12話《無音の世界で》
「せっかくなら、泳ぎの練習する?」
「い、いいです。今はこうやって……手を握れて、入れれば」
向かい合って両手を握り、歌恋はプールの中をゆっくりとルミの手を引きながら進んでいく。
ゆったりとした時間が心地よく、ルミは今の時間を楽しみたいと思っていた。
「まぁうちの学校はプールがないから水泳の授業もないし、問題ないけど、もしもの時泳げたらいいよ」
「歌恋さんは、泳げるんですか?」
「人並みには。けどまぁ、ルミに浮き輪って、破壊力あるよね」
「むっ……子供ぽいってことですか?」
俯いてむっとするルミ。何度見てもその表情が愛おしく感じて、歌恋は握っていた手を勢いよく引き寄せて、そのまま抱きしめた。
「……こんなことしても、私の機嫌は治りませんよ」
「顔真っ赤にしても説得力ないよ」
普段よりも露出が高い分、服の上からの感触と違う柔らかさに、不機嫌になりながらも意識せざるを得なかった。
「ねぇルミ、あれ乗らない?」
ニヤニヤといたずらっ子の表情を浮かべる歌恋が指さす方には、入った時からその存在感を主張していた大きなスライダーがあった。
「入った時から乗ってみたかったんだぁ」
無邪気な子供のように目をキラキラと輝かせる歌恋。しかし、それに反してルミの顔は青かった。
「ねっ、乗ろうよ!」
「ぁ……えっ、と、あの……」
「もしかして高いところがダメ?」
「ち、違います……」
「じゃあなんで?」
「だ、だって……速い」
「……絶叫系が苦手ってこと?」
ルミは首がとれそうなほど勢いよく首を上下に振る。しかし、歌恋はスライダーを絶叫系だとは思っていないため、ルミの考えに首をかしげる。
その時、大きな音ともに水しぶきが上がる。スライダーに乗った人がプールに勢いよく落ちてきたようだった。その音を聞いた瞬間、ルミの体がビクンッ!と大きく反応した。
「よしっ、行こう!」
「えっ!む、無理だって、い、言ったのに……」
「えー、言ってないよう。言葉では伝えてもらってないよ」
歌恋はそのままルミの手を引いてスライダーへと向かう。ルミはわずかに唸り声をあげながらも、歌恋に手を引かれるがまま進んでいく。
「おぉー、高いね」
一段一段登るにつれ、目線はどんどん高くなっていく。
歌恋は楽しそうに登っていくが、ルミは登るたびに一歩が重く感じた。
「か、歌恋さん。やっ、やっぱり……」
「ここまできて無理とは言わせないよ。大丈夫、あっという間に終わるから」
「次の方どうぞ」
気づけばてっぺんに来ており、係りの方がにっこりと出迎えてくれる。
恐怖に怯えるルミ。歌恋は後ろからルミを抱きしめると、ゆっくりと前に進めていく。
「大丈夫。私が後ろからしっかり抱きしめるから」
「は、離さないで下さいよ。ぜ、絶対に」
「離さないって。大丈夫、しっかり抱きしめててあげるから」
「ひぐっ!」
「それじゃあ行ってらっしゃい」
歌恋に強く抱きしめられた瞬間に、ルミの心臓が大きく跳ね上がった。後頭部に感じる胸の感触に、腰に回された腕に。頭の中が一瞬にして真っ白になり、激しく沸騰した。
慌てふためく暇もなく、係りの人に言われるがままに、二人はスライダーを滑っていく。
歌恋の楽しそうな声が耳に聞こえ、ルミは体をこわばらせながら、強く目を瞑る。
激しい水音。だけどいつしか、あたりが静かになり、ルミはゆっくりと目を開いた。
「っ!」
水中の中だと認識するよりも先に、目の前にいる歌恋と目が合い、一瞬別の世界に来てしまったかのような錯覚に襲われた。
「プハッ!」
「あー、楽しかった!ねぇルミ、もう一回……ルミ?」
「へ?」
「どうかした?もしかしてどこか痛めたとか?」
「平気です。大丈夫です」
ルミは少しだけうつむきながらそう返答する。先ほどの光景を思い出すと、胸がグッと苦しくなり、ドキドキと心臓が激しく脈打つ。
「そう?だったらもう一回行かない?」
「行きません!」




