桜前線北上中 5
お疲れさまでした。
お疲れさま音無くん、また明日ね。
ねぇ、ねぇ響子ちゃん。
………………………
うわっ!ほんとに無視だぁ。
…………………………
こんな、初めてバイトしたような少年いじめて、楽しいんすかぁ?
は?少年じゃないでしょ。
よかったぁ!返事してくれたぁ。
返事じゃないし。
響子ちゃんさあ、独り暮らしなんだってね。
知らない……
隣りの文房具売場の子に聞いたもんねぇ。
あの、おしゃべり女!
いいよなぁ、独り暮らし。
良くないよ。
なんでも自分で、やらなきゃなんだよ。
でもさぁ、うるさい親もいないしさぁ。
バカ!!
親がいることが、どれだけ有り難いか、あんたわかってないでしょ。
えっ、もしかして……
あんたなんか、大嫌い。
ほんとにもう、 いい!!
ごめんなさい‥‥
ついて来ないでよ。
俺の家も、こっちだし‥
あっそ!じゃお先にどうぞ。
あたしは、あっちだから。
………………………
ちょっと、あんたん家向こうじゃなかったの?
……………………
どこまでついてくる気なの!
響子ちゃんが、許してくれるまで。
わかった、じゃあ許す。
許したから、それじゃあね。
ほんとに?
ほんとに、許してくれる。
うん、ほんとに許す。
やったぁ!
じゃあ、改めて響子ちゃんの家見学に行こ。
はあ?あんた、何考えてんの。
特になにも‥♪
ば〜〜か♪
今日初めて会った男、簡単に家に入れるほど、軽い女じゃないんだから。
やった!
ん?なにが?
一応、男として見てくれてるんだ。
ああ言えば、こう言うってあんたの事ね。
さっきから、少し気になる事があるんだけど…
なによ!!!
俺さあ、あんたじゃなくて音無って名前あるんだけど。
あら、失礼!!!
じゃあ、その音無くん!さよなら。
あ、恭吾でもいいよ。
はぁ?とにかく、さよなら。
響子ちゃんさあ、なんで立ち止まったままなの?
いいでしょ。あたしがどこで立ち止まろうと。
もしかして、このマンション?
えっ!!なにが??
やっぱり、このマンションなんだ。
響子ちゃんて、わかりやす〜〜い。
そうよ、このマンションよ。
悪い?
悪くはないけどさ。
あっ!エレベーター着いたよ。
早く早く!!
あっ、うん。
何階?
何が?
響子ちゃんの部屋。
あん‥‥音無くんに関係ないでしょ。
あるよ!
どうして!
俺のお嫁さんになるかも知れない人の部屋だもん。
そんな口先だけの事ばっかり言ってると、そのうち呪われるよ。
えっ!?
響子ちゃんて、もしかしてそっち系。
そう、あたし呪うの趣味なの。
うわぁ、すげえ。
藁人形とか、五寸釘とかってやつ。
そうそう、うちにはね、そういうのゴロゴロしてるの。
それ、見てみてぇ!
あっ、この部屋?
そうよ。
はい、あんたはここまでね。サヨナラ。
また、あんたって言ったぁ。
え?あれってチワワ。
ちょっと、なに人の部屋覗いてんのよ。
おい、お前♪チワワだろ。
な、なに勝手に入ってんのよ!!
[響子!誰だこいつ!おわっ、なにすんだ!!!!]
へへぇ。おっ、お前近くで見ると、誰かに似てんな。
な、なに抱き上げてるの!!
その子、人見知りするんだからね。
噛まれても、知らないよ。
[おい、響子!こいつなんとかしろ。噛みついてやろうか、この!]
ウウ〜〜ッ。
おっ、いっちょまえにウウッてか!
[響子、こいつ噛んでもいいか?]
どうぞ、お手柔らかにね。
えっ?なに、なんの事。
噛まれるよって事。
そうだ、確かポケットに♪
ほら、これ♪♪
[ケッ!なに出したかしらねえが、ごまかされねえぞ。]
あれ?好きじゃなかった。
[な、なんだ!この旨そうな匂いは?]
よし!!どうぞ、食べていいよ。
[えっ!?いいの。じゃあ遠慮なく。
おおっ!うめぇ〜♪♪]
こら!なに尻尾ふってんのよ。
[だって、これうまいんだもん。]
そうか、やっぱりお前もこれ好きか。
こいつ名前なんてぇの?
え!ところさん……
プッ♪
そうだ、誰かに似てると 思ったんだ!
そうだ、そうだ、所さんに似てるんだ。
それに気づいた人、初めてだ!!
所さん、よろしくな。
うわっ!所さんお手までしてるし。