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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第6章_夏空の下
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11話《その手を取って》

「あっ、あの……か、かれ、さっ、さん」

「じっとして。大丈夫だから」

「は、はい……」


 鏡の前、緊張した様子のルミの肩に触れながら歌恋かれんは優しく声をかける。しかし、ルミの緊張は解けることなく、背筋がピンと伸び、体には力がこもって小刻みに震える。

 なんともいえぬ雰囲気が漂っているが、二人が行っている行為自体は、それほど大したことではない。


「えへへっ、ルミの頭にお団子二つ」

「うぅー、遊ばないでください」


 夕月ゆづきにもらったチケットを使い、二人は今話題の室内プールへと足を運んできた。

 互いに選んだ水着を身に纏い、いざプールに向かおうとした時、歌恋の目に、ルミの長い髪が入ってきた。


「ルミ、その髪じゃ泳ぎにくくない?」

「えっ?あぁ確かに。やっぱり一つに結んだほうがいいかな」

「……ねぇルミ。私が髪の毛まとめてあげようか?」

「え?」


 そして今にいたのであった。

 満足そうな表情を浮かべる歌恋と恥ずかしそうにするルミ。


「それじゃあ行こうか」

「歌恋さんはしないんですか?」

「私はルミみたいに長くないからこのままでいいの」

「……伸ばしたりしないんですか?」

「んー……迷い中。スポーツには不向きだと思って短くしてたし」


 歌恋は自分の髪の毛先をいじりながらそう呟いた。

 長くも短くもない、なんの混じり気もない真っ黒な髪の毛。ルミはじっと見つめて、ポツリと呟いた。


「似合うだろうな……」

「んっ、何か言った?」

「いっ、いえ」


 勢いよく椅子から立ち上がったルミは、そのままプールの方へ行く。一瞬見えた恥ずかしそうな表情に、歌恋はわずかに笑みを零して、その後をついていく。

 話題とはいえ、人数が決められているため、プールにいるのはほんのわずか。人の多いところが苦手なルミでも、周りを気にすることなく楽しむことができる。


「はぁ……気持ちぃ……」

「……」

「んっ、ルミ入らないの?」


 プールサイドに座ったままのルミは、ただ足をつけているだけで中に入ろうとはしなかった。


「あっ、えっと……わ、私泳げなくて……」

「足つくから大丈夫だよ。それに、私が傍にいるし、大丈夫だよ」


 ルミに手を伸ばし、歌恋はにっこっと笑みを浮かべる。


「おいで」


 ほんのり顔を赤くしながら、ルミはその手とる。その光景は、まるでおとぎ話のワンシーンのように、王子と姫が手を取り合っているようだった。


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