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奇人街狂想曲  作者: かなぶん
第八節:腐臭の都

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第5話 閑話

 ふらふら前を行く店主は、地に伏す合成獣を一瞥もせず、エレベーターへ向かう。

「おいっ! 芥屋の! 緋鳥を置いてく気かい!?」

 すると、お節介な鬼火が後ろから茶々を入れてきた。

 これを無視し、上がったままのレバーを下ろす。

 待つ合間、近づく気配を感じては、面倒臭そうに応対した。

「邪魔にしかならない者を、わざわざ連れて行く馬鹿はいないだろ?」

 これに絶句した鬼火は、眉間に皺を寄せて言う。

「お前…………仮にも育ての親だろうが」

「冗談は止めてくれ。ボクはただ、ソレの父親に頼まれたから、自立まで餌をやっただけ。育ての親? なんの嫌味? それにさ――」

 顎で示す、二つに割れた瓦礫。

 血色の笑みを浮かべつつ、こめかみを銃口で突いて、首を傾げた。

「猫がこうしたってことは、コイツ……泉嬢と、その子の言葉通り一緒に行動しているならシン殿の二人を狙ったってことだよ? 分からないか、クァン? コイツが人間を狙うって意味」

「なるほど? 喰おうとした訳か。笑えん話だな」

 応えは怒りに揺らめく鬼火ではなく、エレベーター横の扉から現れた、血染め袴のすっきりした表情から為された。

 思う存分、幽鬼が狩れたのだとよく分かるイイ顔へ、鬼火が怪訝に眉を寄せる。

「喰おうとした……? そんな訳ないだろう? 確かに緋鳥の血にはすでに人間も混じっているが、芥屋のに嫌われてはいけないと言っているんだよ?」

 これを薄く笑った剣客は、肩に担いでいた得物で宙を切り、絡みつく血と残骸を払っては鞘に納める。

「……本当に、好戦的なんだ」

 茫然とした声が人魚を秘めし少女から漏れ、片眉を上げた剣客が顎で彼女を示す。

「人魚が喰らうは歌に惑わされた魂――詰まる処は心。なれば、皮と骨が取れれば肉は必要なく、凪海は死せる塊に用はなし。……分からんか、クァン」

「何さ、突然」

「その娘から除外された肉を誰が屠ったのか。コイツ、凪海で拾った肉を従業員の無事を訪ねて芥屋に持ち寄ったんだ。齧りつつ、な」

「まさか……」

 鬼火が少女を振り返れば、合成獣の傍らでしゃがみ込んだ彼女はしきりに感心していた。

「へえー……この子、食べちゃったんだ、アレ。こうなってから結構経ってたけど……ああ、凪海には防腐効果もあるんだ。ふぅん、便利だね」

「……かのえ?」

 自分の肉を喰われたと聞いて、奇人街の住人でもないくせに、他人事のような反応を示す少女に眉を寄せる鬼火。

 顔を上げた少女は困ったように笑う。

「クァン、酷い顔してる。気にしなくていいよ。アレはもう、私のモノじゃなかったんだから」

「! だ、誰が人魚のことなんて気にするか!」

 瞬間、真っ赤に染まった鬼火は、ふんっと鼻を鳴らした。

 しかしすぐさま、少女と合成獣を見比べては、ため息をつく。

「……分かった。けどせめて、どこかマシなところに避けてやれないのかい? このまま売られでもしたら目覚めが悪いよ」

「気、回し過ぎなんじゃないか、クァン。……俺の時は扱い酷かったくせして」

 隠すのに最適な場所を求め、辺りを見渡す鬼火へ、未だ彼女を直視できない人狼が、最後にぼそりとつけ加えつつ言う。

 途端に鬼火が自分の身を守るように抱き、身構えたなら、人狼の耳が伏せられた。

「……本当、回し過ぎ。何もしないって。俺も人は選びたいし」

「がっ!? しっかり反応したくせしやがって……言うにこと欠いて、どういう了見してんだい!?」

「仕方ないだろう。……俺だって、クァンなんかに心動かされたくなかったよ」

「――――っっ!!」

「落ち着け、クァン」

「だって、史歩、だって!!」

 涙目になる鬼火。

 宥める剣客は途方に暮れた顔つきで人狼へ先を促す。

「で? 気を回しすぎというのは?」

 自分の気持ちを正直に話しただけの彼は、釈然としない面持ちで言った。

「あのさ、伏しているから忘れてるようだけど、コイツ、緋鳥だよ?」

「そんなの見りゃ」

「三凶の」

「…………」

 ピクッと剣客の目元が僅かに震えた。彼女にも被さる忌まわしき通り名を、強さを表すものとはいえ、彼女自身は嫌っていた。そのせいで、歯牙にも掛けない軟弱者が勝手に怯えるがゆえに。

 人狼も剣客の不穏には気づいているらしく、苦い顔になる。

「元よりシウォンと肩を並べた逸話持ちだし。誰も持ってかないって。そんなモノ好きがいるんなら、俺、見てみたいくらいなんだけど」

「…………分かった」

 渋々、鬼火は頷き、

「んじゃ、行こうか?」

 剣客の出現からやり取りを放棄した店主が言えば、全員の視線が彼に集中した。

 これへ怯みもせず、店主はへらへら笑い続け、後ろをノックして示す。

「エレベーターが来たから、さ?」

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