表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇人街狂想曲  作者: かなぶん
第十節:それぞれの終焉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

190/234

第1話 炎の樹

 イメージは長い年月をかけ、伸びゆく枝葉。

 もしくは地を深く抉る根。

 炎に際し、描く物としては似つかわしくないかもしれないが、クァンはそう感じる。

 とはいえ、それは奇人街で唯一の木である、ラオを浮べてのことではなかった。

 思い起こされるのは、憎くとも未だ愛おしむ、彼の男。


 彼は言う。


 動物というモノは、動けない植物を下に見るきらいがある。

 踏みつける大地に根づく存在なればこそ、そう思うのは仕方ないのかもしれないが。

 けれど視点を変えたなら、植物ほど恐ろしいモノはいない。

 何せ彼らは、地上と地下と、そして空を侵すのだから。

 動物からでは、それと気づかれぬほど緩やかに。

 成長を認めては遅く、巨大な影となれば、ただ見上げることしかできない。

 倒したところで、張り巡る根は深く、取り除けば地が固さを忘れてしまう。

 だから僕は畏敬する。

 この身に炎を操る術を持っていようとも。

 それに……生木は燃えにくいからね。


 人魚で足りない激情は、男との想い出をくべて燃やした。

「…………掌握」

 そうして他人の炎を浸食し、己がモノとしたクァンは、炎の内に求める娘がいないのを知った。

(とんだ無駄足さね……)

 苛立ちに鼻を鳴らしては、閉じていた瞳をゆっくり開く。

 冷え冷えとした氷の眼光が吐息を零せば、広い路を燃やしていた炎が瞬時に失せた。

 伴い、クァンの瞳の色が本来の晴天へと移り変わる。

「はあ……くたびれるねぇ。骨折り損だよ」

 首をコキコキ鳴らしつつ、両肩を回す。

 鬼火の中でも、自他共に認める火力を有するクァンだが、他人の炎を掌握するのは苦手であった。

 否、クァンに限らず、大抵の鬼火はこれを苦手とする。

 掌握するに当たり、炎を発生させた相手への理解が求められるゆえ。

 炎の根源が鬼火の想いに依るがために。

 しかも、ただでさえ誰が発したか分からぬ炎で難儀しているというに、この炎はあまりにも屈折し過ぎていた。

 感情の振れ幅で火力の変わる鬼火だが、その質はほとんどの場合が一定。

 だというのに、あるところでは弱く細く、またあるところでは強く太く、まるで安定していない。

 相手は自制心に長けた同族のはずだが。

 自然、ある結論が導き出されるものの、

「煙中毒…………にしても、禍々しい」

 熱さを忘れ、冷え切った夜気が白い髪を梳く。

 思考に耽りかけたクァンは、はっとして辺りを見渡した。

「そうだ、泉! それに――」

 かのえを下がらせた路地へ駆けるクァン。

 悪臭は炎で燃やしつつ、建物の陰を飛び出し、

「人魚っ! 待たせたわね、今燃やして…………って、あ、あれ?」

 意気揚々と啖呵を切ったは良いが、肝心の相手がいない。

 それどころか、連れ立った者たちの姿もなかった。

「え…………ウソ、置いてけぼり? ちょ、ちょいと……そ、そんなぁ」

 一生懸命だったのだ。

 炎を消し去り、少女を一人、助けるために。

 ……これを恩に着せ、店で唄って貰おうという下心はあったけれど。

 ここまで一緒に来た連中とて、少女を助ける目的だったはず。

 とまで思い――思い至る。

「……つまり、なに? もしかしてアイツら、泉がこの中にいないって知ってたの!?」

 真っ先に浮かぶ顔があった。

 へらり笑う、黒衣の店主。

 想像上の産物が、聞きなれた歪んだ声音で「ご愁傷様」と馬鹿にする。

 ぷちっと聞こえた音は、何かが切れた幻聴。

「ぁんんんのっ、糞ガキィィィ…………」

 ギリギリ歯を軋ませたクァンが、真っ先に置いていく決断を下したのはランであると知る由もない。

 怒髪天を衝く低い唸りに呼応し、再度、炎がクァンの身に纏われた。

 矢先。

 眼前の空が赤く染め上げられる。

「っ!?……な、んだ、あの炎は?」

 驚きからクァンの炎は消え去り、滾るような光景に自身の身体を抱いた。

 背筋を這う悪寒。

 熱く見えるそれは、虚無と違える冷たさを伝えてくる。

 クァンの白い喉がごくりと鳴った。

「この……感じ…………微かだが、さっきの(ヤツ)も混じってる……ってことは、泉や芥屋のらがアレの近くにいるのかい?」

 正直に言うと、行きたくなかった。

 きっとこの感覚は、鬼火にしか分からないだろう。

 呑み込まれるような、魅入られるような、自分を失くすような、炎の感覚は。

 しかし、そんなクァンの背を押す存在があった。

 弱気になった途端、強襲するニオイが。

 身体を抱いたまま呻く。

「ぐっ……い、ずみがいるってことは、奴らもいるはず……。仕方ない……ね!」

 恐怖があっても、怒りもある状態。

 発散できた方がすっきりすると決めつけ、恐怖すら人魚への憎悪に回しておく。

 置いていった奴らへの恨み言も、そちらへくべれば極上の燃料となるだろう。

 意を決したクァンは、赤い空の下を目指して駆けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ