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エピローグ 答え合わせ

「なんだよ」

「答え合わせよ」


 デアはガルチアーナに、例のごとく森へと呼び出されていた。晩秋の空はかすれたような蒼で、ひたすらに高い。すでに森の木は大半が葉を落として裸になっている。


「なんだよ答え合わせって」


 解答だの、採点だのといった話題はもうたくさんだ。


 あの心配だったテストが、つい先日終わったばかりなのだ。


 デアはなんとか合格した。神学のイバ先生にはいろいろお小言を食らったが、自由典礼主義の家だからと、今回ばかりはだいぶ基準を緩めてくれたらしい。


 これで次のテストまで安心と胸を撫で下ろしていた。


 それに、あれだけ助けてやったんだからもうガルチアーナからの命令もないだろうと思って解放感にひたっていたところに、この呼び出しだ。うんざりして、警戒しながら祀堂にやってきたのだ。


「どうしてあなたがわたしを助けに来たのか。ずっと考えていたのだけれど」


 あの夜、ガルチアーナは林の隅で倒れていたところを発見されたということになっている。彼女のハウスの妹たちは、姉を放って別のお茶会に出たことを気に病んでいたらしい。戻ったガルチアーナが詩パイを駆けたことを素直にわびると、こちらこそと泣いてすがったという。怒り眉が泣き眉になったとか、なんとか。


 してみるとガルチアーナはそれほど孤立無援というわけでもない。ノッティングラム家の後ろ盾だけでない。彼女本人だってそれなりに慕われているといえるだろう。


 彼女自身もそのことが身にしみたのか、現在デアの前にいるガルチアーナは、どことなく雰囲気が和らいで見える。以前のように肩肘を張ったような態度から、微妙に変化が起きているのかも知れなかった。


 ガルチアーナは、唇の下に人差し指を当ててデアを見た。


「あなた、わたしのこと好きなのでしょう」

「はあ!? だ、誰がだ。バカか」


 なんだよ(ビッグスリーフールズ)。マリューと同じようなことを言い出すとは。デアはすぐさま、半ば慌てたように切って捨てた。


 ガルチアーナはじっとデアを見ている。


 まっすぐにデアを見ている。


「違うの?」


 わずかにガルチアーナの声が震えた。彼女なりに意を決した回答だったことは明らかだ。否定されるのが不安なのだろう。


 誰が、こんな、あたしの弱味を握って脅迫して、好き勝手に命令して、ことあるごとに脅しを駆けてくるようなやつのことを。偉そうで、陰謀家で、自分が主導権を握っていないことがゆるせないような、性格の悪い、友だちもいない……。


 ただ、学園に編入してから一ヶ月あまり、デアがアデリア・トリアトリーの皮をかぶらずにすんだのは、ガルチアーナの前でだけだった。それはニセモノだとバレていたからだが、素でいられる時間があったというのは、結果的に救われていたのかもしれない。


 一番気兼ねなく付き合える相手なのは間違いなかった。


 お茶会から、さらわれたときを経て、二人だけが経験したことが増えてきた。デアにとって、ガルチアーナはたしかに他の生徒とは違う存在なのだ。


 それを好きというのかなんて、デアにはわからないけど。


「じゃあそれでいいよ、もう」


 手で追い払うような仕草とともに、なげやりに言って、そっぽを向いた。顔に熱が集まっている気がする。その答えにガルチアーナがどんな表情を見せたかはわからなかった。


「ガルチャ」


 と、ガルチアーナが言った。


「何が?」

「わたしの愛称よ」


 また愛称か。


「特別に……」


 ガルチアーナは口ごもった。わずかに視線をそらす。頬がうっすら赤い。恥じらいの表情が見えた。早口で続ける。


「そう呼んでもらってかまわないわ。思えばわたしのほうだけあなたのことをデアと呼んでいたのが非対称だったと考えられるものね」

「いや、けっこうです」

「なんでよ!」


 思わず大きな声を出してしまい、はっと我に返ってガルチャは咳払いして、場をごまかした。


 少し間があった。ガルチャは話題を転換した。


「ところで、ランヒーネさんかスイバリーさんの日記はまだかしら?」


 デアは呆れた。まだマリューの弱味を探ることを諦めていない。


 だがそれでこそガルチャだという気もした。こいつはこれでいいと思った。


 デアは、自分の顔が笑みを形作っていくのを感じていた。

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