11話《その手を取って》
「あっ、あの……か、かれ、さっ、さん」
「じっとして。大丈夫だから」
「は、はい……」
鏡の前、緊張した様子のルミの肩に触れながら歌恋は優しく声をかける。しかし、ルミの緊張は解けることなく、背筋がピンと伸び、体には力がこもって小刻みに震える。
なんともいえぬ雰囲気が漂っているが、二人が行っている行為自体は、それほど大したことではない。
「えへへっ、ルミの頭にお団子二つ」
「うぅー、遊ばないでください」
夕月にもらったチケットを使い、二人は今話題の室内プールへと足を運んできた。
互いに選んだ水着を身に纏い、いざプールに向かおうとした時、歌恋の目に、ルミの長い髪が入ってきた。
「ルミ、その髪じゃ泳ぎにくくない?」
「えっ?あぁ確かに。やっぱり一つに結んだほうがいいかな」
「……ねぇルミ。私が髪の毛まとめてあげようか?」
「え?」
そして今にいたのであった。
満足そうな表情を浮かべる歌恋と恥ずかしそうにするルミ。
「それじゃあ行こうか」
「歌恋さんはしないんですか?」
「私はルミみたいに長くないからこのままでいいの」
「……伸ばしたりしないんですか?」
「んー……迷い中。スポーツには不向きだと思って短くしてたし」
歌恋は自分の髪の毛先をいじりながらそう呟いた。
長くも短くもない、なんの混じり気もない真っ黒な髪の毛。ルミはじっと見つめて、ポツリと呟いた。
「似合うだろうな……」
「んっ、何か言った?」
「いっ、いえ」
勢いよく椅子から立ち上がったルミは、そのままプールの方へ行く。一瞬見えた恥ずかしそうな表情に、歌恋はわずかに笑みを零して、その後をついていく。
話題とはいえ、人数が決められているため、プールにいるのはほんのわずか。人の多いところが苦手なルミでも、周りを気にすることなく楽しむことができる。
「はぁ……気持ちぃ……」
「……」
「んっ、ルミ入らないの?」
プールサイドに座ったままのルミは、ただ足をつけているだけで中に入ろうとはしなかった。
「あっ、えっと……わ、私泳げなくて……」
「足つくから大丈夫だよ。それに、私が傍にいるし、大丈夫だよ」
ルミに手を伸ばし、歌恋はにっこっと笑みを浮かべる。
「おいで」
ほんのり顔を赤くしながら、ルミはその手とる。その光景は、まるでおとぎ話のワンシーンのように、王子と姫が手を取り合っているようだった。




