表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇人街狂想曲  作者: かなぶん
人魚の章 第一節:新たなる出遭い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/114

第12話 手加減知らず

 思った通りというか、人狼であったシウォンと女たち。

 シウォン一人が蹴りでずらした鮮魚箱は、同じ人狼であるランにしか直せず、恐縮する泉に対して何故かワーズが「構いやしない」と笑う。呑気な様子に戸惑っていれば、ランの方が逆に恐縮し、冴えない顔に苦笑を浮べて「気にしないで」と頭を掻いた。

 訳ありの風体に首を傾げていると、ワーズが泉を居間へ招く。

 どうしたものかと迷ったが、店にいたところで手伝えることは何もなく、かえって邪魔になりそうだと示された席へ座った。

 招いたワーズ自身は、泉の前で中腰になって尋ねる。

「泉嬢、何かされた?」

「あー……顎下に」

 指で妙な感触があった箇所を示せば、ワーズがため息と共に首を振る。

「やーれやれ。あの変態、また懲りずに……待ってて泉嬢。消毒するからさ」

「しょ、消毒?」

 悪寒は走ったが、そんなに物騒な代物と思わず、ごそごそコートを探るワーズを凝視した。

「よっ」

 掛け声一つ、手品のように綿と薬瓶を取り出し、じゃばじゃば中身を綿に掛けては絞る。そうして泉の頬を押さえると、問題の箇所を銃を持つ手で器用に丹念に拭いていく。

 シウォンの撫でた右頬の熱が、ひんやりとした手の温度に薄まるのを、少しくすぐったく感じる泉。反面、綿で擦られる顎下は、段々と痛みに変わっていった。

「わ、ワーズさん、そろそろ痛くなってきたんですけど?」

「ん……んー?……よし、これくらいで良いかな?」

 はいお仕舞い、と離されてようやく触れた箇所に残る、痛みと熱。

 血が滲みそうなほど赤くなっている気がした。

 馴染ませるように数度撫で、また手品の如く出した物を片付けるワーズへ、

「あの、そんなに危ないんですか、さっきの……」

「危ない、ってモンじゃないね。毒だよ、毒。大抵ボクの姿が見えないとこで、従業員の娘に手を出してさ。信じられるかい? たった一回キスされただけで、みーんな、アレのとこへフラフラ引き寄せられて、戻って来なくなるんだ」

「戻って……?」

 毒とはそういう意味か、と顔をほんのり赤らめながら、もう一つ引っかかった言葉には内心で眉を顰めた。

 キスという単語を知っているワーズ。

 つまり、あの時のアレは、彼にとってキスではないということか。

 本当に自分だけが意識してしまったのだと、改めて認識してしまった。

 複雑な思いを抱えつつ、なおも「毒」の触れた箇所を擦っていれば、店側からシウォンに関する情報が追加される。

「あの人は人狼の本性をそのままなぞる人だからね。たっぷり自分に溺れさせた後で、飽きたら同族でもない限り、腹掻っ捌いて臓物を喰らうんだよ」

 ここは赤くなるべきなのか、青褪めるべきなのか。

 女たちが「末路」と言った意味を理解しては、引きつり笑いしか浮かばない。

「しかもアレにとっちゃ、ボクはラン以上に気に入らないみたいでねぇ。若い娘の従業員が入る度に連れてってさ、わざわざ残骸を芥屋にばら撒いて来るんだよ。ウチじゃ、人間の肉なんて取り扱ってないってのにさ?」

 へらへら「困るよねぇ?」なんて同意を求められても、辛うじて保っていた笑いが崩れるだけ。

(そういや、この人、前に「死んだ者に興味はない」って言ってたっけ……)

 つまるところ、泉がどんな最期を迎えても、ワーズはただ「困った」と笑うのか。

 納得しかねる思いに頭と胸が気持ち悪くなる。

 これを嫌って泉は話題を逸らした。

「ええと……ランさん以上っていうのは?」

 鮮魚箱を戻し終え、一息ついた姿に話を振れば、ランの目が泳ぐ。

 これを変わらず笑うワーズが、銃口でランを指しつつ言う。

「そりゃあもちろん、因縁の相手だからねぇ? ランは人狼最強だったシウォンに勝って、その称号を手にしちゃったばかりか、本当なら引き継ぐはずの群れ蹴ってさ。でも何よりあれがラン嫌うのって、勝ったくせにトドメ差さなかったから、だよね」

「う、うるさいな! 大体、あれはマグレで……。第一、同族嫌いの俺が、どうしてあの人の群れを引き継がなきゃいけないんだよ」

 深々とため息をつく。

 自分から振った話とはいえ、この見るからに弱そうな男が、どうやればあの荒々しい美丈夫に勝てるのか、想像できない事柄に泉は驚くばかり。

 と、そこへ、

「ごめんください。お姉ちゃんはいますか?」

 店からひょっこり顔を覗かせる、オーバーオール姿の子どもが一人。

 短い髪自体が淡く発光しているような頭に夜を髣髴とさせる瞳、愛くるしい顔立ちが、泉を認めては白い牙を見せて笑う。

 死人と呼ばれる種特有の鋭い牙を見ても、泉は人狼ほど臆さず、つられて笑ったのだが。

「そういや、泉嬢、太いの気にしてたよね?」

 思い出したかのように唐突に言われては絶句し、へらへら銃で頭を掻く白い顔を睨みつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ