思い出す
新王誕生のお祝いと婚約発表を兼ねた舞踏会が今夜開かれる。
冬の厳しい寒さに耐えた紫色のクロッカスの花が窓から漏れる明かりでぼんやりと見えた。クシェルはぼんやりとこれまでのことを思い出した。
まず兄ベンノ。
「えっ。もう一人妹いたんだ。初めまして、よろしく。あっ。グローリエの王子と婚約おめでとう。これお祝い」
ガラスの瓶に入った紫色の液体を渡された。そもそも初めましてじゃない。何度も会ったことある。
「これは?」
「惚れ薬」
「はい? 何故惚れ薬?」
相思相愛だと思われてない? 仲を疑われている?
ベンノは視線を斜め上に向けながら何かを思い出そうとした。
「いつぞや失恋に効く薬を作ってくれって言われて……それでシャルロッテは失恋に効く薬は新しい恋だと言ってて、それで惚れ薬だ」
はい。それ言ったの私です。その節はお世話になりました。肝心の誰かは覚えてないようですね。惚れ薬が失恋の薬ってぶっ飛んだ発想だな。でも、役に立ちそうだな。いやしかし、そんな怪しい物をフェルディに試すわけにはいかない。うーーん。
「ありがとうベンノ兄」
ありがたく受け取った。
次にミンナ。
「ついに社交界デビューだね。私は参加出来ないから心配だなぁ。嫌がらせしてくる人の名前はしっかりと覚えてくるんだよ。それで私に教えてね。心配だなぁ」
ミンナに教えた人物の末路は一体どうなるのだろう。気になった。そして、言わない方が良いと悟った。
次にイルザ。
「婚約者から一瞬でも離れないこと。姉さんがいれば百人力なんだけどね。いい? 他の男の人と二人っきりにならないこと! 庭に誘われても拒むこと! これは絶対に守ってね!」
必死な形相であった。クシェルは「わかった!」と元気よく頷いた。
次にシャルロッテ。
「ドレス作ろっか? とびっきり派手なやつ! 妹の晴れ姿は豪華にぃぃぃ!」
目を輝かせる姉に待ったをかける。
「いえ。以前貰ったのでいいわ。どうせ一度しか参加しないのに勿体無い」
「まあ! クシェルがそれで良いなら、何も言わないわ〜」
「シャルロッテ姉はグローリエ国の舞踏会に参加しないの? 暇でしょ?」
「あらまっ失礼しちゃう。私は今新たな恋で忙しいの〜。今回はスター劇団員のヤン様よ〜」
「えっあの硬派なイメージのヤン様? 笑顔なんてお客にも見せたことないって有名な?」
「あっクシェルってば意外とミーハーねー。ヤン様ったら私の事知らないのよ。凄くない?」
「良くも悪くも有名なシャルロッテ姉を知らないって凄い!? シャルロッテ姉! 絶対に離しちゃダメだよ! そして、今度わたしにも紹介して!」
「あらあら、ふふふ。この子ったら王様が婚約者なのに。分かった紹介するわ。今回こそは私も本気よ〜」
頼もしい兄姉達であった。しみじみとしてるとフェルディが「何考えてるの?」と顔を覗き込む。黒の貴公子姿が似合いすぎて、鼻血がぶり返しそうになった。鼻を抑えながら「何でもないわ」と答えた。
ーーカッコよすぎる。どうしようカッコよすぎる。私しっかりと身支度出来てる!?
グローリエ国オタカル城に滞在してるクシェルだが、何故か身支度を整えてくれる侍女がいなかった。いやそもそも連れてきた侍女が役に立たなかった。髪は結ぶだけなら出来るが難しい編み込みなど夢のまた夢。コルセットを結ぶのも無理。そして、割と重要なことを思い出した。
ーー……コルセット忘れてた。
フェルディと共に会場に入った。拍手と共に善意と悪意の混じる視線が向けられる。平均的に膨よかなお腹な人々。ボンキューボンならぬボンボンボンだ。
ーーあっいらなかったか。
クシェルは周りの人々を見て安心したのであった。




