第25話「それぞれの翌日」
───銀花祭の翌日の朝は雨だった。
しかしアルフォンスにはいつもの朝だった。
グレイスンが一日の予定を告げる。
そして、与えられた“役割”だけを見て、生きる。
グレイスンが予定を告げ終えると、部屋を出て授業に向かう。
いつも通り。
しかしふと足を止める。
グレイスンに、命じる。
「昨日の武闘会に出ていた黒髪の剣士と、覆面の剣士を探してくれ」
「はい?」
グレイスンが聞き返した。
「それは、必要なことでしょうか?」
しばらく考えるアルフォンス。
─優秀な人材だから。
─皇室騎士団に欲しいから。
─未来の帝国のためだから。
必要である理由はたくさんあった。
「そうだ」
アルフォンスは、短くハッキリと答えた。
「そうであるなら、尽力いたします」
頭を下げた後、グレイスンは部屋を出るアルフォンスを見送った。
(違うな。どれも違う)
頭の中でアルフォンスはかぶりを振った。
そして昨日の闘技場であったことを思い出す。
覆面剣士の目が離せない剣さばき。
そして、理解不能な涙。
(もう一度、会ってみたいものだ......)
理由はわからない。
だが、それで十分だった。
アルフォンスは歩き出す。
与えられた役割を果たすために。
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ルシアンは雨に打たれていた。
いつものようにガレスの秘密の剣術稽古に来たルシアンが聞いたのは、
「もうお嬢は来ない」
というガレスの素っ気ない言葉だった。
(レティシアはもう剣を辞めた)
にわかに信じられなかった。
その言葉を飲み込むまでに時間がかかった。
(あんなに楽しそうに稽古をしていたのに。)
いつまでも続くと思っていた日々は、とつぜん終わりを告げた。
厳しいガレスの訓練。
激しい打ち合い稽古。
飛び散る汗。
勝った喜び、負けた悔しさ。
全ての思い出がレティシアとともに在った。
(もう戻らない...)
失った日々は、当たり前と思っていたことばかりだった。
(でも、手放したくない...!)
ルシアンは、雨の中、ただひたすら剣を振った。
見えているものは、過去の美しい日々だった。
(何も考えたくない。)
(今、笑っていられる何かが欲しい...)
そしてルシアンは、稽古を終えると夜の街へ消えていった。
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レティシアは、決意していた。
(私は、あの方の隣に立ちたい......)
武闘会、ルシアンと戦ったアルフォンス。
勝利を収め、観客の興奮と熱気を受けてその場に立つ姿。
凛々しく、雄々しく、誇り高きアルフォンスの姿。
(あの方に選ばれたい。私は、皇后になりたい...!)
やがて来る社交界デビュー。
そして避けられない、婚約者候補たちとの争い。
初めて知った恋心を、決意に変えた。
(これは私の覚悟。だから剣を置くの)
彼女の目に映るものは“なりたい未来”であった。
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アルフォンスは、“帝国”という未来を見ていた。
レティシアは、“アルフォンスの隣”という未来を見ていた。
ルシアンだけが、“過去”を見つめていた。
それぞれの想いを胸に、
時は静かに流れていく。
そして――
三年後。




