再起動すればいいのか?

 アプリを? スマホを?


 それとも、アプリに致命的な欠陥があって、それがたまたま今回の件で見つかったのか?



 教室内に飛び交うノイズのような、鋭利なナイフのごとき言葉、言葉、言葉。僕はもう気が変になりそうだった。記憶の欠如、身を焦がすほどの焦燥感、不可解な事象への疑問、混乱。



「ここから消えちまえ、ブッキー! 帰れよ!」


「かーえーれー!」


「かーえーれー!」


(――ああ、またか……くそ……っ!)



 あまりに耐え難い頭の疼きと酩酊感。きいん、と耳鳴りがしはじめて、僕のまわりの空間は次第に不明瞭になっていく。喉の奥からこみあげてくる異物感にたまらず吐きそうになる。




 その時、だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ