挑戦
何故こうなったのか。
「イロ様、どうか僕も連れて行ってください!」
「断る」
地上に降りて村に戻ろうとして言われた言葉に、私は即座に断った。何故かといえば、ドラゴンと居て良いものではなさそうだからだ。多くの人はさっきのおばあさんのように怖がらせてしまうだろう。それにもし狙われたりしたら、巻き込まれてしまう。ここのドラゴンがどう扱われているか分かってもいない。
「ドラゴンと人では何かと違うものがある。人の1年がドラゴンにとって数分のことだということも有り得るのだ」
「僕はそれでもいい。世界をもっと見てみたいんです。…イロ様と共に」
私は思わずじっとフェードリアスを見つめた。
「フェードリアス、何を考えてそう言った?」
「フェードでいいですよ、イロ様」
フェードリアスは笑いながら、村の方向を見つめた。そして私を見上げる。
「イロ様は、この世界のどこまで知っていますか?」
「何も知らぬ」
「…そうですか。僕も知りません、生まれてから1度も外に出たことがありませんから。けれど、僕になくて、イロ様にはどこまでも行ける翼がある。より多くの世界を見ることができますよね。でも、1人で旅するのは寂しくはないですか?」
意外と貪欲な願いな気がする。世界を見るために、私を足にするとでも言いたげだ。でも、そんな事が言いたいわけではなさそう。一緒に行こうというのかな。
「先程空を飛び、イロ様の言葉と笑顔を見て思いました。この方となら、どこまでも行けそうだと。今は軽い言葉です。でも、この言葉をいつかは貴方と…。旅をして、僕が終わる時にもう一度言いたいんです」
「…厳しい事を言うかもしれぬが、今の私にとって、村人としか思えぬぞ。要するに、連れていくのに私にとって得はないわけだ」
簡単にいいなんて言える訳がない。寿命も違う。今となっては力も違う。私にはまだその勇気などない。だから、どんな言葉でもいいから諦めさせないといけない。先に死んでしまう人を見るなんて、ちょっと怖いから。
「人は弱いぞ。今の私と歩むには足りぬ」
「貴方が思う程に僕は弱くはありません。…そこまで言うのなら、僕の力を見せます」
…ん?
「イロ様、僕は森に住む魔物に挑みます。見事倒すことが出来たら、私を連れて行ってください」
何故危険をおかそうとするんだろう?そこまでついてきたいのか。条件を自分で出している。それが難しいかはさておいて。これを了承してもいいのやら。
「どんなやつを相手にするのだ」
「森の邪と呼ばれる魔物です。僕より3倍ほど大きい狼です。森の魔物をまとめる魔物ならば、そこら辺の魔物より強いでしょう」
死ぬ気なのかな。私の目の前で死なれても困るんだけどな…。死なす気もないし、でもほっといたら自分で行っちゃいそうだし。
「むぅ、私もついて行くが、それで己の命を大切にしないのなら、私は去るぞ」
「はい、死ぬつもりはありませんので」
やる気満々だ。これ以上は何を言っても無駄になるだろう。むー、良いのかな。やらせても。
『やればよい。汝の思うようにな』
心の奥底で、誰かがそう言った。私は違和感に思うことなく、頷いた。
「ならゆくぞ。今すぐにやれるのならばな」
そっぽを向きながら許しを出すと、息を呑む音が聞こえた。笑っているような気配を感じて、ドラゴンである表情をへの字にさせた。
「今すぐにでも。武器を取ってきます」
フェードは足早にかけていく。人として、信じられないほど早い動きで山道を歩いていく。木の根やら坂やら危ない道を軽々と。最終的には崖から飛び降りていった。
「これは、了承してよかった...のかな」
どうにも連れていくしかなさそうな予感がして、私はそっとため息をついた。




