↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卒業条件は、同級生の死の真相。  作者: 綴木 律
第四章 証言の境界
44/44

第44話 誰の答え

「どうして撤回したの?」


 桐島の問いに、瀬戸はすぐには答えなかった。


 瀬戸は短く息を吸った。


「……根拠がなかったんだ」


「根拠?」


「ああ。神谷一人が原因だっていう見方に、納得できなかった。でも、違うって言えるだけのものも持ってなかった」


 桐島が眉を寄せた。


「それで、撤回したの?」


「それだけじゃない」


 瀬戸は、一度息を吐いた。


「違うと思うなら、何でそう思うのか、自分で考えなきゃいけないだろ」


「うん」


「でも、俺には答えがなかった。考え続けても、ちゃんと説明できる気がしなかった」


 瀬戸は、膝の上に置いた手を見た。


「だから、やめたんだ」


「考えるのを」


 桐島は、黙って聞いていた。


「納得したわけじゃない。ただ、もう考えなくていいことにしたかった」


「……自分で?」


「ああ。俺が決めた」


 田所が口を開いた。


「でも、それっておかしいことか?」


 瀬戸が顔を上げる。


「根拠もないのに、違うって言い続ける方が問題だろ」


「そうだな」


 瀬戸は答えた。


「そこは俺も間違ってなかったと思う」


「だったら、何を後悔してるんだよ」


「言い切れないことと、疑問まで引っ込めることを、一緒にしたんだ」


 田所は、続きを待った。


「根拠がないなら、断定しなきゃいい。でも、納得できないって思ったことまで、なかったことにしなくてもよかった」


「……それで?」


「分からないなら、分からないって言えたはずなんだ」


 瀬戸は、少しだけ言葉を選んだ。


「神谷一人が原因だって決めるには、まだ分からないことがあるんじゃないか。そういう疑問として話すことも、できたと思う」


 桐島が首を傾げた。


「でも、それで何か変わったのかな」


 瀬戸は、すぐには答えなかった。


「分からない」


 そう言ってから、続ける。


「誰かが一度、立ち止まって考えるきっかけにはなったかもしれない。でも、何も変わらなかったかもしれない」


「……そっか」


「今になって、そう思ってるだけだ」


 桐島は、瀬戸を見ていた。


「それでも、後悔してる?」


「ああ」


 瀬戸は答えた。


「結果が変わったかどうかじゃない。俺は、自分が納得してないことまで、考えるのをやめたから」


 田所が、短く息を吐いた。


「でもさ。疑問に思ったことを全部言ってたら、きりがないだろ」


「そうだな」


「それに、根拠がない話をされた方は困ることもある。誰かが疑われるような話なら、なおさらだ」


 瀬戸は頷いた。


「それは分かる」


「だったら、簡単に口にすればよかったとも言えないだろ」


 田所の声は強くなかった。


 瀬戸も、その指摘を否定するつもりはなかった。


「誰かが原因だって、根拠もなく言うつもりはない」


「じゃあ、何を話すんだよ」


「俺が、まだ納得できてないことだ」


 田所が眉を寄せる。


「それを聞いた方は、どうすればいいんだ?」


「同じように疑ってくれなくてもいい。答えを出してくれって言うつもりもない」


 瀬戸は、そこで一度言葉を切った。


「ただ、俺が疑問に思ってることは、俺の言葉で話せるはずなんだ」


「……話して、それから?」


「確かめられることがあるなら、確かめる」


 瀬戸は答えた。


「分からないことは、分からないまま考える」


 田所は、椅子の背に体を預けた。


「俺には、それでいいのか分からないけどな」


「ああ」


 瀬戸は、田所を見た。


「七年前の俺を責め続けたいわけじゃない。ただ、また同じように黙って終わらせるのは嫌なんだ」


 田所は何も言わなかった。


「今度は、自分で引っ込めずに考える。必要なら、人にも話す」


 瀬戸はそこで言葉を切った。


「それが、今の俺の考えだ」


 桐島が、小さく息を吐いた。


「……そっか。だから、今は話したんだね」


「ああ」


「少し分かった気がする」


 桐島は田所を見た。


「でも、根拠がない話は慎重にした方がいいっていうのも分かる」


「そうだろ」


 田所が答えた。


「うん」


 桐島は、少し考えてから続けた。


「私も、まだ神谷のことをどう考えたらいいか、分からないし」


 瀬戸は、桐島の言葉を聞いていた。


 水野が口を開いた。


「私、ちょっと思ったんだけど」


 瀬戸がそちらを向く。


「七年前、同じように何か引っかかってた人、ほかにもいたかもしれないよね」


 田所が水野を見る。


「……誰かいたのか?」


「ううん。私は知らないよ」


 水野は首を振った。


「でも、そう思ってても、言葉にしなかった人がいたかもしれない」


 瀬戸は黙って聞いていた。


「だから、今、瀬戸が話してくれたのはよかったと思う」


 水野は続けた。


「少なくとも、こういう考え方もあったんだって、私は知れたから」


「……そうか」


「うん」


 水野は、少しだけ声を落とした。


「それで神谷のことが分かったわけじゃないけどね」


「ああ」


「私も、まだ決められない」


 それ以上、水野は続けなかった。


 瀬戸は、目の前の五人を見た。


 話したことで、神谷の件について新しく分かったことはない。


 それでも、水野は聞けてよかったと言った。


 その言葉を、瀬戸はすぐに返せなかった。


「……瀬戸」


 岡崎が呼んだ。


「何だ」


 岡崎は少し迷ってから、口を開いた。


「話してくれて、ありがとう」


 瀬戸は、思わず岡崎を見た。


「礼を言われるようなことじゃないだろ」


「うん。そうかもしれないけど」


 岡崎は、小さく笑った。


「知らなかったから。瀬戸が、あの時そんなふうに考えてたなんて」


 瀬戸は、返事に迷った。


 岡崎も、それ以上は言わなかった。


 瀬戸はようやく、小さく頷いた。


 相馬は席に座ったまま、話を聞いていた。


 桐島が田所を見る。


「田所は?」


「何が?」


「瀬戸の話、どう思った?」


 田所はすぐには答えなかった。


「撤回した理由は分かった」


 そう言って、瀬戸を見る。


「でも、俺はお前と同じようには考えられない」


「ああ」


 瀬戸は答えた。


 田所は、少しだけ眉を上げた。


「それでいいのか?」


「お前は、そう考えてるんだろ」


「ああ」


「だったら、聞く」


 田所は、しばらく瀬戸を見ていた。


 瀬戸が声を掛けた。


「お前は、どう考えてるんだ?」


 田所は、瀬戸を見返した。


 それから、ゆっくり口を開いた。


「じゃあ、今度は俺の話を聞けよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。