目撃者
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1986年4月26日土曜日、学校は午前中で終わり、午後から俺はジュンこと山口淳平、フジダイこと藤井大介と共に福山駅前に遊びに来ていた。
ちなみに、普段俺達とよく遊んでいるイケこと小池伸二は土曜日の午後は塾に行くので一緒に遊べなかった。私立中学の受験を希望しているイケは5年生から塾に通っていた。
4月26日といえばゴールデンウィークの入口である。21世紀だと、この土曜日から10連休とかいう企業もあったりするが、昭和の時代はまだ完全週休二日制すら定着しておらず、日曜祝日のみが休みという企業が多く、ゴールデンウィークという言葉はあったものの、盆正月に並ぶ連休期間というイメージはなかった。
学校が終わり、家に帰った俺はすぐに昼ごはんを食べた。母が仕事が休みだったので、俺が帰宅する時刻にあわせて焼きそばを作ってくれていた。
熱々の焼きそばをガツガツと掻き込み、俺は二階の自分の部屋に戻った。ランドセルを放り投げ、着ていた制服を脱いで私服に着替えた。
ジュン達との待ち合わせは駅前に13時30分である。今の時刻は12時50分であり、まだ時間に余裕がある。駅前までは自転車で数分、13時20分に家を出ればよい。
家を出るまで30分あるので、部屋で漫画でも読んで時間を潰す事にした。漫画を読もうとしたが、喉が乾いたので台所に降りて行った。
中学校も終わったようで、台所では姉の真由美が昼ごはんの焼きそばを食べていた。俺は冷蔵庫から麦茶の入ったピッチャーを出し、戸棚からコップを取り出しコップに麦茶を注いで一気に飲み干した。
「私にも麦茶ちょうだい」
食卓に向かって焼きそばを食べていた姉が声をかけた。俺は戸棚ならコップをもう一つ取り出して姉に渡し、ピッチャーを食卓に置いた。
「英樹ありがと……お母さん、今日帰りちょっと遅くなるから」
姉は母に晩ごはんより遅れて帰る事を告げていた。
「まぁ、今日はお父さんも東京に行って帰るのは遅くなりそうだし、晩ごはんは作り置きして温めるだけでいいカレーにしようかしら」
母は家庭内のいろいろな状況を考えながら晩ごはんのメニューを決めているようである。
父は今朝一番の新幹線で東京に向かい、来月から単身赴任で住む事になるアパートを東京の不動産屋に電話をして、住むアパートを調べていたが、下見と契約のために東京に行かねばならず、今日日帰りで東京に行っていた。
部屋に戻った俺はしばらく漫画を読んで時間を潰し、頃合いを見て家を出る事にした。
自分の部屋を出て、階段に向かう廊下を歩き出したところで姉が部屋から出て来て鉢合わせした。姉はずいぶんと着飾っており、普段は付けないネックレスやブレスレットを装着し、誰が見てもデートに行くところである。
「姉さん、デートだな」
「うるさい、どっかいけ」
俺はニヤニヤしながら姉に言うと、姉は俺に立ち去れと言わんばかりに手を振って言い返した。
(かわいくねーな。こんなのと付き合いたい男なんているのかよ。見る目ないな)
俺は口には出さなかったが、姉と付き合っている男を心の中で嘲笑した。
「ったく、デートする相手もいない坊やは、さっさと坊や同士で遊びに行きなさい」
姉は俺を馬鹿にするように言ってから玄関に向かった。俺も姉に続いて玄関に向かい。靴を履いてから自転車置き場に行き、自転車にまたがって家を出た。
家を出て10分もしないうちに駅に着いた。駅前の道の歩道にズラリと置かれた自転車の列の中に自転車を置いた。ジュンとフジダイの姿は見えないのでまだ来ていないようだ。
「ヒデ、おまた〜」
「待たせたな」
すぐにジュンとフジダイが連れだってやって来た。そして、俺のすぐそばに自転車を置いた。
三人でこれから遊ぶのだが、小学生の事だから大した事は出来ない。手持ちの小遣いの額を考えると、電車に乗ってどこかに行くわけにもいかない。
俺達は駅前にある大型スーパーの最上階にあるゲームセンターに行く事にした。
しばらくゲームを楽しみ、小遣いが少なくなったあたりで切り上げ、下の階にある本屋に行き漫画を立ち読みした。それから、おもちゃ売り場に行き発売中のゲームソフトをチェックしたが、今すぐ買えるだけのお金を持つ者がいなかったので見るだけだった。
スーパーでする事が無くなった俺達は、駅のコンコースを抜けて駅裏に出て、駅裏にあるちょっとした広場のベンチに座り、缶ジュースを飲みながらお喋りをして過ごした。
当時の子供は娯楽も少なく、友達と遊びに出たとしてもこの程度の事しか出来ない。それでも、他愛のないお喋りは気楽でもあり、俺は楽しく過ごす事が出来た。
ジュンは視たいテレビがあるからと自転車で帰宅するために自転車置き場へ向かって行った。フジダイはさっき行った本屋で、もう少し漫画を立ち読みしたいという事で本屋へと戻って行った。
(さて、俺はどうしようかな……)
時刻はまだ15時40分である。まっすぐ帰っても退屈しそうだが、かといってどこか行きたい所があるわけでもない。
このあたりをブラブラしていれば誰が同じクラスの奴と会う可能性がないわけではないが、今日ここまで小学生の定番の遊び場を回って来たにもかかわらず誰とも会っていないので、今日はこのあたりにクラスメートは来ていないようだ。
電話で誰が呼び出したいが、呼び出したところでする事もなくお喋りでもするしかない、わざわざお喋りのために駅に呼び出して来る奴がいるか疑問だし、呼び出してまでお喋りしたい相手がいる訳でもない……いや、いた。一人だけいた。呼び出してでもお喋りしたい相手が。
俺は電話ボックスに向かい、京子の家の電話をかけた。京子の家の電話番号は連絡網を見て覚えていた。
電話の呼び出し音が鳴ってる間、もし、京子の母親が出たらどうしようか考えた。京子が日常的に男子児童から電話を受けているかはわからない。変な誤解を生じるのは避けなければならないだろう。
俺は京子の母親が電話に出たら何も言わずにすぐに切る事にした。悪戯電話は好ましくないが、この場合はしかたないだろう。
10回くらい呼び出し音が鳴ってから誰かが電話を取る音がした。
「もしもし、杉山ですが……」
一瞬、誰の声か考えたが、大人の声には聞こえなかったのでおそらく京子だろう。電話越しだと声が違って聞こえるが、母親ではないはずだ。
「杉山さん? 俺だけど」
「え?」
どうやら、京子も電話越しだと俺の声がわからなかったようだ。
「田村だけど」
「田村君? いったいどうしたの?」
「今、駅に来てるんだけど、遊ぶ相手がいなくって、今から遊べないかなと思ってね」
「別にいいけど、駅前に知ってる子は誰もいないでしょうね? あまり、二人でいるとこを見られるのは良くないわよ」
「誰も知った奴がいないから、退屈して電話したんだから大丈夫だよ」
「わかった、じゃあ、駅の裏の広場あたりで待ってて」
待ち合わせ成立。やたら京子とベタベタするのは良くない事くらいわかっているが、気楽に話せる相手となると京子しかいないので、つい二人になりたくなってしまうのだ。
俺は駅裏に行き、広場のベンチに座って京子を待った。30分近く待って、ようやく京子がやって来た。
「もう4時半近いじゃない。これから何かする事でもあるの?」
家からわざわざ駅までやって来た京子は開口一番呼び出した理由を問いただした。
「何もないんだけどね。話し相手が欲しかっただけ」
俺は正直に答えた。
「まったく……お喋りしたいから呼び出したわけ? わざわざ外出用の服に着替えて出て来たら、退屈しのぎとはねぇ」
京子は呆れたような事を言ってはいるが、目は笑ってるし、口調は怒ってはいなかった。京子はわざわざ水色の服に白のヒラヒラしたスカートを履いていた。家にいるだけで、こんなヒラヒラしたスカートで過ごしているはずもないので、手間をかけて着替えたのだろう。
「そんな服に着替えなくても良かったのに…」
俺は言ってから、もう少し気の利いた言い方はないものかと自分自身に呆れてしまった。
「男子と会うのに、ヨレヨレの服装で出掛ける女なんていないでしょうに。それとも、ピッチピチのショートパンツにノーブラでタンクトップ着て来た方が触りがいがあって良かったかしら?」
京子は俺をからかうように言った。俺は京子が冗談で言ってるのはわかっているが、タンクトップにショートパンツを着用した京子の姿を想像してしまった。
「………いや、そんな訳……ないだろ」
俺はショートパンツにノーブラタンクトップ姿の京子を想像しながら返答したので、いかにも怪しい返答になってしまった。
「何よ、その怪しい言い方。田村君って、元々ロリコンだったの?」
京子はからかって言ったつもりが、俺がマジで触りたそうな態度だったので、余計に調子に乗って俺をからかいだした。
「つーか、杉山さんの二度目の人生の時、俺と杉山さんの会話って、こんなノリだったの?」
「こんなノリって?」
「杉山さんが俺をからかって楽しむのが日常という感じ、みたいな……」
「えぇ、そんな感じだったわね」
どうやら、京子の二度目の人生では、俺は京子の尻に敷かれていたようである。
実にくだらない会話であるが、見た目こそ小学生であるが、俺も京子も中身は大人である。こんな会話が出来るのも大人同士だからこそ。くだらない会話とはいえ、俺は楽しいのである。「ずっとお喋りしてるつもり?」
「うーん、どうしようか?」
「少し歩きましょうよ」
京子に催促されて、俺はベンチから腰を上げた。
「どうしようかなぁ……どこか店にでも入る?」
「店だと誰かに遭遇するかもしれないわ。福山城に行ってみる? 夕暮れ時のお城も悪くないわよ」
「そうなのか?」
「二度目の人生で、中学の時にあなたと行ったから」
京子は歩きながら俺の方をちらりと見て言った。
福山城は福山駅のすぐ北側に隣接している。というより、元々は城の敷地だった場所に線路を引いて駅を建てたというのが正しい。
俺達は福山駅から徒歩1分のところにある福山城に向かい、石垣の脇にある階段を登り城内へ入って行った。天守閣の前は公園のようになっており、市民の憩いの場となっている。
「どこかに座る?」
俺は歩き回るよりも、どこかに腰を落ち着けておきたかった。
「あっちに売店があるから、ソフトクリームでも買って、このあたりのベンチに座って食べましょう」
京子は言ってからスタスタと歩き出した。
(福山城に売店なんてあったかな?)
俺は福山城に売店があるのを知らなかったが、京子の言い方だとはおそらく売店を利用した事があるのだろう。
俺は売店の場所を知らないので京子の後に続いて歩いた。ちょうど、城の裏側の方に回り込んだあたりに小さな売店があった。飲み物等を売っているだけの小さな売店である。
ちなみに、21世紀になった後で福山城に行った時には、こんな場所に売店はなかった。
俺達は売店でソフトクリームを買った。俺はバニラ京子はチョコレートを選んだ。100円という安い値段だったが、当時の物価だと普通だったのかもしれないがよくわからない。
俺と京子はベンチに座ってソフトクリームを食べ始めた。
「もっと近くに座ればいいのに……」
俺と京子は同じベンチに並んで腰掛けているが、二人の間には数十㎝の隙間があった。これ以上近付くと食べにくいと思われるので、俺は無意識に隙間をあけて座っていたのである。
「これ以上近付くと食べにくいだろ」
「そういう問題じゃないのよ」
京子は俺に近付いて座り直した。俺の左肩と京子の右肩が触れ合う距離なので、ソフトクリームを誤って京子に付けてしまわないように、ソフトクリームは右手に持ち直した。
大の大人が女子小学生と肩を並べてソフトクリームを食べるだけで、ドキドキするのはロリコンでもない限りありえないと思っていたが、俺はドキドキしていて自身にロリコン認定をせねばならないのかと情けなくなっていたが、京子は中身は大人なのだという事で折り合いをつけた。
「チョコレート美味しいわよ。田村君もこっちにすれば良かったのに」
京子はチョコレート味のソフトクリームを食べながら言った。
「甘すぎるかなと思ったんだよ」
俺はソフトクリームはシンプルなバニラ味が一番好きなのだ。
「むしろ、ビターな感じでバニラより甘くないはずよ。一口食べてみる?」
「じゃあ、一口だけ」
俺は空いた左手を出して京子のソフトクリームを受け取ろうとした。
「違うわよ……ほら」
「……………!」
京子は右手にソフトクリームを持ったまま俺の肩に手を回し、肩を組むような体勢で反対側からソフトクリームを俺の口の前に持ってきた。
「普通に渡せばいいのに」
俺はソフトクリームを受け取ろうとしたが、京子はソフトクリームをさっと肩から離した。
「このまま、私が肩越しにソフトクリームを持ったまま食べるのよ」
京子は体をこちらに向けているので、端からみれば抱き合っているようにも見えなくない。しかも、体がやたら密着していて俺は妙に照れ臭い。しかし、京子の様子だと、俺がこの姿勢でソフトクリームを食べなければ解放してくれそうもないので、このまま食べる以外の選択肢はないと俺は考えた。
この体勢のままだと、俺が変な気を起こしかねないし、何より人前だけに恥ずかしい。さっさとソフトクリームを食べて解放してもらうのが一番の得策だろう。
「じゃあ、いただきます」
俺は顔をソフトクリームの方に向けて一口だけ食べようとしたが、ソフトクリームに口が付く寸前に京子はソフトクリームを持った手を肩から離した。
「アハハハハ……はい、もう一回」
京子は楽しそうに笑い、再びソフトクリームを持った手を俺の肩に回してきた。
俺が食べようとすると手を離し、また肩に手を回す。同じ事を三度繰り返した。
「食べさせてくれる気がないんだったら、やめてくれないかな」
俺はこんなバカップルみたいな事は嫌だったので、少しイライラしていた。
「わかったわ。今度は避けない」
そう言ってから京子はまたしても俺の肩に手を回してきた。
今度こそソフトクリームを食べられると安心した俺はゆっくりとソフトクリームの方に顔を向けた。
「じゃあ、今度こそ、いただきま……えっ?」
あろうことか、京子はソフトクリームを俺の顔を押し当ててきた。チョコレート味の茶色のクリームが俺の口の回り付いてしまった。
「おいおい、そりゃないよ〜」
俺は情けない声で京子を責めた。
「ごめんなさいね。すぐ拭いてあげるから」
京子は悪戯が成功した時のワルガキのような顔をしながら言った。俺は京子に汚されたのだから、京子が拭くのは当然と思い、京子がハンカチかティッシュを出すのを待った。
しかし、京子はハンカチもティッシュも取り出すような素振りも見せず、座ったまま俺の方に体を向けると、ソフトクリームを持っていない左手で俺の肩を押さえた。
俺は京子が何をしようとしているのか理解出来ず固まってしまった。
京子は俺の肩を押さえていた手を離すと、すぐさま俺の首の後ろに手を回し顔を近付けて来た。
「お、おい……」
俺は突然の事に何も言う事も出来なかった。
京子は俺の口の回りについたクリームを自らの口で吸い取って、更に舌でなめ取ってしまった。
これでは、激しいキスをしたのと変わらない。俺は想定外の出来事に体は固まり頭は思考停止してしまい、茫然自失の状態でただボーッとしているだけだった。
「エヘッ…この世界の田村君のファーストキス、ごちそうさまでした」
京子は悪びれる事もなく、舌をペロリと出して笑いながら言った。俺はそこでようやく我に返った。
「いきなり、あんな事されるなんて思わなかった」
俺はいい歳こいて、見た目小学生にキスされたにもかかわらず、顔が熱くなるのを感じた。
「ソフトクリームの食べさせ方といい、唇の奪い方といい、ずいぶんと手慣れてたけど、このやり方、前にもやった経験あるの?」
俺は京子がそつなく唇を奪ったので疑問がありそれを質問した。
「前の人生で付き合ってたあなたのファーストキスを奪った時、今のやり方だったのよ」
京子はドヤ顔で言ったが、京子の小悪魔ぶりに俺はタジタジになるだけだった。
「あっちの世界の田村君も、今のあなたみたいな反応だったわね」
京子が思い出し笑いをしながら言った。別世界の俺も京子相手にタジタジだったようだ。同じ人間なのだから、同じような態度になるのはしかたない。
「ソフトクリーム、早く食べないと溶けそうだよ」
俺はソフトクリームが溶け始めている事に気付いた。俺と京子は慌ててソフトクリームを食べた。
俺は甘いソフトクリームを口に含みながら、何とか心を落ち着けようとした。1986年に来て以来、京子には振り回されっぱなしだ。しかし、それが楽しくもあった。
「田村君と一緒だと、何の遠慮もなくハメを外せるからいいわねぇ〜」
京子はソフトクリームを食べ終わり、ポシェットからハンカチを取り出して手を拭きながら言った。
「最初からそれを出せよなぁ」
俺は少々呆れ気味に言った。俺に言動には注意しろと言った張本人がこんな無茶苦茶な事をするとは、一体どうした事か。
それから、俺と京子はしばらくの間、他愛のない会話をしてから帰る事にした。
自転車を置いた場所は俺と京子は違う場所だったので、俺達は駅前で別れる事にした。
「さっきの、さすがに人目のある場所でやるのはマズいだろ」
別れ際、俺は京子に言った。あれはクラスメートに見られたらマズい。
「お城の階段を上がって以降、小学生らしい人の姿を見かけなかったから大丈夫でしょ」
京子は、そんな事は言われなくてもわかってる、と言いたげな様子で言った。
俺も京子も、ベンチの後ろから俺達がイチャイチャする様子を呆然と見つめていた少女がいた事には全く気付いていなかった。
夕方6時半頃に帰宅した俺は、晩ごはんを食べてから部屋に戻ろうと台所から廊下に出た。ちょうどそこに姉の真由美が帰宅して鉢合わせになった。
何故か姉は俺を見るなり、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。先程まで京子が浮かべたのと同じだ。
「ヒデ君、ちょっとこっちいらっしゃい」
姉は俺の手を取ると、スタタタと脱兎のごとく階段を駆け上がり、自分の部屋に引き込んだ。姉の部屋に引っ張り込まれた俺は、姉に促されベッドに座った。
「何か用かよ」
俺はわけがわからないので、ぶっきらぼうに言った。姉は相変わらず意地悪な笑みを浮かべている。
(京子といい姉さんといい、女ってのはどうしてこんなのばかりなんだよ)
俺は内心ため息を吐いていたが、姉はそんな事はお構い無しに捲し立てた。
「ねぇねぇ、ヒデ君ってさぁ、彼女さんいたんだね」
「はぁ?」
俺は何の事かわからなかった。
「彼女なんていねえよ」
まだ、こちらに来て一ヶ月もたっていない、彼女なんているはずもないだろう。
「とぼけなくてもいいから。さっき、お城のベンチでイチャイチャしてたでしょ? すっごい可愛い彼女さんと」
「なぬっ?」
あの場面を見ていたのか?俺は驚きのあまり言葉を失った。
「どこで何を見たって?」
俺は姉が何を見たのか確かめようと思った。
「私も彼氏連れてたんだけど、福山城でもブラブラしようという事になって、城内を散歩してたのよ。そしたら、彼がお腹が痛くなったとか言い出してトイレに行っちゃって、一人でウロウロしてたのよ。そしたら、ヒデ君と可愛い彼女さんが二人でピッタリくっついてソフトクリームを食べてるじゃない」
どうやら、姉が見たのはベンチに座ってソフトクリームを食べ始めたあたりからのようだ。
「そしたら、いきなりあんな激しいキスなんてしちゃうものだから、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃったわ」
「あれは、あの女がふざけてやっただけで……」
実際に半分はふざけていたはずだから、俺の言ってる事に間違いはない。
「あんな色っぽい子が、ふざけてたにしても、好きでもない男子にあんなキスをするわけないでしょ」
姉は満面の笑みを浮かべて言った。俺にはこの笑みが癪にさわる。
「まっ、誰にも言わないから心配するな。ウヒヒヒ……」
姉は俺の肩をポンポン叩きながら言った後で下品に笑った。
「うるせえ」
俺は悪態を吐いてから姉の部屋を出た。姉はそんな俺をからかうようにいつまでも笑っていた。
部屋に戻った俺はため息を吐いてから絨毯の上に寝転んだ。
まさか、知った人間に見られて思わなかったというか、完全に油断していた。京子も同じだろう。
俺と京子はこの世界では付き合ってるわけではないのだが、端から見れば恋人同士に見えるだろう。それに、俺は京子といる時が一番落ち着ける。今後も二人で過ごす時間は多いはずだ。
しかし、周囲の目も考慮しなければならない。そうなると、二人で遊んだりするのは知り合いのいない場所、つまり、福山市から出て二人で会う事にしなければならないなと俺は考えていた。
次回は主人公の子供会での活動についてのお話です。
お楽しみに




