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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第5章_夏の嵐
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13話《ガラス越し》

「どういう、意味……」

「え……」


 美術室について、扉を開けようとした瞬間、ルミは中から聞こえた声に思わず手を止めた。

 出入り口のガラス越しに中の様子を除けば、そこには椎葉しいば歌恋かれんの姿があった。


「歌恋先輩……」

「さもないと、匿名で学校掲示板にこの写真を貼ることになる」


 途中からの会話のせいで、詳しい内容はわからなかった。だけど、ルミは椎葉が手にしていた写真を目にした瞬間、扉から離れて身を隠した。

 その写真は花火大会の日、歌恋がルミにキスをして気持ちを伝えた瞬間のものだった。どうしてそれを椎葉が持っているのかという戸惑いと、そこから考えられる可能性である、彼に見られたのではないのかという焦りと恥ずかしさ。


「どうして君なんだ!僕じゃなくて、まだ出会って一ヶ月の君が、なんで僕の欲しいものを持っていたんだ!悔しいよ、妬ましいよ!部屋に貼っている彼女の写真じゃ満足しない。何度も何度も君の写真を切りつけても満足しないんだ!」


 ルミは耳を塞ぎながらその場に座り込む。

 椎葉が自分に好意を抱いている、ストーカーの犯人が彼だと知らないルミは、今までに聴いたことのない、荒々しい彼の声に恐怖を感じた。

 さっきの写真で歌恋が脅されているのであれば、もしかしたら自分も彼に脅されて何かされるのではないかと思い、体が震え、必死に声を抑えるが、目からはボロボロと涙が溢れてくる。


「怖い……怖い……」


 ずっとそうだった。怖くて、自分じゃどうにもできないから夕月ゆづきを頼って、今度は歌恋に頼って。二人に守られて、二人が側にいるのが当たり前になっていた。だから、一人でいるときに目の前にくる恐怖が酷く怖く感じた。

 そのとき、何かが崩れるような大きな音が聞こえた。

 耳を塞いでいた手を離し、ルミはゆっくりとガラス越しに中の様子を除いた。


「え……」


 そこには、椎葉に押し倒され、声を出せないように口元を抑えられ、必死に抵抗する歌恋の姿があった。椎葉の手にはカッターが握られており、わずかに赤い色がついていた。

 まさかと思った。あの優しい椎葉が、そんなことをするはずがないと。いつも笑って、仲良くしていた歌恋に、彼がそんな酷いことをする筈がないと。


「君が悪いんだよ。僕から春宮はるみやさんを奪って、汚して……大丈夫、君が心配していることは何もない。これは全部、彼女のためだから」


 その言葉で、やっとルミは理解した。ストーカーが彼だと。そして、自分のせいで歌恋がこんな目にあってると。

 全部、全部自分のせい。自分が弱くて、泣き虫だから、歌恋を巻き込んで、怖い目に合わせていると。

 泣きながら必死に抵抗する歌恋。椎葉はゆっくりと手にしたカッターを振り上げる。


「やだ……やめて……」


 感情が込み上げてくる。胸が苦しくて、言葉を口にするのも辛くて。それでも、聞こえてないかもしれないけど、子供のように嫌だと言葉が出てくる。


「やだ……嫌だ、だめ」


 また会えたのに、やっと顔が見れたのに。その表情が笑顔じゃなくて泣いてるかだなんて嫌だ。ルミが好きなのは、歌恋の、向日葵のような眩しい笑顔。その顔で、もう一度……



「やめて!」



 苦痛の声を上げなら、ルミは教室の扉を開いた。

 流れ込んでくる涼しい風。それを感じた瞬間、ルミは二人のいる場所へと立った。

 唖然とする二人は、じっとルミの姿を見つめる。


「ルミ……」


 求めていた表情ではなかった。だけど、もう一度名前を呼んでもらえたことが嬉しくて、息を荒げながらも、ルミは小さく笑みを浮かべた。


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