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波乱の舞踏会(?)

視点が変わりまくります。ご注意下さい。

 





 背中まで長い金髪を編み込みにした冷たい水色の瞳の18歳の女性は淡い水色のフリルがついたドレスを纏っていた。傍らでエスコートする18歳の青年は人好きの笑みを浮かべながらガチガチに固まっていた。それはエスコートする女性ことダイナが美人過ぎて周りからの注目を浴びているからだ。


 ーーあー! 絶対に釣り合わないって思われてる! そういうつもりじゃないからいいけど! フェルディナント様を守るためにペアを組んでるだけだから!


 エーミールは頭を抱えて唸りたい気分だった。対してダイナはエーミールに冷めた視線を送る。


 ーーしっかりしろ。


 その視線に気づいたエーミールはピシッと固まった。げしって足を踏まれたので主君の元へと渋々歩みを進める。ちなみにダイナの編み込みはクシェルにやってもらった。ダイナの髪型は凝ったのが出来たが、クシェル自身のは簡単に編み込んでいる。自分の髪型を好きに出来ないのは仕方ない。


 主君と婚約者の元には挨拶のために長蛇の列が並んでいた。悪意がありそうな者がいないか目を光らせた。


「あれはホルガー公爵ですねーっ」


「それは誰ですか?」


「え? モッペル様の婚約者候補の父親ですよ。まあモッペル様は幽閉されてますしどうなるんやら」


 前グローリエ国王の息子モッペルは人質としてグランツ国に捕らわれている。エーミールはグランツで工房で働いている間も情報収集に余念がないようで頼りになった。ダイナは感心した。


「婚約予定者はクシェル様じゃなかったのですか?」


 エーミールはこそっと話し始めた。


「もう17歳でしたからねーっ。もしもクシェル様がダメだったらもう同い年の者は婚約してない者はいないだろうってことで予備がいたんですよ。それがホルガー公爵の娘ベーベルです。予備の婚約者って可哀想ですよねー。他に相手を作れない上にモッペル様と確実に婚約出来ないんですよー。恨みは深そうです」


 ーーそれは、可哀想だな。あっ。


 桃色のドレスを纏う膨よかな令嬢。白い羽の扇子で口元を覆い細い目はクシェルを不躾に見つめている。ちなみにクシェルのドレスはサテン生地のフリルのピンク色だ。色はわざと被してきたかもしれない。「ピンクは私のが似合うでしょ?」的な。


「あれはベーベル様ですねー。あの悪意満々な笑み怖いですねー。クシェル様に逆恨みしてますよ」


 ベーベルは給仕を呼びワイン受け取りクシェルに勧めた。「未成年ですから」と断るクシェル。そしてベーベルはやりおった。


「きゃぁぁぁああ!?」


 ベーベルはわざとらしくワインをクシェルにこぼした。ワインはクシェルのスカートの部分にシミを……作らずにくの字に弾かれベーベルのドレスに直撃した。


「きゃぁぁぁああ!?」


「あっ大丈夫ですか?」


「大丈夫なわけあるかぁぁぁ!?」


「えっ。いや貴女がこぼしたんですよ?」


「知るかボケーー!?」


 ダイナとエーミールはお互いの顔を見て、「何があった?」と首を傾げた。


 そのドレスの製作者は恋多き自由人だ。女からの嫉妬など日常茶飯事。ドレスにワインをこぼされ慣れている。だから、防水加工をしてあったのである。


 ベーベルはドレスのシミに焦った。そして無事なクシェルにムカついた。


 ーー拭ったる!


 クシェルのウエスト部分の布を掴みその感触に戸惑った。


 ーー固くない!?


「貴女!? コルセットは!?」


 クシェルはあははと空笑いをして白状する。


「着けるの忘れました」


 ーーその細さでコルセットなしですって!? ふざけんなー!?


 ちなみにクシェルはグランツ国では細い分類ではない。グローリエ国では確実に細い分類になるが。


 ベーベルはコルセットはしている。横に大きすぎて寸胴にするのがやっとである。


「きっ〜〜〜。覚えておきなさい!?」


 ベーベルは悪役の捨て台詞をはきながら去っていった。クシェルは「インパクト強いから覚えれそうねー」と感心した。傍らにいるフェルディはクシェル達のやり取りが面白すぎて全身が小刻みに震えた。


 ダイナとエーミールは思った。「あっ馬鹿っぽいから安心だわ」


 次に現れたのはベーベルの父親ホルガー公爵。ピンクの髪は娘お揃いだ。しかし、ウエストは似ていない。細かった。


「クシェル王女殿下。娘が申し訳ない。モッペル様を失って悲しいのだろう。どうか哀れと思って気にしないで下さい」


 ダイナは内心「グローリエ国王に挨拶するのが先だろう?」とムカついた。


 クシェルは「初めまして。婚約者のクシェルです」とフェルディに挨拶しろ! という念を込めて受け答えする。


「ああ。これは申し訳ない。陛下。ご無沙汰でございます。長い間姿を見かけなかったので顔を忘れるところでした」


 クシェルは真顔になった。


 ーーこいつ!? 失礼だな!?


「気にしないで下さい。こうして公の場でお会いできて光栄です」


 フェルディは特に気にしてなかった。


「叔父を後ろ盾にするとは、いやはや。陛下は懐が大きい。お若いのに感心いたしました」


「お褒めに預かり光栄です」


 クシェルはなんだか知らんがイライラした。女の勘が囁いている。


 ーーこいつは好かん! ミンナ姉に報告だ!


 ホルガー公爵をひたすら睨むクシェルであった。


「王子ー! あっ陛下でしたねー! こんなに立派になられてお父上とお母上は喜んでいるでしょう!」


 こちらは男爵家のマダム。笑い皺の目立つ素敵な女性です。クシェルは好感を覚えた。フェルディは目を見張って「お久しぶりです! お元気そうで何よりです」と声を弾ませた。


 ーー昔からの知り合いかー! フェルディ良かったね!


 明るいフェルディの表情にクシェルは涙が出そうだ。


 そして、わかったことがあるフェルディを慕う者は下級貴族が多い。エーミールは騎士でダイナは伯爵家次男の娘であった。


 ーーけど、上流貴族とも仲良くしないとフェルディの立場が危ういのよね。今は叔父のアルノーを軍師に据えてあるから上流貴族は表だって対立することはないって感じ。フェルディはそれを見越して叔父を生かしてるのよね。頭いいというか理性的というか……。フェルディの心が心配。私が支えなければ!


 気合いを入れて はたっと気付く。フェルディと逸れてしまった。イルザの「婚約者と離れないように!」という忠告を思い出して顔が真っ青になった。


 突然人混みに飲み込まれてフェルディと引き剥がされてしまったのだ。


 ーーしまった!?


 そんなクシェルを心配して話しかけてきた貴族の膨よかな御坊ちゃま。


「んん? クシェル王女殿下ですかな? 陛下は庭にいましたぞ。案内しましょう」


 ーーああ。なんて親切な人なんでしょう。……ん? 待てよイルザに「他の男の人と二人っきりにならないこと! 庭に誘われても拒むこと!」って言われたんだった。


「すいませんが、結構です。お気にせず」


「そんな遠慮せず。もうすぐこの国の方になるのです。臣下だと思って使って下さい」


 ぐいぐいと引っ張ってきた。クシェルは「結構です!」とその場から1ミリも動かなかった。御坊ちゃまは「ぐぬぬぬ。う、動かない。力強くない!?」とクシェルと力比べをしていた。蝶よ花よと育てられたグローリエ国の貴族と違いクシェルは農家の人並みに鍛えてる。力比べで負けるはずがなかった。


「クシェル!? 無事!?」


 フェルディが駆け寄ってきた。御坊ちゃま貴族は慌てて離れて「私は親切心から陛下の元にお連れしようと思いまして……」と言い訳を述べる。フェルディは「そうか。感謝する」と無表情に礼を言う。後ろからきたダイナに「なんでクシェルを見張ってないんだ」と叱る。


「申し訳ございません。ですが、陛下か殿下かと訊かれたら、迷いなく陛下の身の安全を優先します」


 ダイナのはっきりした性格にクシェルは惚れた。


 ーーダイナはそのままでいい。


 フェルディは納得してない様だが、クシェルはダイナを応援した。


「だって、王女様を守ってると馬鹿らしくなるんです。今だって、私達が来なくてもどうにか出来ましたよ」


 フェルディは「うっ」と言葉に詰まった。


 ーーどういう意味かなー? 髪も満足に結えない侍女さん?


 まあ、そんなこんなで無事にクシェルの社交界デビューは幕を閉じたのであった。






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