面倒事に巻き込まれる
街に出ると、寒気がした。なんでかなんて、道のわきを見れば一目瞭然。うつろな目をした人たちがだらしなく座っていたり、暗い顔した人たちがたむろして話をしていたり……。
なんか、あれだな……大災害にあった後ってこんな感じになんじゃね? みたいな?
途方に暮れた感じかな? 家とかなくなって、もうどうしたらいいかわからなくなった感じ? もうどこに行けばいいの、みたいな?
あぁ、わかった。きっと目的がないんだ。だから腐るだけなんだ。
街はいつも賑やかなのに、今日は異様な静かさ。
ううん、静かってわけじゃない。常にどこからか囁きみたいな、こそこそ話が聞こえてくる。それがたくさん重なって、大きな音にはなってるけど、違う。にぎやかとは程遠い。
「きもちわる……」
病院の、病気の空気みたい。なんか、いるだけで不安になる。死の雰囲気みたいだけど、違う。ただただ気色悪い。
「……」
街の路地のところどころ、大通りにも、座り込んで生気のない目をした人の塊がある。
一部では、興奮気味に、もしくは絶望のただなかみたいに内緒話を繰り返している。
歪だなぁ。気持ち悪い。
大通りのど真ん中をゆっくり歩きながら観察をした。でも目を合わせたら俺まで引きずり込まれそうだからほどほどに。
ここは大陸『ヨモギ』の『シイヤ』って言う街。癒しのアナグラムなのにね。今は全く癒されないや。
だめだ。ここやだ。病院嫌いなんだよ。帰りてぇ。
ちょっと情報収集どころじゃなくなって、ギルマス達に怒られに行こうかと踵を返そうとしたその時。
「っ!?」
いきなり後ろから口をふさがれて、路地裏に引きずり込まれた。
やばい! 寝起きでまだ頭がぼぉっとしてた!? 考え事しすぎて周りに気を配ってなかった!! 火事場泥棒とかいるもんね! え、俺殺される!?
周りの空気にあてられて気分がマイナスだったせいかもしれない。突然のことでパニックになってまともな思考ができなかった。
「んー!? んーんー!!」
「まて、落着け!」
めちゃくちゃに暴れたら耳元で声が……きもっ!!
「んーーーー!!!???」
「うわっ!?」
耳弱いんだよ気色悪い気持ち悪い胸糞悪いぎゃーーーー!!
後ろにいたやつに思い切り頭突きをした。俺より背が高かったからちょうど顎だったんだけど。頭痛いんだけど。
でもそんなことどうでもよくて、軽くパニくってる俺には関係ないのさ。
後ろを振り向きざまに足を蹴り出す。ちょうど腹に入ったらしくて、そいつは体を二つに折った。
俺は追い打ちをかけようとして……そのシルクハットと赤毛に見覚えがあって、掲げた足を元に戻した。
「帽子屋!?」
「だから、まてって、いったのに……」
あ、ごめん。鳩尾入ったっポイね。痛みはどのくらいだったかな?
……。
「わー!? ご、ごめん!! 大丈夫!? 体力回復薬飲む!? ほんとごめん!!」
ちょっと痛みに興味あり……とかいうのは後で聞くことにしよう!! うんごめんね! 俺の好奇心は常に刺激されてるんだぜ!?(錯乱
「あまり騒ぐな。めんどうだ」
そこで俺は周囲に目を向ける。
暗く淀んだたくさんの目がこちらを向いていた。
「場所を移そう……」
帽子屋は若干気持ち悪そうに腹を抱えながらも提案して歩き出した。
「ほんと悪い……」
帽子屋はきっとああいう目がこっちに向くのを恐れたんだろう。だからわざわざ誘拐の真似事みたいな……って納得できるか!!
「大丈夫だ」
とか言う声は超低音で不機嫌そうですけどね!!
てか、なんで俺だってわかったんだろ。厳重に装備してきたはずなのに……。
帽子屋は全く変わってない。んー、化粧落としただけ? 化粧なかったら印象は変わるけど……でもそんだけだ。顔は綺麗なままだし、身長も変わっていないように見える。腹立つな。
装備品も全く変わってなくて、だから帽子屋ってすぐに分かったけど、俺は違うよな? んーーー?
「帽子屋?」
「なんだ?」
「どうして俺だってわかった? 俺ってそんな変わってない?」
もちろん変わってるだろうけど、いろいろ聞きたい。ステータスでも見たか? 名前くらいなら見えるはずだし?
「お前は相当変わってる」
おいこら待て意味が違く聞こえるぞ? 俺は変人ってか!?
んん? 帽子屋もちょっとイラついてんのか、話し方がいつもより雑だ。こっちのがいいけど、余裕ないのかね?
あー、ダメだ。なんか混乱してる……。
「背が縮んだようだから、女かと思えば、声はほとんど変わらない。むしろ少し低いか? 本当の性別はどっちだろうな?」
「さぁ、どっちでしょ?」
にんまり笑って……つっても見えないか。とにかく口を大きく笑ませてやった。
「お前は……変わらないな」
さっきと言ってることが違う。そりゃもちろん含む意味も。
「俺はいつでも俺よ。少しパニクったりもするけどさ、落ち着きゃ通常営業するしかないべ?」
「それが異常だ。今の状況が異常なのに、なぜすぐ落ち着ける?」
本当は外見て混乱中。でも大丈夫って言い聞かせてる。虚勢でもはってないとな。こういう時は特に。
でも俺は茶化しておおざっぱな答えだけを言う。
「生きてるから?」
人間、生きてるからにはいろんな行動しないとな。そのためにはいつまでもアワアワしてても仕方ないだろ?
「強いな」
「いいえ全然。ぶっ壊れてるだけじゃね?」
家の中では異様に冷静だった。一人だったらきっと俺は何も思わなかったと思う。
そんなん、俺だって少し自分がおかしいってことは自覚してるさ。強いわけじゃねぇよ。
「それでも……」
帽子屋は黙った。
……あれ、そういや俺のことがわかったこと理由をまだ聞いてなかった。
けど、まぁいいか。そんな重要なことでもねぇだろ。ステータス見たってことでよし。
てかそれよりも気になることを発見した。
「あ、蹴りの感想を……」
「……」
どうもすっごく呆れさせてしまったようだ☆ でもでも気になるぅ♡(おえぇ。
「痛みのことか?」
自分でも俺と似たような実験でもしたのか、帽子屋の反応は早かった。
「え、あぁ、うん、そうそう。俺まだ対人の痛みとかは実験してないから……」
「対人? ふむ……。敵意や害意のあるものだと痛みは少し緩和されると思う。が、場合によるようだ。非戦闘区域ではその範疇にはないらしい。今のは完全に現実と同じ……かもしれん。やられたことはないから確証はない。そしておそらく、一定以上の痛みなど、命の危険がありそうなものは排除される。溶岩などフィールド上のそういうものは、痛みは感じないがHPは削られるようだ。後魔法に関してだが、自分の魔法は自分には効果がないし、攻撃に使うのなら何も感じない。物として利用するなら使えそうだが、冷房や暖房としては使いにくいだろう。炎や氷はほとんど一定以上の痛みになりそうだからな。ただ、そういう効果を得たいなら、炎をいったん生み出して、風を送ると感じられたりするようだ。いろいろ試してみるものだな」
「く、詳しいな」
うん、むずい。今の録音したから後でじっくり噛み砕いとこう。
とりあえずお湯わかせるから風呂入れるし、ある意味便利だな? で、熱湯入ることは無理。やけどするからな。って感じ?
はっ!? これでは押すな押すなのフリができな……まずやらねぇか。あ、でもあれ熱いけどギリギリ許容範囲かもしれな……やらないからいいか!
そういうのをすらすらと語られて、そこまで調べたのか、と多少引く思いだったが、必要以上に情報が仕入れられたからよか……
「死んでも痛みを感じないようだ」
「……お前、死んだのか?」
重大事項もさらっと言いやがったこのイカレ帽子屋。
違うな。感情をこめないようにした硬い声だった。あんまり取り上げたい話題じゃなかったか? 失敗した?
「私じゃない。お嬢さん……アリスが、目の前で、自殺した」
「……」
そういえば、いつもは取り巻きがいるのに今日は一人だ。
いつもいつも、お前ら仲良しすぎんだろってくらい一緒にいるのに。
「黒鷺」
ある程度人通りがなくなった、そういう閑散とした広場。
帽子屋は振り返って俺を見つめた。
「助けてくれ」




