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ラスボスに転生したら取引を持ち掛けられました!    ~転生後に推しが出来てもいいじゃないか!~  作者: 夕月


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第五十一話


─ここは、どこだろう。

酷くぼんやりしているけれど、温かくて無性に安心する。

ずっとここに居たくて、手を握りしめる。

何もないはずなのに、握りしめた手には何かを掴んだ感触がしてまた安心する。

ここなら大丈夫、ここに居れば問題ない。

確証も、確信も、根拠もない、なのに絶対的な自信がある。

ここに、私を傷つけるものはない。

ここに、私が傷つけるものはない。

なら、ずっとここに居よう。

そう思った瞬間、意識が引っ張られる。

─嫌、嫌だ!!ここから離れたくない!!

意識を引きずる何かから逃げようと抵抗するが、全く効果がない。

それが悲しくて、なおも抵抗していると私を酷く安心させた温もりが全身を包む。

安心しろと、大丈夫だと言っている様でそれが、無性に怖くなる。

立ち上がろうと、思えてしまうから。



「……んっ…」

「!お嬢様!お気づきになられたのですね!!」

「シア…?」

目を開けると、そこは自室だった。

私を覗き込むシアは、私が目覚めたことで安堵した様だった。

だが、ここで疑問が上がる。

私は、今まで何をしていた?

(確か、お父様から婚約の話を聞いて、アンシュルとルナの幸せを邪魔してしまうことに絶望して、身投げまがいで傷を作ろうとして、寸での所でクーに止められて、空中散歩で泣かされて……それで?)

それから、どうなった?

クーに抱きかかえられながら泣き喚いた所までは覚えているのだが、それ以降の記憶がさっぱりない。

だが、腫れぼったく感じる瞼から泣き疲れて眠った私をクーが送り届けてくれたのだろうと推察すると同時に、酷い醜態を晒したと項垂れた。

これまでの努力が全て無駄になったことに絶望していたとはいえ、短慮にも程がある。

途中から身投げして体に傷を残すぞーという考えになっていたが、身投げすれば体の傷よりも後遺症を負う可能性の方が遥かに高い。

あの時の私の希望通りにそれによって婚約が白紙に戻ったとしても、後遺症持ちでは腫物扱いが目に見えている。

それでも完全お荷物状態でも置いてくれればまだいいが、そんな娘なんてさっさと修道院に送ってしまうに決まっている。

いや、修道院でもまだマシな方か。

修道院に送る振りをして暗殺だなんてこともあり得るのだから。

(クーの言った通り、ぐちゃぐちゃをスッキリさせて考えた方がよほど建設的ね。)

「お嬢様、お加減はいかがでしょうか?」

「平気、と言いたいところだけどお水を貰えるかしら?」

「はい、こちらに。」

思う存分泣いたからだろうか、酷く喉が渇いていてコップに注がれた水を三杯程飲んだところでようやく一心地着いた。

気分は未だどん底だけれど、思考はあの時よりクリアだ。

なら、やることはただ一つ。

現状をどう打破するか。

(死ぬことは最終手段で取っておくとして、決まってしまったものは仕方がない。白紙に戻すことができるのが最良だけど、王妃が関わっているみたいだしおそらく無理ね。なら、私の有責で婚約破棄が一番手堅い。)

私の有責での婚約破棄、つまり私がざまぁされればいい。

多少はオートクチュール公爵家にも傷がつくだろうが、そこはアンシュルと相談して最小限に留められる策を練ろう。

最近は軟禁生活だったが、その前はある程度の権力を使って我を通していた時期があるのだ、悪評を立てたい者には好都合だろう。

そう考えれば小説のメリンダは第一章のラスボスだったけれど、この世界の私は悪役令嬢になる運命だったようだ。

(そうなればルナにも根回ししておかないといけないわね。ルナに意地悪なんて本当は死んでも嫌だけど…というか、王族に不敬を働く時点で私の首飛ばない?)

「お嬢様…」

タイミングを合わせてもらって平手打ちをする振りをすれば一発で婚約破棄に持ち込めるのでは?と考え始めた所で、シアが申し訳ななそうに声をかけた。

今まで、私が考え込んでいた時は声をかけなかったので素直に驚くがシアにこんなことをさせられるのは一人だけであり、それに思い至った時点でどん底だった気分はさらに底にめり込んだ。

「なに?シア。」

「…旦那様が、お呼びです。」

(やっぱりね。)

泣き疲れてどれ程眠っていたのかは分からないが、令嬢にあるまじき態度で両親に暴言を吐いたのだ折檻の一つや二つある事だろう。

出来れば痣ができない奴がいいなぁ、いや、痣の方が化粧で誤魔化せるからむしろ都合がいいかもしれないと考えている内に執務室まで到着してしまった。

「旦那様、お嬢様をお連れしました。」

「入れ。」

「失礼いたします。」

入室の挨拶をするシアの後ろで、痛み止めを飲んでくればよかったなと内心、他人事のように呟いた。



「お呼びでしょうか、お父様。」

「メリンダ…!」

せめて礼儀はとカーテシーを行おうとするが、すぐに押さえつけられる。

鞭とかはやめてと身を固くするが、予想した痛みは一向に来ない。

というか、押さえつけられていると言うよりこの体制はむしろ、抱きしめられていると言った方が適切だろう。

(…なんで?)

「あの、お父様…?」

「すまなかった、メリンダ…何も知らず、お前を追い詰めてしまった…」

「ぇ…ぁ…っと…」

一体全体どうしたんだ、父よ。

さっきまでと態度がまるで違うぞ。

ああいや、娘の幸せを願うと言う点については変わっていないのかもしれないがだからこそここは怒る場面ではないのか?

令嬢の幸せの象徴たる王族との婚約に対してあんな暴言吐いたのだぞ?折檻がなかったとしても窘める言葉とかあってしかるべきだろう。

「ど、どいうこと、で、しょう…か?」

「全て聞いたよ。お前が、アンシュル殿下に恋慕しているわけではない事も、その為に身を粉にして努力していたことも。」

「!?」

え、全て?

全てってどこまで?

本当に本当の全てって事?

………WHY?!

あまりの衝撃に固まっているとお父様は余計に心配したのか、私を抱き上げると近くのソファに降ろしてくれた。

まるで壊れ物を触るかのような丁寧な仕草に、ああ本当に全て知っているのかと悟る。

だが、悟ったとしても納得するかは別だ。

私が眠っている間に何があったと言うんだマジで!!

「殿下が、全てを話してくださったんだ。」

「殿下が!?」

え?!いつ来た?!

いや違う、論点はそこじゃない。

どうしてアンシュルがそんな行動に至ったのか、問題はそこだ。

アンシュルだって私との関係を知らせるタイミングは慎重に選ばなければならないことは承知している、それなのに今明かした理由はなんだ?

考えられるとすれば、アンシュルの方にも私との婚約話が行った事だろうか。

国王直々の御達しならばいかにアンシュルと言えど反発することは難しい、でももし王妃からの通達だったらまだ抵抗する余地はあるかもしれない。

「……もしかして、王妃様を説得する手伝いをお母様に依頼するためですか?」

「すごいね、流石は私の娘。いや、殿下の相棒と言った所かな。」

「そんなことまで言ったんですか殿下は…」

事実だが、何も両親に言わなくてもいいじゃないか。

いや、恋愛感情が皆無であることを伝えるためにわざと明かしたのだろうか?

(いや、ただ言いたかっただけな気がする。)

「どうかしたかい?」

「いえ、何でもありません。という事は、私と殿下の婚約は白紙になったのでしょうか?」

「それなんだが…すまない、王家とオートクチュール公爵家が婚約を結ぶという書面を王妃様が議会に申請して認可されてしまったんだ。」

「はぁ?!」

この国では王族及び貴族の婚約には議会の承認が必要になる。

その婚約が国や相互に不利益を齎さないかを確認するもので、審査は地位が高くなればなるほど厳しくなるし審査期間も長くなる。

だというのに、王妃が独断で提出した書類が認可されてしまったのだ。

「で、でもその書類には確か婚約を結ぶ者の直筆のサインが必要だったはずですよね!?」

「情勢や権力関係で王家と婚姻を結ぶのはオートクチュール公爵家しかないが当事者がまだ幼いことから、先に王家と公爵家の繋がりだけを結んだと言うのが言い分らしい。」

「なんてめちゃくちゃな…」

そこまでしてお母様と家族になりたかったのか、あの王妃は。

国の運営や政治に関しては有能なのかもしれないが、性格に関しては難があり過ぎる。

いや待てよ、まさかとは思うがその感情ラブの方ではないよな?

前世の頃からそういうことに偏見はないし、当人同士が納得した上で周りが祝福するならいいんじゃないかというスタンスを崩すつもりもないが、実害が出るのであれば話は別だ。

(流石に国のナンバーツーを暗殺するのはヤバイよな…国外追放とかじゃなく物理的に首が飛ぶけどこのままじゃお母様の身に危険が…というか、そういう事ってできるのか?)

「メリンダ?物騒な表情をしているが…」

「ハッ……何でもありませんわ。」

ここにクーやレイが居たらなに不穏なことを考えているんだと言われた事だろう。

でももし言われても今回は同意したかもしれない。

実害をもたらすヤツに、容赦はしないのだ。

「では、殿下はなんと?」

「議会が認可してしまった以上、撤回は難しい。だから、婚約はするけどそれは殿下とメリンダではない事にすることにしたんだ。」

「そんなことが可能なのですか?…いや、まさか…」

「ふふっ、私の目は節穴だったみたいだね。まさか、我が娘がこんなにも賢い事を見抜けなかったんだから。」

悪戯が見つかった子供の様な無邪気な表情を浮かべているお父様。

もし、私の想像通りだとしたらいかに公爵家とはいえかなり面倒くさい事態、いや手続きをしなければならなくなる。

書庫で偶然その類の書物を読んだが、一度では理解できず何回も読み込んでようやく触りだけ読み解くことができたのだ。

それをこんな短時間で終わらせられたというのだろう?

「では、やはり……あの方を、迎えるのですか。」

「ああ。今、レイに迎えに行ってもらっている。あの方にとってもその方が都合がいいだろうからね。」

「……よく、こんな短時間で通りましたね…」

「面倒だけれど、通す方法がない訳じゃないからね。」

(お父様が、黒い…)

ニヒルな笑みを浮かべるお父様、そんなお父様が通したのは王族の養子縁組。

平民や貴族の養子縁組とは規模が違うので、当然複雑な申請が必要になる。

というかそもそも実例が極めて少ない為、現在の議員や役所職員はその存在自体を知らない者が殆どだろう。

しかもルナは他国の王族だ、複雑さはより増す。

どれほどかと言うと、それを通してしまうお父様の手腕に感嘆すべきか、恐怖すべきか、一瞬悩む程だ。

「とはいっても、完全申請じゃないからこそできたことだけどね。ま、ここは追々説明するよ。それよりも、もっと大事なことを聞かないといけない。」

「大事なこと?」

「可能な限りメリンダの努力が水泡に帰さないようにしたが…まだ、死のうだなんて思っているかい?」

「!!」

(なん、で…そこまで知っているの…)

自室に駆け込んで、ベッドに蹲って嗚咽を零す姿はシアとレイには見られているが身投げの場面はクーにしか見られていない。

泣き疲れた私をベッドに寝かしつけている間にアンシュルが来たとしても、情報を共有する時間なんてなかったはずだ。

それなのに、何故アンシュルは知っていたのか?

私みたく夢を繋げた可能性もあるが、それでも時系列が合わない。


 『大丈夫だ、お嬢は何も壊さない。俺が壊させない。』


(まさか…)

「メリンダ?」

「!ぁ…はい、その…ご心配をおかけしました。いえ!それだけではありません!令嬢としても、娘としても、あるまじき言動をいたしました。本当に、申し訳ございません。」

怒涛の出来事に失念しかけていたが、誰かがフォローしてくれたとしても私が非礼を働いたのは事実。

しかも心からの善意を踏みにじった形なのだ、仮にそれが正しいと誰かが言ったとしても私自身が呑み込めない。

だから、許してもらえなかったとしても私の区切りの為に頭を下げた。

「顔を上げてくれ、メリンダ。確かに、貴族令嬢としては褒められた言動ではないが私は少し嬉しかったんだ。」

「え?」

「メリンダは生まれてから今日まで、殆ど我が儘というか、我慢ばかりだった。自覚あったかい?」

「そう、でしょうか…?」

「やはりなかったか。」

私が私になってからならまだわかるが、お父様はメリンダがメリンダの頃からそうだったという。

転生した際の弊害なのか、メリンダがメリンダであった頃の記憶は殆ど薄れていて今ではもう、思い出す事すら難しい。

それでももし、お父様の言う事が本当だとしたら異常としか言いようがない。

子供、しかも二歳という幼さなら我が儘を言ったり癇癪を起したり、感情の発露があってしかるべき。

それがないのだ、自覚ある無しの問題ではない様にすら感じる。

「最初は喜んだよ、エリックがやんちゃだったこともあって手がかからないいい子だって。でも、違った。私達が喜ぶから幼い君は口を閉ざしていただけだったんだ。それに気づいた時には既に、メリンダはシアにしか笑いかけなくなっていた。」

「!」

「それでも今ならまだ挽回できると思っていた。家族なのだからきちんと向き合えばきっと分かりあえると、でも、それは驕りだった。その他大勢が望むからと言ってメリンダが望むとは限らないのに私達は一番手堅い方法を放棄したまま進んでしまった。」

「お父様…」

「向き合うと言いながら結局、私達家族は誰一人メリンダを見る事をしていなかったんだ。ただ一言、聞けばよかっただけなのに。」

「っ…」

寂しそうに微笑むお父様、一体どれほどこんな表情を浮かべさせてしまったのだろう。

転生した当時よりかはマシになっているとはいえ、未だに私にとっての家族は前世の家族だという認識が強い。

情があるだけの他人としか思えないのが今世の家族、と言うのが率直な感想であり正直な想いだ。

だけど、いやだからこそなのか、この人にこんな表情をさせたくないと心の底から思う。

(もしかしたら家族とか、家族じゃないとか、思うとか思えないとかそんな事、最初からうだうだ考える必要なかったのかもしれないな…)

家族だろうが他人だろうが、幸せになって欲しいと願う人には変わりないんだから。

「私も、言えば、よかったのです…お父様にも、お母様にも、お兄様にも…私の、本当の気持ちを。淑女に、令嬢にあるまじき言動だとしても……か、家族、なのですから…」

「メリンダ…!」

しどろもどろに告げる私を、お父様が優しく抱きしめてくれる。

その温もりはクーとは少し違うけれど、とても安心すると同時に酷く懐かしく感じる。

私が私になってからお父様に抱きしめられたのはこれが初めてにも拘らずに。

(これは”メリンダ”の記憶、いえ、感覚なのかしらね…)

両親を喜ばせることに必死な小さな女の子が、どこかで泣いているような気がした。

読んでいただきありがとうございました!

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