9.呪いの噂
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深濃町の定点よりX140Y-61の地点に「呪い」の噂あり
調査を開始せよ
「悪霊屋敷の呪い」は町の若者たちの間では有名だった。
「家に入ると不幸なことが起きる」。シンプルなものだった。
僕と時田衣名は屋敷の前にやってきた。
衣名は雰囲気に飲まれ、気を削ぎきられて無口になって固まっていた。
さて、「不幸」をどう証明するか?
ひとまずこの3日間、泊りがけで僕の日常で起きた出来事を衣名にスコア化して採点してもらった。
そして僕が屋敷に入り、のちに3日間また彼女に採点してもらい比較する。
同じ方法での調査を他の人員でも行い、採点集がビッグデータになれば比較はおのずと可能だろう。
僕は早速屋敷に侵入しようとした…ところで、道の向こうから誰かがやってきた。
僕達は咄嗟に隠れた。
やってきたのはどうやら若者のグループだった。肝試しに来たのだろう。
彼らは騒ぎ立てながら屋敷に入っていく。
僕達が見ていると…悲鳴を上げ、皆飛び出してきた。
「あれ絶対幽霊だよな!」「嘘!?私全然見えなかった!」と口々に言いあう。
僕は衣名をその場に待たせて出て行った。
彼らの輪の中に入っていき、うまく話を合わせて「友達として連絡を取り合うこと」を約束した。
衣名を待たせた場所に戻ると、彼女は暗がりに耐えきれなくなって気絶していた。
衣名が目覚めるのを待って、僕は悪霊屋敷に侵入することにした…ところで、今度はスマホに通知が来た。
先ほどのグループの一人だった。
「今事故りかけて何とか踏みとどまった みんな無事だけどヤバい お前絶対そこ入んな」
後ろからのぞき込んでいた衣名は今にも気絶しそうなほど顔が青くなっている。
…僕は直感に従って、急いで屋敷に侵入した。
ぐるりと屋敷を一周し、出てきてまた孤独に耐えられず気絶した衣名を背負って帰った。
それから僕の元にも若者グループの元にも、不幸が多発した。
いつの間にかコップが落ちていて朝起きたら床がガラス片まみれ、ガス漏れで大騒ぎ、トイレは故障、町でスリに遭いかける、等。
グループの方は嘘か本当か、目の前に電柱の作業員が落とした工具が落ちてアスファルトに刺さったという。
だが僕の意見は違った。
あの屋敷に入ってから「不幸」をことごとく回避している…逆に「幸運」な状態になっていると。
この3日間、もっと取り返しのつかないことになりそうな事象ばかりだった。
ガラス片に気づかなかったら?ガス漏れは?トイレは…ともかく、スリは?グループの方の工具は?
考えれば考えるほど、すべて「不幸」で済んだのだ、としか思えなかった。
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悪霊屋敷について調べてみた。
元々この場所には古い池があり、そこを埋め立てて家を作ったそうだ。
昔その工事をしているとき、一悶着があったという。
建設中に近所の隕石の研究家がやってきて「この池は貴重なクレーターだから勝手に埋めるな」と何度も何度も怒鳴り込んできた。
結局その男は逮捕されたが、不起訴となったようだ。
しかし池の水を空にしてもそれらしいものは何も見つからず、埋め立ててしまったという。
「人を幸運にする呪いとは、幽霊にしちゃ随分親切だ」
上司の神谷は言うが、調べたところあの屋敷で誰かが死んだとかいう記録は一切なかった。
いわゆる「ニセ心霊スポット」だったのだ。