第2話「皇室の舞踏会─婚約者候補たちの入場」
皇室主催の舞踏会は、華々しく開かれた。
天井からは幾重ものシャンデリアが輝き、磨き上げられた大理石の床に無数の光を落としている。
優雅なクラシック音楽が流れ、季節の花々が会場を彩っていた。
着飾った貴族たちの笑い声と談笑が絶えず響いている。
招待客たちが入場するたびに、その名が呼び上げられていた。
「ヴァレリア辺境伯とご令嬢、エレオノール・ド・ヴァレリアさま、ご入場です!」
赤銅色の髪で背が高く凛々しい姿のエレオノールは、武門の名家出身である。
貴族たちの噂話は尽きない。
「あれが皇太子妃候補者のおひとり、エレオノールさまですのね」
「背が高くて、凛々しいお方ですのね」
「ロシュフォール公爵とご令嬢、カミーユ・ド・ラ・ロシュフォールさま、ご入場です!」
黒髪で切れ長の瞳が知的さを思わせるカミーユが入場した。
「ロシュフォール公爵令嬢は、政務や外交に精通されているのですって。」
「アルフォンス皇子殿下も、カミーユさまの政治手腕をご期待されているとのうわさですわね」
貴族たちが婚約者候補の値踏みをしている。
(勝手な噂話ばかりしやがって…)
すでに会場内にいるルシアンは、窓際のソファに座っていた。
そして、次から次へと声をかけてくる令嬢の誘いを笑顔でかわし、一人ワインを飲んでいた。
婚約者候補令嬢たちが次々入場する。
「モンフォール侯爵とご令嬢、イザベル・ド・モンフォールさま、ご入場です!」
会場がひときわざわついた。
イザベルは金髪碧眼の華やかな美人である。レティシアより二歳年上であり、すでに社交界デビューを果たしており、人脈作りが抜群な令嬢である。
イザベルは笑顔ひとつで場の空気を変えられ、周囲からは「次期皇后ならイザベル様」と言われることもあるほどだった。
婚約者候補者はみな美しく、名門貴族であり優秀な令嬢であった。
そしてついに…。
「ヴァレンティーヌ公爵とご令嬢、レティシア・ヴァレンティーヌさま、ご入場です!」
レティシアの名が読み上げられた。
ルシアンは立ち上がった。
談笑していた貴族たちが振り返る。
会場のざわめきが、ほんのわずかに静まった。
ゆっくりと、一人の令嬢が会場へ足を踏み入れる。
―――淡い銀糸のような髪。
―――夜空を映したような紫の瞳。
―――歩みは優雅で、一つひとつの所作に無駄がない。
レティシアは淡い藤色のドレスを着ていた。
幾重にも重ねられた薄布は歩くたびに揺れ、柔らかく光を返す。
胸元の紫水晶が散りばめられたネックレスが、銀色の髪と紫の瞳をいっそう引き立てていた。
その姿は、まるで月光が人の形を取ったかのようだった。
だが、人々の目を奪ったのはその美しさだけではなかった。
そこには、生まれながらの気品と、長い年月をかけて磨き上げられた品格があった。
誰もが目を離せない。
ただそこに立つだけで、人の視線を引き寄せる不思議な存在感があった。
「……なんて美しい」
誰かが思わず漏らした声は、小さかった。
しかしその場にいた多くの者が同じことを思っていた。
【主要登場人物です】
■ レティシア・ヴァレンティーヌ
この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫水晶を思わせる大きな瞳をもつ公爵令嬢。未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”として知られていた。
■ アルフォンス・ルーヴェル
ルーヴェル帝国の第一皇子で、次代の皇帝として期待される存在。金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。
■ ルシアン・エヴラール
隣国であり友好国であるラヴィエール公国の小公爵。レティシアの幼なじみ。軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。レティシアの本性を知る数少ない人物。
【ルーヴェル帝国 関係者】
■クラウディウス皇帝
ルーヴェル帝国を長年統治している偉大な皇帝。理性的で威厳があり、民から敬愛されている。
【 ヴァレンティーヌ公爵家】
帝国屈指の名門公爵家であり、代々皇室騎士を輩出している武門の家系でもある。
■ ヴィクトル・ヴァレンティーヌ
ヴァレンティーヌ公爵家当主。厳格で威厳ある人物で皇室からの信頼も厚い。
■ セラフィーナ・ヴァレンティーヌ
ヴィクトルの妻であり知性と品格にあふれる公爵夫人。
■ アレクシス・ヴァレンティーヌ
3歳年上のレティシアの兄。ヴァレンティーヌ家の後継者。聡明で冷静。
■ ノエル・ヴァレンティーヌ
1歳年下のレティシアの弟。剣術好きで明るい性格。
【アルフォンスの婚約者候補】
■イザベル・ド・モンフォール侯爵令嬢。金髪碧眼の華やかな美人。社交界の華。
■カミーユ・ド・ラ・ロシュフォール公爵令嬢
黒髪で切れ長の瞳。知的で冷静で政務や外交に精通している。レティシアの最大のライバル候補。
■エレオノール・ド・ヴァレリア辺境伯令嬢
赤銅色の髪で背が高い。武門の名家出身。馬術や軍略にも詳しい。




