03 「紫苑くん」としての日常
授業が丸潰れしてしまった為、自室にて内容を確認した。
部屋にいる時は鬘は必要ない。いや、家に入った時にはもうすでに、鬘は取っている。
私の髪の色は茶色。その為、鬘の色も茶色にしている。理由としては、「切り過ぎちゃった!」とかそう言う理由にする為。
「おーい、紫苑。もうそろそろ寝ろよー」
「はーい」
兄の卓からそう言われ、適当に返事をする。
今の時刻は23時。帰ってきて、やること済ませて、20時からやっているのだが、全く終わらん。
(クソォ、あの数学教師め……またたんまりと宿題出しやがって……)
実際にそう思うが、言うのは必死に堪えている。もうすぐ明日になるその時間帯。眠気はバッチリ襲ってくる。
コーヒーでも飲みつつ宿題に取り掛かる。もちろん、ミルク入りのコーヒーを飲んで。
そして一時間経って24時。少しずつ終わりが見えてきた。だが、まだ終わらん。
そろそろ手が痛くなってくる。いや、だいぶ前から。
一旦大きく背伸びをした。それと同時に小腹が空いてしまい、椅子から立ち上がる。
(なんか食べたい)
空になったカップを取り、階段を降りてゆく。
リビング直行な為、すぐに準備することができる。今度はホットミルクを入れ、そして一手間かかるがおにぎりを握って上へと持っていった。
24時ともなれば、ほとんどの人が就寝している時間。うちの家族も私以外全員寝ている。
こう言う時、兄が気を利かせて「夜食持ってきたぞ」とか言うシュチュエーションを少しばかり思っていたが、そんな幻想は儚く散る。
兄の卓はとっくに自分の部屋で、気持ちよさそうに寝ている時間帯。卓は共学に通っているが、学校は違う。
何故なら元々、私が空名高校に入学しようと思ったきっかけは、「女子で入学しよう」と思ったから。
それなりな理由は明確にはなかった。昨年まで女子校で、男子があまりいないと言う理由が多少はあった為、そこを選んだ。
だが、入学前日の日。たまたま駅に遊びに行くと、逆ナンされるとは思ってなかった。
ほんの出来心ってやつ?よし、男装してみよう。と思ったきっかけ。特にない。
ただ単に中性的な声を利用してのことだ。
(だが、見事に男子と思われるようになっちゃって)
私からしたら、ただの女友達。そう思っている。だが、男子の「紫苑くん」に慣れてくると、少しずつ、視点は変わってくる…?
♢♢♢
翌日。学校の制服に着替える。男女ともにネクタイ。その為、誰も私を男子とは思わない。
この中性的な声。男子とも聞こえるし、女子とも聞こえる。格好が大事となるこの声を利用して、私は男装しながら、学校に通う。
鏡の前に立ち、髪を整えた。寝癖を治し、そして再び男装している自分を見る。
もう見慣れたせいか、変な違和感は感じない。よし、行こう。
「いってきまーす」
そう言い放って、私は家を出る。忘れ物がないかを再びチェックした。
出かける前は(めんどうだが)しっかりと忘れ物の確認をする。しっかりと渡さないといけないノート3つ。それにプリントを挟んだファイル一つ。
今日使う教科者類ばっちし。
(よし、忘れ物なし)
忘れ物がないかを確認して、足を進めた。
通学路を歩く道中、角で2人と出会う。その2人というのが、「紫苑くん」の友人である可憐と真菜。
幼馴染で、家が隣同士な2人はよく一緒に登校している。
「あ、おはよう! 紫苑くん」
「おはよう。一緒に行くわよ」
「あぁ」
時たまこうして登校している最中に出会うと、一緒に学校まで歩く。
鞄から2人から貸してもらっていたノートを取り出し、それを2人に渡す。
「あれ、もう終わったの?」
「速いわね。でも、あれ明日提出よ?」
「え、えぇ!?」
そんなの聞いてない。と言うことは、徹夜したのは間違い?時間よ戻れ…。
「あはは、まぁ、誰にだって間違えることはあるよ」
可憐の優しさが身に染みる。と言うより、教えて欲しかった。
あまりのショックさに、私はついつい屈んでしまった。それを宥める可憐。ひとまず立ち上がり、無かったことにしよう。と言うより、今日もやらなくていい。と言う精神でいこう。
学校に着くなり、何やら噂が広まっていた。
教室の中に入ると、一斉に女子が群がってくる。その光景に戸惑っていると、なんと言うことか。その中の女子が発言した。
「ねぇ! 明星くんって栗藤さんと付き合ってるの!?」
「え……はぁ!?」
突然なんのことを言っているのか。さっぱり分からない。私が栗藤さんと付き合っている……だと?
むしろ、私が男だったらウェルカムカモンなんだが。と言うのはさておき、どこからどうなって、そうなったのかを説明してもらいたい。
なんせ、私と栗藤さんは昨日出会ったばかり。それなのに付き合っていると言う噂が流れたのか。
「え、えぇと、どこからそれが?」
「紫苑ってあの子とは昨日会ったばかりじゃないの?」
「え、そうだよ」
2人にしか聞こえない声で言う。可憐に至っては、その情報がどこから流れたのか。それを教えてもらえるように言った。
「昨日たまたま一緒に帰っているところを見たって子がいて…。肩並べて」
そう発するその子。確かにそうです。肩を並べて歩きました。
「それに楽しそうに話してたって」
そうです。楽しくお話ししてました。
「だから?」
(え、いやどんな理由!?)
今の世の中、初対面だろうと楽しくお話ししていれば、付き合っていることになっている!?
そんなことあるわけない!
「いや、だって明星くんって顔結構整ってるじゃん? だからかなぁって」
確かに普段のスキンケアは欠かせていない。中学校の時はよく羨ましがられた。
だからといって………。
「それに、明星くんってすごい女の子に優しいじゃん? だからモテそうだし」
だって女の子には優しくするのが大事なんじゃないの?と、ふと疑問に思う。
男子と女子の体格は違う。その為、筋力も男子の方が上。よく恋愛漫画とかで、重たいものを持つ男子にキュンとするとか。
意識はしていなかった。
と言うよりそれ以上言われると、恥ずかしい。
だが、数日も経てばその噂は自然消滅していった。何故なら、2人で訂正したから。
こうもほぼ女子校のようなこの学校で、男子は少ない。絶滅危惧種のような感じだ。
一年生の学年に男子がいるのは、せいぜい3人。私を抜くと、2人。C組とA組にいるらしく、その2人は親友のように仲がいいとか。
だが、その2人はあまり女子と喋らないらしく、めちゃくちゃ女子と喋る男子=私で、結構女子と話したり、接触したりする。そのたび、重たいものを持ったりだとか、手伝ったりとかしたりしているが…。
生憎と狙ってやってるわけじゃない。私は私のことを女子と思っている為、女子と話しているだけである。
あれ、自分で言ってみるとなんか訳分からんことになったぞ。
その日の帰り道。私は1人で帰っていた。先生に頼まれていたことがあった為、2人には先に帰ってもらった。そんな中、私は小さく声を漏らす。
「付き合っているか……か。「紫苑くん」ともなってくれば、意外と女の子……って言う認識? になるのかな? 「紫苑」だった時は、恋愛対象は男子だったけど、「紫苑くん」ともなれば、恋愛対象は自然と女子になる? あー、なんかもうわけわかんない」
ややこしいことは考えるのはやめにしよう。
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