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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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第25話「これは、走馬灯?」

 さっき、目を閉じる瞬間に見えた金色はいったい何だったのか。

 固く目を閉じながら考えていた。

 あれは……。


 見間違えるはずがない。

 あの金色は……金色の髪は。

 目を閉じている場合ではないかもしれない。


 もう一度、私はしっかり目を明けた。

 その瞬間。

 ―――ガキン!

 私の目の前には背中があった。

「レティシア!」

 私の名前を呼ぶ、聞きなれた声。


 その背中は、私に振り下ろされた賊の剣をはじき返していた。


 賊を睨んだまま、一歩もこちらを振り返らずに言う。


「もう大丈夫だ。」

 賊がなお剣を振り下ろそうとしたけど、一瞬のうちにその攻撃は跳ね返され逃げ去っていった。

 そして私の方を向いた。


 どうして。

 どうして、ここに……。


 金色の髪は土埃でくすみ、

 軍服には裂けた跡がいくつも残っていた。

 それでも、そのアイスグレーの瞳だけは真っ直ぐ私を見ていた。

 その口元には、安堵したような微笑みが浮かんでいた。


「大丈夫か?レティシア」


 ……これは夢、ですか?

 優しいアルフォンス殿下の姿がそこにあった。


「会いたかったです。殿下。アルフォンス殿下」

 気づけば、その言葉が口からこぼれていた。


 人は死を前にしたとき、幻覚を見ると聞いたことがある。


 これがそうなのですか?

 そうだとしたらなんて気の利いた幻覚なの。


 でも私の言葉を聞いて、殿下の幻覚が驚いた顔をしている。

 なぜ驚いたのかしら。


 その手が、そっと私の肩に触れた。

「君がそんなことを言うなんて」

 殿下の張りつめていた表情が、ほんの少しだけほどけた気がした。

「そんなことを言うなんて、おかしい…、ですか?」


 きっとこれは夢か幻覚、きっと、そうだ。

 これは走馬灯なのだ。だから私は大胆になる。

「本当の私は、こうなのです。気取った公爵令嬢なのは建前で、本性は案外、素直な性格なのですよ」

 そっと指先で胸をつつく。


 殿下は思わぬ私の行動に、驚いた顔をしている。

「そうか……はは。そうだったな」

 その笑顔が、胸を打った。


「……!」

 で、殿下。その笑顔は全力で反則です。

 ああ、私は今日、この笑顔を目に焼き付けて永遠の眠りにつくのだ。



 爆発音も怒号も聞こえている。瓦礫の埃であたりが見えなくなっている。それでも、殿下の声とお顔がよく見えるのは、やっぱりこれは幻覚なのかもしれない。


 そう思ったとき、後ろからも聞きなれた声が私を呼んだ。

「レティシア、こっちだ」


 ガレス先生の声だ。

 先生まで迎えに来てくださったのですね。

 でも待ってください先生、もう少し私は殿下をこうして見つめていたいのです。


「もたもたするな、こっちだ!」

 強引にガレス先生に抱き上げられてしまった…。


 あれ?幻覚に抱き上げられるなんて、そんなことある?


「先生の幻覚は力持ちなんですね」

 えへ、と笑って見せた。

 

「俺は幻覚じゃない、目を覚ませ」

 ガレス先生がそう言って頬をぺちぺち叩く。


「い、痛いです」

「寝てるばあいじゃないぞ」

「寝てません!……あれ?」


 私、起きてるわ。ええ、さっきからずっと起きてる…。

 あれ、これは幻覚じゃ、ない?


「え?てことは」

 ガレス先生に抱きかかえられて運ばれていく私。

 もう金色の髪は、瓦礫と煙の向こうへ消えていた。


「ちょ、ちょっと待ってください、これは走馬灯ではないのですね?」

「走馬灯?しっかりしろ。まだ死ぬには早いぞ」

「殿下が……殿下がいらっしゃったのです!戻ってください!」

「だめだ、もうこのままお前を安全な場所へ連れて行く」


 先生は私の言葉など聞いてくれず、スタスタと歩き去ってしまった。






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