第25話「これは、走馬灯?」
さっき、目を閉じる瞬間に見えた金色はいったい何だったのか。
固く目を閉じながら考えていた。
あれは……。
見間違えるはずがない。
あの金色は……金色の髪は。
目を閉じている場合ではないかもしれない。
もう一度、私はしっかり目を明けた。
その瞬間。
―――ガキン!
私の目の前には背中があった。
「レティシア!」
私の名前を呼ぶ、聞きなれた声。
その背中は、私に振り下ろされた賊の剣をはじき返していた。
賊を睨んだまま、一歩もこちらを振り返らずに言う。
「もう大丈夫だ。」
賊がなお剣を振り下ろそうとしたけど、一瞬のうちにその攻撃は跳ね返され逃げ去っていった。
そして私の方を向いた。
どうして。
どうして、ここに……。
金色の髪は土埃でくすみ、
軍服には裂けた跡がいくつも残っていた。
それでも、そのアイスグレーの瞳だけは真っ直ぐ私を見ていた。
その口元には、安堵したような微笑みが浮かんでいた。
「大丈夫か?レティシア」
……これは夢、ですか?
優しいアルフォンス殿下の姿がそこにあった。
「会いたかったです。殿下。アルフォンス殿下」
気づけば、その言葉が口からこぼれていた。
人は死を前にしたとき、幻覚を見ると聞いたことがある。
これがそうなのですか?
そうだとしたらなんて気の利いた幻覚なの。
でも私の言葉を聞いて、殿下の幻覚が驚いた顔をしている。
なぜ驚いたのかしら。
その手が、そっと私の肩に触れた。
「君がそんなことを言うなんて」
殿下の張りつめていた表情が、ほんの少しだけほどけた気がした。
「そんなことを言うなんて、おかしい…、ですか?」
きっとこれは夢か幻覚、きっと、そうだ。
これは走馬灯なのだ。だから私は大胆になる。
「本当の私は、こうなのです。気取った公爵令嬢なのは建前で、本性は案外、素直な性格なのですよ」
そっと指先で胸をつつく。
殿下は思わぬ私の行動に、驚いた顔をしている。
「そうか……はは。そうだったな」
その笑顔が、胸を打った。
「……!」
で、殿下。その笑顔は全力で反則です。
ああ、私は今日、この笑顔を目に焼き付けて永遠の眠りにつくのだ。
爆発音も怒号も聞こえている。瓦礫の埃であたりが見えなくなっている。それでも、殿下の声とお顔がよく見えるのは、やっぱりこれは幻覚なのかもしれない。
そう思ったとき、後ろからも聞きなれた声が私を呼んだ。
「レティシア、こっちだ」
ガレス先生の声だ。
先生まで迎えに来てくださったのですね。
でも待ってください先生、もう少し私は殿下をこうして見つめていたいのです。
「もたもたするな、こっちだ!」
強引にガレス先生に抱き上げられてしまった…。
あれ?幻覚に抱き上げられるなんて、そんなことある?
「先生の幻覚は力持ちなんですね」
えへ、と笑って見せた。
「俺は幻覚じゃない、目を覚ませ」
ガレス先生がそう言って頬をぺちぺち叩く。
「い、痛いです」
「寝てるばあいじゃないぞ」
「寝てません!……あれ?」
私、起きてるわ。ええ、さっきからずっと起きてる…。
あれ、これは幻覚じゃ、ない?
「え?てことは」
ガレス先生に抱きかかえられて運ばれていく私。
もう金色の髪は、瓦礫と煙の向こうへ消えていた。
「ちょ、ちょっと待ってください、これは走馬灯ではないのですね?」
「走馬灯?しっかりしろ。まだ死ぬには早いぞ」
「殿下が……殿下がいらっしゃったのです!戻ってください!」
「だめだ、もうこのままお前を安全な場所へ連れて行く」
先生は私の言葉など聞いてくれず、スタスタと歩き去ってしまった。




