10.ピエロの噂
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具堂町の定点よりX7Y-52の地点に「ピエロ」の目撃情報あり
至急調査を開始せよ
僕は子供の頃からピエロが苦手だった。
手など握られようものなら泣き叫んでいたような気がする。
「どこが怖いの?ピエロはみんなを幸せにするために笑わせようとしてるのに」
時田衣名はそう言って楽しそうに笑う。
なにか僕を逆なでして愉しんでいるような気がして、僕は久々に恐怖を感じた。
とかく、やってきた具堂町はかつてよく山伏や修行僧が訪れる場所だったという。
僕達は夜を待って噂の「具堂町海岸」へ向かった。
小さな海岸には僕達以外は誰もいなかった。
しばらく待っていると、何者かがやってきた。
その何者かの持っていた明かりがその顔を照らした時、衣名はぱたり、と倒れて気絶した。
それはピエロとしか言いようのない、白塗りに赤い鼻をした男だった。
だが…案の定だと、僕は思った。
白塗りな理由は不明だが、彼の格好はピエロのそれではなく、所謂托鉢僧のそれだった。
赤い鼻は…痛ましいほど腫れているせいでそう見えているのだ。
彼らがお布施を求めたところ酷い暴力に遭った、という話を聞いたことがある…彼はおそらく、俗世の被害者なのだろう。
彼は海岸に来ると、波際を超えてじゃぶじゃぶと水の中へ入ってゆく。
僕は思わず飛び出そうとした、時だった。
「天使様!なぜ私を助けてはくれないのです!」
絶叫に、僕の体は止められた。
「私はよくやっているでしょう!他の者どもよりもよりもずっとあなたの手足となり羽となり、尽くしてきた…!ジョウケイに潜入し、連中を『ウカフゼン』にしたこともある!私は…私の顔は…返り血で!」
彼は泣き出したようだった。
その時爆音が響き、彼は弾かれるように倒れた。
僕は電気が走ったようにその場に伏せる。
これは「銃声」!
ゆっくりと衣名の元に戻って、彼女の上に覆いかぶさる。
そして男の方を見た。
男は波間に浮かんでいた。
遠くから狙撃されたのか、その場には誰もいなかった。
僕は起き上がり、彼女を抱えてすぐにこの場を離れた。
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「今のところ具堂町の海岸で死体が出たという話はない。どうやら持ち去られたようだ」
「なんのために、でしょうか」
「うーむ…君の話から察するに組織ぐるみの犯罪なんだろうが、どうも意図はつかみかねる」
上司の神谷との会話中、彼のスマホに通知が来た。
「『協力者』からの情報のようだな。…これは」
僕も画像を見せてもらった。
「…」
それらは死んだはずの私立探偵、十号だった。
4人の「十号」が、海沿いの道を歩いていた。




