第三十五話
私とアルダム。
そのどちらも口を開かなかった。
……開けなかった。
何とも言えない空気が私達の間に充満する。
「え、ライラ様……?」
「っ!?」
そんな私を正気に戻したのは、マリアの声だった。
その瞬間私は悟る。
なにも考えずに、身内の前でこんなことをしてしまったことに。
あまりの衝撃に私の頭は真っ白になり、涙目になる。
本当になにをしているのだ私は。
しかし、そう呆然としている時間も、私には与えられなかった。
「ライラ様にはお好きな……」
「わあああああ」
「ん!? むぐ! むぐぐ!」
次の瞬間、私は自分でもこんなに動けたのか、という動きでマリアの口を押さえていた。
まさか、この勘違いがここで響くとは……。
ちゃんと訂正しておけば良かった。
そう思いながらも、私は必死にマリアの口を押さえたまま扉に移動していく。
「ま、まあ、アルダムにはそれくらい感謝しているってこと! 本当にありがとうね!」
「え? あ、はい」
「急に忙しくなったので私はこれで!」
「あ、はい」
アルダムの言葉がはいしかないことにつけ込んで、私はずるずると扉にいどうしていく。
「それじゃ、またゆっくり話しましょ! 落ち着いたら連絡するから!」
本当は私の心が整理できたら、だが。
「身体壊さないでね!」
それだけを告げて私は扉のそとへ、おとなしくなったマリアをいそいそと運送する。
「え、はい。ライラ嬢もお大事に……。どうしました?」
その途中、聞こえたアルダムの言葉に、私は部屋の中に舞い戻った。
「ライラ」
「……はい?」
「建前でも私達は夫婦なんでしょ。いつまでも嬢はおかしいわ」
顔の赤みを自覚しながら、私はそう胸を張って告げる。
それに同じくらい顔を赤くしながら、アルダムが告げる。
「そ、それでは。……ライラも身体を大事に」
ああ、頬がゆるむ。
告白ではないただの契約でしかない結婚。
だが、今はそれで満足しておこう。
「はい。──旦那様」
私は足早に部屋を去っていく。
その口元には、隠し切れない笑みが浮かんでいた……。
何とか更新できました……。
次回最終話で、その後番外編が諸々続く予定になります。




