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第三十一話

「ひ……」


 押し殺した悲鳴がマキシムの口から漏れる。

 ……そこにはもう、初夜式の前のアルダムを見下した態度は一切残っていなかった。


「もう一度問おう」


 そんなマキシムにもう一度ゆっくりアルダムが告げる。


「先ほどの書類は何らの勘違いである、そう誓えるか? 答えよ」


「は、はい……! あれは不幸な行き違い故のただの勘違いです!」


 そう必死に叫ぶ、マキシムに私は呆れる。

 あれだけ息巻いていたくせに、いざアルダムを前にすればこうなるのかと。

 しかし、そう思いながらもしかなくもあるか、と思ってしまうほどの迫力が今のアルダムにはあった。


「そうか、ならよかった」


 その雰囲気を急に霧散させたのは次の瞬間だった。

 いつものように人の良い笑みを浮かべたアルダムは告げる。


「私も、長年つきあってくれていたドリュード伯爵家にそのような事はないと思っていたのだ」


「は、はは……。私は常に公爵閣下に忠誠を誓っておりますので……」


「ははは。私ではなく、国王陛下に誓うものだぞ、それは」


 その瞬間、露骨にマキシムが安堵し、緩んだ空気が流れる。

 ただ、アルダムの口調が変わっていない事に私は気付いていた。


「まあでも、覚えておくといい」


「は……? 何を……」


「──次はないからな?」


 笑顔のまま、先ほどと比にならない圧をかけるアルダム。

 最前線において魔獣と戦い続ける英雄のその覇気を真っ正面からうけたマキシムが固まる。


「……公爵閣下の慈悲に感謝を」


 その後にはもう、マキシムには一切の反抗の意志は残っていなかった。

 それを確認した上で、アルダムは今度は私へと口を開く。


「レディの晴れ舞台に無遠慮でした、どうかお許しください」


「いえ、私も不確かな情報で公爵閣下のお手を煩わせてしまい申し訳ありませんわ……」


 そう言葉を交わしながら、私は内心思う。

 それにしても、本当にこの人は華がある人だと。

 この場の空気を一気に自分のものとしてしまった。

 ……そのおかげで、私への非難が薄れていることに私は気付いていた。

 そんな私の内心を知らずか、申し訳なさそうな表情をしたままアルダムは続ける。


「その上に無遠慮なお願いではあるのですが、ここで私から公開させて頂いてよろしいでしょうか」


「……ん? いえ、何かありましたらどうぞ」


 そう言いながら、私は何かその言葉に違和感があることに気付いていた。

 アルダムの言葉ぶりだと、まるで私とアルダムで共通の発表があるようではないか。


 そして、それは私の思い違いではなかった。


「それでは私の口から皆様にお知らせを。──この度、私アルダムは正式にライラ・スリラリアを妻と迎えます」


 その時、私が驚きで悲鳴を上げなかったのは奇跡というべきだった。

 いや、驚きすぎて声がでなかったというべきか。

 そんな私の視界に、マリアの顔が映る。

 ……心底申し訳なさそうな表情をした、その顔が。


 ──私はこの契約を決めるために大変な越権行為を行いました。


 かつてマリアから聞いた話が私の頭に蘇ったのはその時だった。

 同時に私は理解する。

 この話をなぜ初夜式の前にしなかったのかということも。


 ……こんな話を聞いて私が正気でいられる訳がないという判断からであることも。

 現に今、私は完全に固まってしまっているのだから。


「どうしたんだ? 照れてしまったかい?」


 そんな私をフォローするように、アルダムが私の側にやってくる。

 傍からは密着しているように見えて、その実距離感を保った場所に。


「だが、公爵家当主アルダムが宣言しよう。貴女の領土、スリラリアを誰からも、例え伯爵家などの大きな貴族からも守ってみせると!」


 情報量で頭は爆発寸前で、顔は熱すぎて火が吹き出そうだ。

 周りががやがやとうるさく、マキシムが何かを叫んでいる。

 …ただ、それさえ今の私には入ってこなかった。


「それでは今後も公爵家を、我妻ライラ・スリラリア・バルダリアをよろしくお願いします」


 ──それが私の頭に残った唯一の言葉だった。


 どこまで続くか分からないですが、もう少し更新させていただきます。

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