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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第6章_夏空の下
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12話《無音の世界で》

「せっかくなら、泳ぎの練習する?」

「い、いいです。今はこうやって……手を握れて、入れれば」


 向かい合って両手を握り、歌恋かれんはプールの中をゆっくりとルミの手を引きながら進んでいく。

 ゆったりとした時間が心地よく、ルミは今の時間を楽しみたいと思っていた。


「まぁうちの学校はプールがないから水泳の授業もないし、問題ないけど、もしもの時泳げたらいいよ」

「歌恋さんは、泳げるんですか?」

「人並みには。けどまぁ、ルミに浮き輪って、破壊力あるよね」

「むっ……子供ぽいってことですか?」


 俯いてむっとするルミ。何度見てもその表情が愛おしく感じて、歌恋は握っていた手を勢いよく引き寄せて、そのまま抱きしめた。


「……こんなことしても、私の機嫌は治りませんよ」

「顔真っ赤にしても説得力ないよ」


 普段よりも露出が高い分、服の上からの感触と違う柔らかさに、不機嫌になりながらも意識せざるを得なかった。


「ねぇルミ、あれ乗らない?」


 ニヤニヤといたずらっ子の表情を浮かべる歌恋が指さす方には、入った時からその存在感を主張していた大きなスライダーがあった。


「入った時から乗ってみたかったんだぁ」


 無邪気な子供のように目をキラキラと輝かせる歌恋。しかし、それに反してルミの顔は青かった。


「ねっ、乗ろうよ!」

「ぁ……えっ、と、あの……」

「もしかして高いところがダメ?」

「ち、違います……」

「じゃあなんで?」

「だ、だって……速い」

「……絶叫系が苦手ってこと?」


 ルミは首がとれそうなほど勢いよく首を上下に振る。しかし、歌恋はスライダーを絶叫系だとは思っていないため、ルミの考えに首をかしげる。

 その時、大きな音ともに水しぶきが上がる。スライダーに乗った人がプールに勢いよく落ちてきたようだった。その音を聞いた瞬間、ルミの体がビクンッ!と大きく反応した。


「よしっ、行こう!」

「えっ!む、無理だって、い、言ったのに……」

「えー、言ってないよう。言葉では伝えてもらってないよ」


 歌恋はそのままルミの手を引いてスライダーへと向かう。ルミはわずかに唸り声をあげながらも、歌恋に手を引かれるがまま進んでいく。


「おぉー、高いね」


 一段一段登るにつれ、目線はどんどん高くなっていく。

 歌恋は楽しそうに登っていくが、ルミは登るたびに一歩が重く感じた。


「か、歌恋さん。やっ、やっぱり……」

「ここまできて無理とは言わせないよ。大丈夫、あっという間に終わるから」

「次の方どうぞ」


 気づけばてっぺんに来ており、係りの方がにっこりと出迎えてくれる。

 恐怖に怯えるルミ。歌恋は後ろからルミを抱きしめると、ゆっくりと前に進めていく。


「大丈夫。私が後ろからしっかり抱きしめるから」

「は、離さないで下さいよ。ぜ、絶対に」

「離さないって。大丈夫、しっかり抱きしめててあげるから」

「ひぐっ!」

「それじゃあ行ってらっしゃい」


 歌恋に強く抱きしめられた瞬間に、ルミの心臓が大きく跳ね上がった。後頭部に感じる胸の感触に、腰に回された腕に。頭の中が一瞬にして真っ白になり、激しく沸騰した。

 慌てふためく暇もなく、係りの人に言われるがままに、二人はスライダーを滑っていく。

 歌恋の楽しそうな声が耳に聞こえ、ルミは体をこわばらせながら、強く目を瞑る。

 激しい水音。だけどいつしか、あたりが静かになり、ルミはゆっくりと目を開いた。


「っ!」


 水中の中だと認識するよりも先に、目の前にいる歌恋と目が合い、一瞬別の世界に来てしまったかのような錯覚に襲われた。


「プハッ!」

「あー、楽しかった!ねぇルミ、もう一回……ルミ?」

「へ?」

「どうかした?もしかしてどこか痛めたとか?」

「平気です。大丈夫です」


 ルミは少しだけうつむきながらそう返答する。先ほどの光景を思い出すと、胸がグッと苦しくなり、ドキドキと心臓が激しく脈打つ。


「そう?だったらもう一回行かない?」

「行きません!」


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