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ラスボスに転生したら取引を持ち掛けられました!    ~転生後に推しが出来てもいいじゃないか!~  作者: 夕月


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第五十四話

「…ひとまず、この鬱憤は別に宛がうことにしよう。」

(鬱憤って言い切ったよ…)

ひとり言を切り上げたアンシュルはどこかヤケクソ気味に呟く。

個人的にはそれにツッコみたかったが、それをすれば間違いなく蛇を出す。

今はまだ、純粋な好奇心にかまけて居られる余裕はないことをアンシュルがひとり言を呟いている間に私は思い出したのだから。

「では…今後についてですが殿下はどのようにお考えなのでしょう?」

「メンシス国の王族についてはさっきも言った通り対応策がある。君がガルツ国で裁断権をもぎ取ってくれたおかげでね。」

「メンシス国の貴族の首でも手土産にするんですか?」

「そんな物騒なことはしないよ、穏便に済ませるさ。穏便にね。」

キラキラした笑みを浮かべているが、だいぶ腹黒いことを考えている気がする。

それでアンシュルの気が済み、尚且つことがうまく進むなら何の問題もないが、唐突にクーやレイが私にツッコむ時ってこんな顔を浮かべているのだろうかと思ってしまった。

綺麗なのに黒いって器用だ。

「では、私のほうではいかがいたしましょう?当初の予定とは大分違っていますが、私の妹となるのであれば殿下との接点も作りやすいですし。」

「そこはその…君にお願いしてもいいだろうか?代わりと言っては何だがメンシス国のいざこざは全て俺が引き受けよう。」

先ほどとは打って変わり、頬を赤く染めもじもじと言い淀む姿は見ていてとても微笑ましい。

加えて幼いがらもアンシュルは将来を約束されたイケメンだ、ハッキリ言って目の保養としか言えない。

「承知しました。ルナのことはお任せください、私が責任をもってお守りいたします。」

「頼む。というか、ルナだけじゃないからな?君自身のことも労わってくれ。相棒が俺やルナの為に自殺しかけただなんて金輪際、冗談でもごめんだ。」

「はい…」

それを言われるととても痛い、反省も後悔もしているから余計に。

絶望に飲まれていたとはいえガルツ国に発つ前にあれだけクーやアンシュルに言われていたのにかけらも思い出さなかった。

言い換えればそれだけ彼らが大切だったと言えなくもないが、それを今言ったら烈火の如く反論されそうなので口を閉ざす。

反省や後悔は次に生かすためにするのだから。

「そろそろ朝の様だ、家族公認の相棒となったことだしこれからは日中も連絡を取り合おう。もちろん、悟られないようにな。」

「はい。あ、殿下。」

「なんだい?」

「メンシス国もですがお母様のこと、よろしくお願いいたします。」

「…ああ、善処するよ。」

意識が浮上する際の白い光に包まれながら最後に見たアンシュルの顔は、苦々しく歪んでいた。



「んっ……」

夢の庵から起床して一番最初に映るのは、自室の天井。

飽きるほど見た筈なのに、何故か今日に限ってはとても新鮮に見えた。

一歩間違えれば、いや、一歩間に合わなければ私はこの光景を見ることすらできなかったかもしれない。

テラスから飛び降りて幸運にも一命を取り留めたとしても、医学が進歩していないこの世界では後遺症が残る可能性が高い。

着地体制次第ではあるものの、脳に損傷を負って植物人間になるか、足を損傷して一生寝たきりになるか、そのどちらかだろう。

尤も、どちらであったにせよ生きていると言う時点で奇跡なのだが、決して喜べはしなかったことだろう…周囲も、私も。

辿ったかもしれない未来を夢想しながら、深く息を吐き出す。

飛び降りなくてよかったのだと、あの時、クーが私の手を掴んでくれたことは正しかったのだと思う為に。

(また今日から、私は私のできることをやろう。)

願う未来の為に、気合を入れるように飛び起きるとシアが訪れるのを待った。



「おはようございます。お父様、お兄様。」

「おはよう、メリンダ。」

「よく眠れたかい?」

「はい。」

朝食の席には既にお父様とお兄様の姿があった。

いつもなら一緒に居るはずのお母様はいない、アンシュルが言った通り王宮に引き留められている様でお父様が疲れたように息を吐いた。

だが、いつもとの違いはそれだけではない。

席が一つ、多いのだ。

「おはよう、ございます。」

おずおずと現れたのは、令嬢に相応しい装いをしたルナだ。

違和感なんて欠片もない、むしろ平民の恰好の方が異常だっただと思えるほどにしっくりくる姿に思わず手を合わせながら、この世界に転生して何度目になるか分からない程に感じたカメラを再度切望する。

「おはよう、ルナ。」

「おはよう、そして初めましてかな。僕はエリック、君の義兄だ。どうぞよろしく。」

「ルナと申します。よろしくお願いします、エリック様。」

「おっと、僕は義理とはいえ君の兄となったんだ。様だなんて他人行儀は悲しいな。」

「!はい、エリックお義兄様。」

(う、麗しいぃ…)

混ざり物のない純度百パーセントの貴族のやり取りに感動する。

淑女修行で様々なお茶会に出席してきたが、これほどまでに微笑ましい光景には終ぞお目にかかれたことがない。

必ずどこかしらに嫌味だの妬みだの嫉みだのがついてくるのだ、貴族という立場上仕方ない部分もあるのだろうけれどこれ程までに穏やかな光景を見るとアレらが如何に荒みきった光景だったのかが浮き彫りになる。

(全部こんなだったらもっと世界も優しくなるだろうに…)

「あの、メリンダ様…」

「ハッ…失礼しま…いえ、失礼。おはよう、ルナ。私の事もメリンダ様ではなく、姉と呼んでくれると嬉しいわ。」」

「!!はい!おはようございます!メリンダお姉様!」

(ま、眩しいぃ――!!)

発光しているんじゃないかと思う程の笑顔を向けられ、思わず目を細めてしまう。

この世界に聖女はいないが、この輝きを前にしたら邪気も穢れも浄化されるのではなかろうか。

現に、私が昇天しかけているのだから。

「本当はにも紹介したかったが王妃様が離してくれなくてね。もう暫く後になるが、君の義理の母となる人だと思っていてくれ。」

「はい、公爵さ…いえ、お義父様。」

「ふふっ、何ともおもがゆいものだね。では、そろそろ頂こうか。折角の料理が冷めてしまう。」

「「「はい。」」」



終始和やかな雰囲気で朝食は終了し、その後は講義の時間。

私の妹として迎えられたからにはルナもある程度の教育を受ける必要があるが、ルナの知能指数ならば数日あれば私と同レベルの授業を受けられる事だろう。

ルナが平民だと思っていた時に仮住まいで文字を一日で覚えたという偉業があったが、後から聞けばメンシス国である程度は習っていたらしい。

とはいえ、メンシス国とポロス国では言語は少しだけ違うので話すことはできても書くことは少し苦手だったと言うのだから驚きだ。

苦手だったものを一日で克服してしまったのだから。

「とはいえ、詰め込めるからと言っていきなり詰め込むのも毒ね。ルナにはルナのペースってものがあるんだから。」

「あの、私はご厄介になっている身なのですし、勉強は苦ではありませんので大丈夫ですよ。」

「勿論、貴方の地頭の良さは理解しているわ。だからこそ、座学だけでは勿体ないのよ。」

「?」

「せっかく公爵家にいるのだから、あそこじゃ作れなかったものを作る絶好の機会じゃない。」

「!!」

ルナの性格上、環境に甘えて怠惰に堕ちるということは考えにくい。

むしろ、根を詰めすぎて体を壊す心配すらあった。

ならば私がすることは、適度にガス抜きの場を設けること。

(それに、うまくすればアンシュルと親密度を上げる場面に使えるかもしれないしね!)

「と、言うことで。レイ。」

「なんでしょう?」

「今日から貴方をルナ付きの従僕に任命します。お父様にも許可はもらっているから、堂々とルナの傍にいられるわ。」

「!!」

「だから、ルナが頑張りすぎて私との約束を反故しないようにしっかり見張っていてね?」

「拝命いたしました。しかと、お役目を全うして見せます…今度こそ。」

その場に傅き、首を垂れるレイにルナも穏やかに微笑む。

本当は私やお父様がこんなことを言う必要はないのかもしれないが、ここはメンシス国ではなくポロス国であり、ポロス国の公爵家の中でもあるのだ。

お父様の統括領域で身柄を預かっている以上、最低限の体裁は保たなくてはならない。

それによって多少の不自由は強いてしまうことになるからこそ、出来る限り二人の心に寄り添いたいとお父様にお願いしたのだ。

尤も、お父様もそのつもりだったようで一も二もなく許可してくださった。

「お嬢様。講師の方がお見えです。」

「ありがとう。それじゃあルナ、行ってくるわね。」

「はい!行ってらっしゃいませ、お姉さま。」



メリンダとルナが穏やかな一時を過ごしている頃、オートクチュール公爵家の門前には一台の馬車が用意されていた。

家紋はないものの、上等の馬車の前にはエリックが執事長と共に立っている。

「それじゃあ行ってくるよ。僕が留守の間、くれぐれもメリンダをよろしくね。」

「かしこまりました。どうかお気をつけて、坊ちゃま。」

深くお辞儀をする執事長に見送られながら、エリックは馬車に乗り込みオートクチュール公爵家を後にする。

彼がこれから向かうのはポロス国とメンシス国の国境だ。

昨日の父から命じられた時点で、エリックはミシェルをメンシス国に向かわせていた。

戦闘は勿論のこと、諜報においてもミシェルはとても優秀だ。

加えて、今回は王家からも援軍を用意してもらっているので本来ならエリックまでもが赴く必要はない。

それでも、エリックは自分の目で見定めたかった。

己の妹が命を懸けて守ろうとした少女の故郷を。

(いや、それもある意味建前なのかもしれないな。ただ自分の妹の気持ち一つ分からない愚かな兄だと思いたくないってだけで。)

メリンダが生まれた日のことを、エリックは昨日のことのように思い出すことができる。

小さくて、ふわふわで、砂糖菓子を詰め込んだみたいに愛らしい妹の誕生を両親以上に喜んだ。

この子は僕が守るのだと、怖い思いも寂しい思いも悲しい思いもさせないと幼心に誓った。

それなのに、気づけば妹は心を閉ざしていた。

最初は勘違いだと思った。

感情の制御が上手くいかなくて気持ちをうまく表現できていないだけだと思っていた。

でも、違った。

メリンダは侍女の前だけは無邪気に笑っていたのだ。

どうしてその笑顔を僕に向けてくれないのか、何か気に障ることでもしてしまったのか、当時はとても悩んだがメリンダの三歳を祝う誕生会を境に少しだけ変化があった。

静かな凪の様だった妹が、拗ねたのだ。

理由を聞けばさもありなん、非は完全に王妃と母と分かるので当然、妹の味方をしたがきっとそうでなくともエリックは妹の味方をしたかもしれない。

それほどまでに、感情を見せてくれることが嬉しかったのだ。

それ以降もメリンダは消極的だけれど感情を見せてくれるようになった、大抵は子供らしからないほどしっかりとしているメリンダだがふと瞬間に見せる幼い態度に愛おしさが募った。

このまま笑いあえる兄妹になりたい、そう強く思った。

だがその思いは、最悪の形で引き裂かれた。



「エリック様!!」

「ど、どうしたんだ?」

あの日、エリックは自室で自習していた。

何やら急用とかで講師が来られなくなったからだ。

あまりないことではあるものの全くないという程ではないので、このまま静かに今日が終わるのだろうなと思っていた所に普段絶対に見られないほど慌てた様子のミシェルが文字通り駆け込んできた。

オートクチュール公爵家が敵襲にあったとしてもここまで慌てることはないであろう従僕の姿に、エリックの身に緊張が走る。

一体何が起きた?災害でも発生したか?

そんなエリックの予想は、どれも当たらなかった。

「お嬢様が…お嬢様が身投げを…!!」

「!?」

身投げ?メリンダが…?

告げられた言葉が信じられなくて、思考が停止する。

メリンダとは誰だ?

―僕の妹だ

身投げとはなんだ?

―自殺行為だ

自殺とはなんだ?

―己を殺すことだ

殺すとはなんだ?

―死ぬことだ

「一体どうして!?何がメリンダをそうさせた!!!」

数秒後、ようやく思考が動き出すと叫ぶように問いただす。

メリンダはアンシュルに恋慕していると聞いていた。

ヴェトヴィール公爵夫人がそう言っていたと、外ならぬエリックがそう両親に報告したのだ。

あのガーデンパーティーの折、メリンダが別の招待客の元へ行っている間に一度だけヴェトヴィール公爵夫人が戻ってきたのだ。

その際に言われた、あの反応は少なからず意識しているだろうと。

謙虚なメリンダのことだからその場では肯定しなかった、けれど確かにヴェトヴィール公爵夫人がアンシュルがメリンダの事を気に入っていると話した時、煮え切らない笑みを浮かべていた。

そしてなによりアンシュルと邂逅してから淑女教育に一層身を入れ始めたことからそうなのだろうとエリックすらも考えたから両親にもそう告げた。

両親はとても喜んだ、エリックと同様に両親も心を閉ざしがちなメリンダの望みを知ることができて嬉しかったのだ。

これでやっとメリンダが喜ぶことをしてやれる、侍女にしか向けないあの無邪気な笑顔を向けてくれる、その一心で両親はアンシュルとの婚約話を掴み取った。

エリックもまた、それが妹のためになると信じて手を貸した。

だというのに、何故メリンダが身投げなどする必要がある?

(どこかの家が横やりでも入れてきたか?でもそれを危惧して父上がメリンダを軟禁したんだ。暗殺じみた賊が入ってきた?だがそんな報告は一切ない…一体どうして…)

疑問はあるものの、それを凌駕する怒りにどうにかなりそうだった。

メリンダを、妹を追いつめた者を八つ裂きにしてやりたくてたまらなかった。

だがその怒りの炎は、一瞬にして冷たく凍てつく。

「…アンシュル殿下との婚約を拒絶するあまりに、身を投げられたそうです。」

「……は?」

殿下との婚約を拒絶して身投げをした?どうして…メリンダは殿下を慕っていたのではなかったのか?

理解できない事実にエリックが狼狽えていると、同じく慌てた様子のメイドがミシェルに何事かを告げる。

「!詳細に関してアンシュル殿下からご説明があるとのことで旦那様がお呼びです。至急、応接室に来るようにと。」

「…ぁ、ああ…」

それを言うだけが、精一杯だった。



その後、アンシュルから告げられたのはメリンダがアンシュルとルナという少女の仲を守るために奮闘していたという真実だった。

魔力欠損になりかけたのもそのせいであり、しかもエリック達の知らない所で不本意ではあるもののガルツ国に囮となりに赴いたという無茶までしていた。

そこまでして守ろうとした二人の仲を、外でもない自分自身が壊そうとしたことにメリンダは絶望したのだ。

言いたいことは山ほどあった。

いくら殿下とはいえ、五歳の子供になんて危険なことをさせるのかと。

だがそれよりも、メリンダをそこまで絶望させてしまう要因となった自分自身が許せなかった。

(あの時、僕が両親にヴェトヴィール公爵夫人の戯言を報告しなければ…)

よくよく考えればメリンダが初めて感情を見せた時、エリック達に対して拗ねた要因は騙し討ちのようなお見合いだった。

本当にアンシュルのことを慕っているのなら、拗ねる必要などどこにもない。

淑女教育に身を入れ始めてからもメリンダはアンシュルのことを一言も口にしなかった。

相手が王族である以上、婚姻関係に至るには家長の采配が必要になるのだから本当に慕っているのなら少しでも口にすべきなのにも関わらずに。

賢いメリンダがそんな事を失念するはずがないのに、その全てを見て見ぬふりをしてこれがメリンダの幸福なのだと思い込んで、暴走した。

(何が守るだ…僕が、メリンダを殺しかけたようなものじゃないか…)

それからも告げられる真実に打ちのめされながら、せめて涙を流さないようにするのが精一杯だった。



「エリック様、到着しました。」

「!ああ。」

苦すぎる過去に思考を飛ばしていると、いつの間にか目的地に到着していた。

ここで一旦、補給と休息を取りつつ王家からの援軍と合流するのだ。

一体誰が来るのかは分からないが、醜態は晒すまいと気合を入れると援軍が到着したとの知らせを受けた。

「入ってくれ。」

「失礼いたします。」

「!?」

「殿下より要請を受けてまいりました。ポロス国第一騎士団副騎士団長、フォレ・オルセンです。どうぞよろしく。」

「お、おま…」

「へへっ、驚いただろう?殿下にお願いしてギリギリまで黙ってもらっていたんだ!」

悪戯が成功したように笑うフォレに、いつもなら噛みつく所だ。

それなのに、噛みつき方を忘れたように体は動かず、ただ言葉を飲み込む。

まるで、それが自分にはお似合いだと言われているかのように。

「…エリック。」

「…なんだ。」

「自分を責めたって意味ねぇぜ。」

「!お前に何が分かる!!僕が両親にあんなことを言わなければメリンダは身投げなんてしなかった!いや、それ以前に絶望を味わうことすらなかったんだ!!」

「確かにきっかけはお前だったかもしれないが、時間の問題だったと思うぜ。」

「はぁ?!」

「オートクチュール公爵令嬢はアンシュル王子殿下に恋慕している、またはアンシュル殿下がオートクチュール公爵令嬢を気に入っているって噂が国王派に出回ってるからな。出所、思い当たらねぇか?」

「まさか…王妃…?」

「正解。」

取り乱し、八つ当たりのように叫んだエリックにフォレが冷静に諭す。

エリックが両親に告げなくとも遅かれ早かれこの事態は起こっていたことだろう。

いくらメリンダが疑似魔物暴走を起こしたとしても、その不安を利用すれば婚約を締結させることなんて造作もない。

ただそれには、その不安を解消できると思わせるだけの追い風が必要だ。

それを、王妃が手を回して吹かせようとしていた。

追い風が大きくなればなるほど、エリックが言わずとも両親の耳に入るように。

「酷なことだが、メリンダ嬢が殿下との婚約を拒絶する限り今回のことは起こっただろうよ。なら、お前のすることは後悔することじゃないだろ。」

「…」

「幸運なことにメリンダ嬢は無傷で生きている。お前のすることはその幸運を台無しにしないことじゃないのか。」

まっすぐこちらを見つめるフォレの視線に、ここまで勇気づけられる日が来るなんて思いもしなかった。

頼もしいと思う一方で酷く腹立たしい。

そう思わせるフォレにも、そう思う自分にも、一発拳を叩き込みたくて堪らなくなる。

でも、その拳は収めておこう。少なくとも、今は。

「……お前に言われずとも、わかっている。」

「そうかい。」

ぶっきらぼうに告げた言葉に、仕方ないなと言わんばかりの声色で返される。

それさえも腹立たしかったし、噛みつきたかったが何とか収める。

どんなにムカつこうとも、恩を仇で返す趣味はない。

「それよりも、さっさと本題に移るぞ。ただ暇を潰しに来たわけじゃないだろ。」

「おっ前なぁ…これでも俺は多忙なのよ?ちっとは労わってくれてもいいんじゃねぇの?」

「無駄口を叩くな、僕は一刻も早く吉報を届けたいんだ。」

「へいへい。」

恩を仇で返す趣味はない、ないがやっと調子が戻ったなと言わんばかりの生暖かい視線には思わず拳骨をお見舞いしてしまった。

ま、後悔はしていないが。

読んでいただきありがとうございました!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。

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