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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第5章_夏の嵐
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14話《歪んだ愛情》

はるみや、さん?」


 ゆっくりと歌恋かれんから体を離していく椎葉しいば。最初は驚き、唖然としていたが、徐々に徐々に表情は笑顔になっていく。


「部活?」


 いつも部室で尋ねるような質問。だけど、浮かべる笑みは優しい微笑みではなく、酷く歪んだものだった。それが怖くてわずかに一歩下がったが、ルミは震える体を必死に抑えながらコクリと頷いた。


「何、してたんですか?」

「別になんでもないよ……って、言いたいけど。聴いてたんだよね」


 スッと、瞬きを数どした瞬間に、椎葉の表情は笑顔から無表情になった。ルミはまた、びくりと体を震わせて一歩後ろに下がる。


「聴いての通りだよ。君に手紙や写真を送っていたのは僕だ」

「どうして、ですか……」

「それを僕に言わせるなんて、春宮さんは酷い人だなぁ」


 椎葉は、先ほど歌恋に向かって振り下ろそうとしたカッターを手に持ったまま、ゆっくりとルミに近づく。


「ルミに近づかないで」


 グッと椎葉のズボンを引っ張る歌恋。抵抗のつもりではあったが、椎葉はそんなもの全く気にせずに振りほどき、再びルミに近づく。


「春宮さん、君は僕が好きだ。汚れのない、純粋無垢な君が。そう……白百合のような君が。写真や妄想だけじゃ足りない。ずっと、僕のそばにいて」


 椎葉が一歩近づくと、ルミもまた一歩下がるが、元々入り口に近いところに立っていたため、すぐに追い込まれる形になってしまった。

 逃げないとと、辺りをキョロキョロとするルミ。その時、床に倒れている歌恋の奥にあるキャンバスに目を向けた。そこにあるのは、覚えのない自分の裸体の絵。書方のくせや色の使い方ですぐに椎葉の絵だとわかった。恐怖がこみ上げてくる、椎葉が人ではない別のものに思えて、怖くて怖くて仕方がない。


「あぁやっと君に触れることができるよ。いつも見てるだけで、想像でしかその感触を知れなかった。でも、やっとこれで……」

「やめ、って!」


 いつの間にか置き上がった歌恋は、椎葉の制服の襟を後ろに引っ張り、そのままルミを庇うように前に立った。


「本当に君は目障りだよ。なんで邪魔をするんだ……僕と春宮さんとの愛を!」

「愛?言ったでしょ。それは一方的な押し付けだって」

「君に言われたくないね!下心でずっとそばにいた君に!」

「……そうだよ。私はいつだってそうだ。夕月先輩の時もルミの時も。下心でそばにいた。だから、もう関わらないって決めた」

「だったら邪魔しないでくれないかい。君はもう関係ないんだから」

「関係ないよ。でも、目の前で泣いて怖がってる子がいるのに、放っておけない。関係ないからって、目をそらしたりなんてしない!」


 ルミを守るように両手を広げ、わずかに恐怖で体を震わせながらも、鋭い眼差しで椎葉に目を向ける。


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