第1話「解放」
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文章を改善する目的で、適宜、修正を加えています。ご了承いただければと思います。
───1年前。
レティシアは、皇太子妃候補から外された。
泣いた。
食事も喉を通らなかった。
眠れなかった。
人生が終わったと思った。
けれど今なら分かる。
あの日失ったのは、人生ではなかった。
「レティシア!危ない!後ろだ!」
ルシアンの叫び声に振り向いた瞬間。
目前に迫る覆面の男。
男は剣を振り下ろす。
レティシアは咄嗟に身をひねる。
そしてそのまま男の手首を蹴り上げた。
剣が宙を舞う。
レティシアの胸元に落ちてくる。
(あぶない......!)
とっさに身をひるがえした。
次の瞬間。
レティシアの胸を締めつけていたさらしが、ほどけ落ちる。
レティシアは胸をかばった。
その一瞬のすきだった。
男はレティシアの腕を蹴り上げ、逃げてゆく。
男の後ろ姿を睨みながら剣を鞘に収めた。
次の瞬間、はっと思った。
(み、みられた?)
その事実だけが、遅れて胸に落ちてくる。
大きく深呼吸。
そしておそるおそる後ろを振り返った。
後ろで同じように覆面の男と闘っている二人。
(だれもこちらを見ていませんように。)
しかしすぐにレティシアは絶望した。
覆面の男を拘束するルシアン。
そして、その上に剣を突きつけたまま立つアルフォンスがいた。
二人とも、こちらを見ていた。
(ああ、見られたのね)
───絹糸のような淡い銀髪。
───紫の瞳。
完璧な公爵令嬢、レティシア・ヴァレンティーヌ。
かつてそう呼ばれていた自分がいた。
失敗を許されない日々だった。
常に優雅で。
常に美しく。
常に完璧でなければならなかった。
大きな胸を隠すのも、その頃についた癖だ。
それがほんの一瞬の出来事によって暴かれてしまった。
ルシアンは気まずそうに視線を逸らしている。
だが、アルフォンスは違った。
───ルーヴェル帝国第一皇子アルフォンス。
レティシアが十年以上想い続けた人。
皇太子妃候補だった頃の婚約者。
そして、一年前に失った相手。
そんな彼が。
信じられないものを見たように、こちらをみている。
(もう私は皇太子妃候補じゃない)
そう何度も言い聞かせた。
───なのに。
レティシアはフゥと溜息をついた。
胸元を手で隠しながら言った。
「ルシアン、あなたのその上着を貸して」
ルシアンは言われる通りにすっと自分の上着を脱ぎ、レティシアに貸し出した。
レティシアはじっと上目遣いにルシアンを見つめた。
「見た?」
レティシアが低い声で問いかけた。
「見た。...てか、何でそこ狙われる?」
「ううん、これはたまたまでしょ!?」
「レティの好きな乙女本みたいな展開だった...おっと」
ルシアンの言葉にレティシアはカッと顔が赤くなった。
(なんで乙女本好きって知ってるのよ...)
それもまた、レティシアが誰にも明かしていない秘密だった。
(は、はずかしすぎる!)
「え!?乙女本...ちが、わたしそんなの読まないし!え、なんで知ってるの!?あ!違う!読まない!」
恥ずかしさのあまりルシアンをポカポカ殴るレティシア。
「ごめんごめん」
ルシアンはレティシアから逃げながらレティシアに問いかけた。
「それよりご挨拶は?良いの?」
レティシアはハッとしてアルフォンスの方を見た。
(いけない。つい幼なじみのルシアンの前では素の自分が出てしまうわ)
アルフォンスの下にいる覆面の男はすでに気を失っているようだった。
こちらを見て固まっているアルフォンス。
(1年ぶりですね、殿下...)
忘れたつもりだった。
なのに、胸が少しだけ痛む。
レティシアはアルフォンスの方に向かった。
そして帝国式の丁寧なお辞儀をした。
磨き抜かれたカーテシー。
レティシアのドレスはボロボロで血がついていた。
かつての豪華などれすではなかった。
それでも見事な上級貴族のお辞儀だった。
そしてレティシアはアルフォンスに微笑む。
「殿下、ご無事でしょうか」
アルフォンスは固まっていた。
沈黙。
アルフォンスの口が動く。
「……誰だ」
一拍。
「お前は、誰だ」
【主要登場人物です】
■ レティシア・ヴァレンティーヌ
この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫色の大きな瞳をもつ公爵令嬢。
未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”・・・だったが?
■ アルフォンス・ルーヴェル
ルーヴェル帝国の第一皇子で次代の皇帝として期待される存在。
金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。
■ ルシアン・エヴラール
隣国であり友好国であるラヴィエール公国の小公爵。レティシアの幼なじみ。
軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。
レティシアの本性を知る数少ない人物。




