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奇人街狂想曲  作者: かなぶん
第六節:慟哭

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第5話 行きずり道連れ

 読み違えたとクァン・シウは舌打ちする。

 若い恋人たちを攫ったと思しき人狼を焦がし、脅し、手に入れた情報から、本当の狙いは泉であり、彼女を幽玄楼へ連れて行く手筈だったと知った。

 これでは何のために二日酔いのランへ人狼女を宛がったか、分からぬではないか。

「たかだか人間の小娘一匹誑かすだけだってぇのに、下っ端使うなんざ、落ちぶれたもんだよ、シウォン! なに考えてんだ、あのエロオヤ――ガキめ!」

 薄いドレスが翻り、白い腿が露になっても気に留めず、クァンは虎狼公社の煌びやかな街並みを走る。

 時折、下卑た目つきが行く路を遮るが、躊躇いなく炎で焦がしては蹴り倒す。

「邪魔だ、ガキ共! くそっ、どっちだ!?」

 歯を剥いて唸り、額の角を持つに値する形相で左右の路を選ぶ。

 近いのは左か。

 得た情報では、適当に二つの店へ宛がったという。

 クァンの目的はかのえの方であり、少年はあまり重要視していない。

 最初はどちらもそこまで重要とは考えていなかった。

 ただ、幸せそうな様子だったから、助けてやっても良いかな、ぐらいの気持ちで。

 だが、泉がシウォンの手へ落ちるなら話は別だ。

 もうあの少女に会う機会はないだろう。

 天を衝くほどプライドの高い人狼が、わざわざ下に任せるくらい欲したのなら。

 せっかく見つけた歌を、そう簡単に手放すわけにはいかない。

 クァン自身の目的のために――。


「ここか!」

 客引きの獣面を炎で張っ倒し、ギラギラ輝く店へ入る。

 手当たり次第に睦言、もしくは辱めを交わす部屋を開け、二階に上がっては半裸でベッドに押し倒された赤い髪を認めた。

 これへ圧しかかろうとし、クァンの乱入へ顔を顰めて振り向く男。

 何事か言わせる前に炎で全身を撒いた。

「ハズレ! ああ、もう、ついてない!」

 炎に呑まれた悲鳴を文字通り一蹴し、動かない少年の腰帯を引っ張る。

 途端、襲う臭気から眉を顰めて口を塞ぎ、少年の身を炎で包み込んだ。

 ぼんやりした表情が火への恐れに転じたのを見て、包む炎を消し去る。

「な、なんだ……いや、俺は何を?」

「薬に当てられたのさ。香は燃やしたんだから立てるだろう?」

 ぺしっと一回頬を軽く張れば、少年の視線がのたうち回る男へ向けられ、青ざめては水色の衣服を整えた。

「あ……え……う、あ……だ、大丈夫だ! 大丈夫なんだ、俺は!」

 美麗な顔をくしゃくしゃに歪め、頭を掻き毟って振る。

 クァンは見事な動揺っぷりへ小さく舌打ちすると、腕をぐいっと持ち上げた。

 ここでようやく、はっとした顔つきになった少年はクァンを見、

「アンタ、誰だ!?」

「……くそっ、世話のかかるガキだ。……アタシよか、かのえが先だろ?」

「かのえ!? アンタ、あいつを知ってるのか!?」

 掴んだ腕を逆に掴み、増して蒼白な面持ちとなる少年。

 クァンはしばらく呆気に取られていたが、転じては嬉しそうに目を細めた。

(良いねぇ。羨ましいよ、かのえ)

 しかし、一瞬のこと。

「話は後だ! ついて来い!」

 少年を引き寄せてはよろける身も構わず、走らせようとし、気づいては未だ炎に燻る男から靴を失敬する。

「とりあえず、これを履け」

 躊躇はあったが、裸足で外を走るのは危険と知って履く様に、クァンはかのえの身を案じる度合いを認めた。

(奴にも……このくらいの気概があったなら)

 浮かんだ遠い裏切りへ毒づき、

「うっ、ぬ、温い」

「体臭は焼いてやったんだから、それくらい我慢しな」

 かぱかぱ鳴る音を後ろに、かのえの無事を祈るクァンは走りを再開する。


* * *


ずぷり……

 埋まる刃の感触、脈打つ臓物の振動。

 ぞくりとそそるのもそこそこに、力任せに横へと抜き払う。

 おびただしい血で地を染め、倒れる生白い肉体を一瞥し、間髪入れずに襲い掛かる白い腕を飛び退り様、切断する。

「くはっ、堪らない! ああ喰いたい!!」

 史歩は元々、芥屋へ晩飯の材料を買いに来たのだ。

 もしくは、晩飯そのものをいただく腹積もりで。

 当てが外れた今となっては、手から伝わる絶命の歓喜より、食欲だけが後を引く。

 食す代わりに溢れる唾を呑み込んでは、咽せかえる花と血の匂いに酔いしれる。

 だが、堪能している暇はなかった。

「くぅ、もったいない! なんて間が悪いんだ、こいつ等! よりによってこんな時に現れるなぞ!」

 叫びつつも、四肢の伸びきった生白い化け物・幽鬼(クイフン)を斬る手を休めず、目的とは正反対へ視線を投じた。

 幽鬼の出現により静まり返った夜路には、何もないが。

「猫……どうして店主を連れていった?」

 幾分寂しい思いに駆られながら、背後から襲いくる生白い裸体を見もせず斬り伏せた。


 突然現れた幽鬼を叩き伏せて後、群れ為す身体を嬉々として始末。当初の目的をすっかり忘れ始めた頃、不意に近寄る黒い影に反応した刃がその下を擦り抜けた。

 目測を誤った――即、死を招いたと内で悔いれば、衝撃音。

「ぐげぇ」

 ただしそれは、刀を振るう姿をへらへら見ていた店主のいる辺り。

 率先して前を走る姿はどこへやら、史歩が戦い始めたのと同時に立ち止まってこれを眺めるだけだった黒一色に、問答無用で飛び掛かったのは――。

「……猫?」

 虎姿の愛おしい影の獣は、金の眼で史歩を一瞥しては、地に叩きつけたワーズの襟首を咥えたまま、進むべき方向とは逆を走り出した。

「ぬおおおっ!? ちょ、ちょっと猫! いくらボクが丈夫でも、足とか手とか擦れたら痛っタタタタタタタタタタ―――!!!!!」

 引き摺られるワーズは顔だけ笑ったまま、ひたすら情けない声を上げ続ける。

 無尽蔵に集まる幽鬼の中に取り残された史歩は、目は猫へ釘づけ、払い一つで生白い手足、首を切断していき、

「どうして……私じゃダメなんだ?」

(……まあ、さすがにあんな風に引き摺られたいわけじゃないが)

 路上には何もないが、路自体には抉り取られたナメクジ跡が続く。

 一帯を血で染め、生白い身体が骸のみとなってから、頭を一つ掻いて影と黒が去った方向を背にする。

 例え猫が恋しかろうとも、一時忘れようとも、現在優先すべきは彼女だ。

「……いや、待てよ?」

 不意に思い立ち、史歩の足が行き先を変えた。

 そこにあるのは歩いて数歩のクァンの店。

 泉を助けるにしても、”奴ら”は一筋縄で行かない。

 感触を思い出して、ぶるりと身震い一つ。

 ワーズが言ったように、今回猫は役に立たないが、史歩とて役立てるかと問われれば、否。

 真実力になれる者を挙げろと言われれば、適役は唯一人。

 史歩でも倒すに骨の折れる”連中”は、以前、知人となった男女を住処へ引きずり込み、己と共に泡と消えた。後でこれを知った経営者は、業火を纏って忌々しいと鬼の形相を向けてきたものだが。

「私に言われてもな……」

 嫌な記憶に渋面をつくりながも、それでもやはり、あの力は必要なのだと鬼火の店へ向かう。

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