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ラスボスに転生したら取引を持ち掛けられました!    ~転生後に推しが出来てもいいじゃないか!~  作者: 夕月


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第二十五話

「メリンダ!!目が覚めたのね!!」

「よかった…本当に心配したよ…」

「メリンダ…」

「ご、ご心配をおかけしました。」

涙目のお母様に抱きしめられ、お兄様に頭を撫でられ、お父様に手を握られる。

二日も眠り続けた娘の目覚めを本当に喜んでいると分かる光景は、傍から見ればとても感動的で胸が暖かくなることだろう。

当事者である私だって、家族の気持ちは素直に嬉しい。

しかし、そんな私の顔には疲労の色があった。



あれからレイの説得の甲斐あって落ち着いた頃、今度はシアが現れた。

といっても、レイと違ってきちんとノックして入室の断りを入れたのだがその後が大変だった。

私の姿を見た途端、冷静だった表情がみるみる崩れそのまま私に駆け寄ってきた。

手を取り、心配したと、目覚めてよかったと、馬車で見せたような暴走と似た様な勢いで浴びせられる言葉に私の頭はぐわんぐわんと揺れる。

心配をかけたことは分かっていたが、何よりシアとミシェルは目の前で私が消えるのを見ているのだから他のよりも受けた精神的ダメージはかなりのものだろう。

だからこそ甘んじて受け入れるべきであることは分かっているのだが、これ以上されるとまた意識を飛ばしかねないと青い顔をする私に気づいたレイがシアを止めようと動いてくれた。

「シアさん!!ストップ!!ストップです!!お嬢様が瀕死です!!」

「ハッ!!お、お嬢様!!」

「し………ぁ…」

「お気を確かに!!お嬢様!!!」

「だからストップです!!」

だが、暴走したシアを上手く止めることができず私は何度か夢で見た花畑を起きながら見るという稀有な体験をした。


「申し訳ございません、お嬢様…」

「うん…分かってくれたならいいのぉ…」

小さくなるシアに青いかのまま頷く私は現在、ベッドと仲良くしている。

起き抜けに顔を青ざめさせる方が今は悪手だと思っていた結果がこれとは、いや、これに関しては私は悪くないのでは?

(いや、そもそもの問題が昏倒だから言い逃れはできないか…)

「シアさん。お嬢様がお目覚めになったことをお知らせしないと。」

「そ、そうですね。」

身の内でどこかぼんやりと思考する私をどう捉えたのか、助け舟の様にレイがシアを連れて退室してくれた。

僅かな間でも一人になれるのは今の私にはとてもありがたい。

もし今の私にゲーム画面の様なステータスが表示されるとしたら、HPのゲージは間違いなく黄色だろう。

(これから家族が来る…きっと、シアみたいに心配したと言って、レイみたいに怒ってくるんだろうな…それは仕方ない、私だってそうする。だから、受け入れて謝ってそれから……)


“――是非ともお取引させていただきたいです!”


(それから…手紙を書こう。)


そして、冒頭へと戻る。

一頻り喜びを分かち合うと、ベッドサイドにある椅子に腰かけたお父様が徐に口を開いた。

「メリンダ。今回、お前は確かに被害者だが自分がどういう状態だったのかきちんと理解しているか?」

「はい、お父様。レイから聞きました、私は魔力欠損で二日も眠り続けていたと。」

「お前が運び込まれた時、私もリサーナもエリックも生きた心地がしなかった。医者は意識さえ戻れば大丈夫と言っていた、しかし、彼の言葉を信じていないわけではないがだからと言ってすぐに安心することはできない。賢いお前なら分かるだろう?」

「はい…」

お父様の言っている事は理解できる。

私は前世の記憶があるが故に自分の精神年齢が五歳ではないこと理解しているが、それを知らない者からすれば私はまだ年端もいかない子供だ。

そんな子供が自分の意思ではないにしろ死にかける事故にあったのだ、子供を愛する心を持つ親ならば心配するのは当然だろう。

「お前が好奇心旺盛な子であることは分かっている。それでも暫くの間は外出を禁ずる、いいね?」

「はい、お父様。でも、でも一つだけお許し頂きたいことがあります。」

「なにかな?」

「お屋敷からはお許しが出るまで決して出ません、ですからその間の無聊を宥める何かを買い求める為に商人を呼びたいのです。」

「商人?」

「実は、先日のパーティーで交流を得まして。興味深い品を取りそろえていると評判なのです。」

「先日のパーティーというとレイティア子爵家かい?」

「はい。」

「その名なら私も聞いたことがありますわ。最近、頭角を現してきた商会だとか。」

「そうか。よし、許可しよう。」

「!ありがとうございます!」

(お兄様、お母様、ナイスアシスト!!)

内心でサムズアップしながら満面の笑みを浮かべる。

レイはともかく、シアの様子からかなりの心配をかけたことを察していたので完全に身動きが取れなくなった場合を想定しておいてよかった。

もしあそこで無駄なあがきをしていたらレイティア子爵家と取引をする機会さえ逃していたかもしれない。

婚約を保留にさせるための一手を打つためには、どうしてもレイティア子爵家と取引をする必要があるのだから。

それに、アレさえ完成してしまえばむしろ屋敷に軟禁されていた方が何かと都合が良いかもしれない。

素直に親の言う事を聞いた娘の反応に安堵しているオートクチュール夫妻とエリックの様子を見ながら、私はほくそ笑んだ。



「本日はお招き下さり光栄にございます。オートクチュール公爵令嬢。」

「こちらこそ来てくれて嬉しいわ。どうか楽にして頂戴。」

数日後、オートクチュール公爵家にレイティア商会が訪問した。

数人の商人とレイティア子爵、そしてガーデンパーティーでメリンダが助けたレイティア子爵令嬢という豪華な面々の登場に素直に驚いた。

公爵令嬢とは言え子供の招待なのだから、もう少し簡略的な感じで来るのではないかと思っていたのだ。

これは、アンシュルが教えてくれた裏事情が僅かながら漏れているのではなかろうか。

「取引の前にまずはお礼を言わせてください。」

「お礼?」

「先のパーティーで我が娘をお助け下さり、心より御礼申し上げます。」

「どうか顔をお上げください、レイティア子爵。私は私の為に行動したにすぎません、商家の中には決して褒められぬ行為で伸し上がるものもありますがレイティア子爵家は誠実な取引でもって販路を勝ち得ていらっしゃる。それは一重に子爵のお人柄とその手腕の賜物でしょう。」

「オートクチュール公爵令嬢…」

「素人である私には一目でその手腕を見抜くことは叶いませんが、レイティア子爵令嬢が、子爵のお人柄を継いでいる事だけはすぐに分かりました。」

あのガーデンパーティーでレイティア子爵令嬢を虐めていたのはミドル伯爵家。

伯爵という爵位こそあるが、決して裕福とは言えず辛うじてヴェトヴィール公爵家から招待状を貰う事が出来るぐらいの体裁を保っている家だ。

なんでもミドル伯爵家の中の誰かが必死になってやりくりしているお陰で、首皮一枚で踏みとどまっているとか。

そんな家が、格上であるヴェトヴィール公爵夫人主催のガーデンパーティーで不祥事を起こせばどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。

現に小説ではレイティア子爵令嬢はそれを利用してミドル伯爵令嬢を撃退していた。

しかしその結果、ミドル伯爵家は没落の憂き目にあいミドル伯爵令嬢を含めた全員が死亡してしまう。

本来なら被害者であるレイティア子爵令嬢が気にする必要はないのだが、気が弱く内向的な性格が災いしてか自分があの時声を上げなければミドル伯爵令嬢は死なずに済んだと自責の念に駆られてしまうのだ。

「あの時、私が介入せずともレイティア子爵令嬢ならば処理することが出来たでしょう。ですが、優しさ故にそれをなさらなかった。誰しもができる事ではありません。」

「!」

「その優しさを私が陰らせたくなかった、それだけのことです。」

優雅に、努めて優しく微笑めばレイティア子爵令嬢の瞳が潤む。

やはりあの時、レイティア子爵令嬢はギリギリまで耐えるつもりだったのだ、ミドル伯爵家を慮って。

ヴェトヴィール公爵家は馬鹿でもないし甘くもない、落ち目で未来も旨味もない伯爵家と新進気鋭で将来有望な子爵家なら後者を取る事をレイティア子爵令嬢は正しく理解していた。

そんな簡単な相手なら普通の貴族ならばここぞとばかりに相手の家を蹴落とそうとするのであろうが、レイティア子爵令嬢はそれを躊躇した。

良く言えば優しさだが、悪く言えば甘さだ。

陰謀と謀略が装飾品の様な貴族の世界は勿論、商人の世界であってもそれは弱点に他ならない。

もしかしたら、物語の作者はそんな弱点を克服させる描写としてミドル伯爵家を当て馬にしたのかもしれないが、今回私が介入したことでその全てが崩れた。

ヴェトヴィール公爵家と同格のオートクチュール公爵令嬢たる私が介入したことにより、ヴェトヴィール公爵家はレイティア子爵家を庇った発言が出来なくなった。

それをしてしまえばヴェトヴィール公爵家はオートクチュール公爵家の面目を潰す事になる。

私とアンシュルをくっつけたい国王派としては、貴族派に付け入らせる隙になりかねない軋轢を生みたくはないのでミドル伯爵家に関しても、レイティア子爵家に関しても口を噤む。

だから、私がミドル伯爵家に苦情を言わない限りミドル伯爵家が没落するという未来は来ないしレイティア子爵令嬢が自責の念に駆られてふさぎ込むこともなくなる。

まぁ、代わりにレイティア子爵令嬢は大切なことを知るきっかけを失うわけだが、それは私が補えばいいだけの話だ。

「ですがレイティア子爵令嬢、これだけは覚えておいてください。」

「?」

「貴女が本当に守るべき者は誰なのか、それを見誤らないでください。」

「!」

今回は小説知識とタイミングが上手く重なってくれたから手を出せたが、いつもそうとは限らない。

もしかしたら、今回以上の事が起こって彼女を酷く傷つけてしまうかもしれない。

それでも─

「だって貴女には、貴女を慮ってくれる素晴らしい方々いるのだから。」

「!はいっ…はい!」

私の言葉に感極まった様に瞳を潤ませながら、何度も何度も頷く。

確かに彼女は気が弱く内向的な性格ではあるが決して愚かではない、ミドル伯爵家の状況を冷静に分析する思考力も自分の立場と相手の立場を瞬時に理解する判断力だってある。

後は、彼女自身で立つだけの勇気だけ。

「しかと心に刻むんだぞ、アシュリー。」

「はいっ…お父様…」

涙ぐむ彼女を優しく撫でるレイティア子爵や見守る商人の方々を忘れなければ、きっと大丈夫だと願おう。


「…さて、そろそろ本題と行きましょうか。我が商会の中でも特に選りすぐりの品をご用意させていただきました。」

「まぁ!それは楽しみですわ!」

読んでいただきありがとうございました!

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