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トルバドーれ!  作者: 袴田八峰
第十六章「僕たちのひみつきち」

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三席


「そんでにぇ。お茶くんは女受けが悪いっていってたのにぇ。まあ、あんだけ男の子の感性で全振りならさもあらんにぇ」


 一番舞台併設の六歌仙専用談話室。


 紅茶にスコーンを嗜みながら、パウがほかの六歌仙たちにだる絡みをしています。


 「パウさんは作曲についてはさっぱりわからんけど、いい曲だとは思うんにぇ。だからミューに見てもらおうかと思ってにぇ」


 パウは【編曲】のミューチャーの袖を引きました。


 ミューチャー。三十五歳男性。人呼んで「眠らずのミュー」「彩の魔術師」「パッチワーカー」。


 自分の手に収まる曲ならば、一聴しただけで完成形が頭に鳴り響くという、天才型の編曲家。


 反面、手に収まらない曲ならどんなに大金を積まれても編曲しないなど、社会人としては不適合な面を持つ、芸術家肌の六歌仙。

 

 今日も寝不足が祟ってか、両目の下には一段と深い隈が陣取っています。


「見せてみろ。眠気覚ましにはなる。九十分後の編成会議にどうしても出る必要があってな。仮眠を取ったらもう今日は起きれないだろうから」

 

「ミューさん頭脂っぽいよー。ちゃんとお風呂入ってるー?」


 ぷかぷかぷー。指で鳴らす小型ラッパを弄びながら、わりとノンデリな助言をかましたのは【演奏】のユーメ。


 人呼んで「楽器オタクの極み」「楽器制覇者」そして「ゆるふわユーメさん」。

 

 いつも眠たげな糸目でにこにこおっとりなお姉さんですが、面白い楽器を目の当たりにすると糸目はギンッ!っと開き、オタク特有の好きな者早口ペラ回しを発動させてしまうお茶目な二十代女子です。

 

「俺の音楽の邪魔をするな!」


「こわーい」


「お、頭に曲が浮かんだにぇ?」


「三通り程な」


「歌詞も読んだ上でかにぇ?」


「当然だ。俺に文学のことはよくわからんが、字面通りなら問題ないはずだ」


「じゃあじゃあ……セットでこっちの歌詞だとした場合で、編曲たのむにぇ」


「ん…… 『お嬢様の朗読会』? 歌詞だけ渡されても、俺は作曲など出来んぞ?」


「曲は『僕たちのひみつきち』と同じなんだにぇ。こっちは女子会バージョンなんだにぇ」


 ひらひらと手を振ってやってきたのは、またもや六歌仙。


「成程。裏表。そういうコンセプトもあるのか」


 プロジェクトの構想を語るパウの背後から、近づく気配を隠さぬ足音が聞こえてきました。キビキビと歩き寄る、ツカツカというヒールの音。


「七番舞台でやりましょうよ。いい演出しちゃうわよ」


 真っ赤な口紅を塗ったくった大きな口の女は、おどけた態度で会話に混じりますが、その目は笑っていませんでした。


「でたな影番。金の匂いでも嗅ぎ取ったのかにぇ?」


 【革新】のアップル。

 

 人呼んで「ニューウェーブの旗手」「七番舞台の影の支配者」「ザ・ヒットメーカー」。


 元々はアーバン型のトルバドールとしてトップレベルまで駆け上がったのですが、人気絶頂の中、アイドルのプロデューサーに転身。大ヒットを連発し、その手腕でアイドルの立場を革新界のメインストリームにまで押し上げたのでした。


「えー、私はお金で動くことはないわよ」


「アポーさんは流行の最先端を走りたい人だもんねー」


「それと、楽しいこと! これってアレでしょ? セットで御売り出しして、男もしょうがねーけど女もしょうがねー。でも曲は一緒じゃん! 共通点あるじゃん! みたいな感じでプロモーションかけてくやつ」


「これだからプロデューサーってやつは油断ならねえにぇ」


「じゃあミューチャー。ノリがよくて、合いの手いれて一体感煽れるやつでお願い」


「ふむ。コンセプトは理解した。まあ、話題にはなりそうだ」


「依頼元はパウさんにゃ! しれっと人の企画奪おうとしてんじゃねーにぇ!」


「まあまあ、みんなで盛り上がってこー!」


「おー!」


「ユーメも話分かってないのにノリで腕あげんじゃねーにゃ! これはお茶くんとパウさんの共同企画だにぇ。部外者はすっこんでるにぇ!」


「いいから一枚かませなさいよ!」


「流行に敏感なあんたがそこまで気にするとはな?」


 ミューチャーの言葉に、アップルは不敵に微笑みます。


「ザ・ヒットメーカーの嗅覚を舐めないで。これはアタるわ、間違いなく。……私が演出できればね!」


「いやーだにぇー!」


「なんだとぅ!」


「わたしの出番はー? 今お勧めなのはヒドラリウムって子なんだけどねー?」


「今回特殊な楽器は使わん。珍楽器オタは回れ右だ」


「がーん」


 結局アップルはいっちょ噛みさせてもらえませんでしたが、この時に換骨奪胎した『紅白ソングバトル!』という大晦日フェスを成立させてやがてカーネギーの伝統行事化するのですが、これは別の話。



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