14話《歪んだ愛情》
「春、宮、さん?」
ゆっくりと歌恋から体を離していく椎葉。最初は驚き、唖然としていたが、徐々に徐々に表情は笑顔になっていく。
「部活?」
いつも部室で尋ねるような質問。だけど、浮かべる笑みは優しい微笑みではなく、酷く歪んだものだった。それが怖くてわずかに一歩下がったが、ルミは震える体を必死に抑えながらコクリと頷いた。
「何、してたんですか?」
「別になんでもないよ……って、言いたいけど。聴いてたんだよね」
スッと、瞬きを数どした瞬間に、椎葉の表情は笑顔から無表情になった。ルミはまた、びくりと体を震わせて一歩後ろに下がる。
「聴いての通りだよ。君に手紙や写真を送っていたのは僕だ」
「どうして、ですか……」
「それを僕に言わせるなんて、春宮さんは酷い人だなぁ」
椎葉は、先ほど歌恋に向かって振り下ろそうとしたカッターを手に持ったまま、ゆっくりとルミに近づく。
「ルミに近づかないで」
グッと椎葉のズボンを引っ張る歌恋。抵抗のつもりではあったが、椎葉はそんなもの全く気にせずに振りほどき、再びルミに近づく。
「春宮さん、君は僕が好きだ。汚れのない、純粋無垢な君が。そう……白百合のような君が。写真や妄想だけじゃ足りない。ずっと、僕のそばにいて」
椎葉が一歩近づくと、ルミもまた一歩下がるが、元々入り口に近いところに立っていたため、すぐに追い込まれる形になってしまった。
逃げないとと、辺りをキョロキョロとするルミ。その時、床に倒れている歌恋の奥にあるキャンバスに目を向けた。そこにあるのは、覚えのない自分の裸体の絵。書方のくせや色の使い方ですぐに椎葉の絵だとわかった。恐怖がこみ上げてくる、椎葉が人ではない別のものに思えて、怖くて怖くて仕方がない。
「あぁやっと君に触れることができるよ。いつも見てるだけで、想像でしかその感触を知れなかった。でも、やっとこれで……」
「やめ、って!」
いつの間にか置き上がった歌恋は、椎葉の制服の襟を後ろに引っ張り、そのままルミを庇うように前に立った。
「本当に君は目障りだよ。なんで邪魔をするんだ……僕と春宮さんとの愛を!」
「愛?言ったでしょ。それは一方的な押し付けだって」
「君に言われたくないね!下心でずっとそばにいた君に!」
「……そうだよ。私はいつだってそうだ。夕月先輩の時もルミの時も。下心でそばにいた。だから、もう関わらないって決めた」
「だったら邪魔しないでくれないかい。君はもう関係ないんだから」
「関係ないよ。でも、目の前で泣いて怖がってる子がいるのに、放っておけない。関係ないからって、目をそらしたりなんてしない!」
ルミを守るように両手を広げ、わずかに恐怖で体を震わせながらも、鋭い眼差しで椎葉に目を向ける。




