謎の物体X
約束の一週間、七日目。
今日はハクが、用があるからっていつもより少し遅めに約束したのでその間溜めていた仕事を片付ける。
「書類整理完了しました隊長!!」
「よし。少し待ってろ黒鷺副隊長」
ギルドホーム最上階ギルマスの部屋にて。整理し終わった書類をギルマスに渡して敬礼をする。
「いやぁ、意外とギルマスってノリいいよなぁ」
副隊長とかw
「じゃなきゃギルマス務まるかっての」
「それは違うんじゃねぇかなぁ」
「んで? 今日も白狼とデートかよ?」
「腐女子わいちゃうぜ?」
少なくともこのゲーム世界では男同士ですぜ? 不用意な発言はやめていただきましょう。
そんなんいいからさっさと書類確認してくれよ。いや、俺が話しかけたんだけどよぉ。
ちんっ。
「あー、クロさんじゃん? どうしたの?」
シエルファが小さな箱をもってエレベーターから出てきた。
「んー、お仕事」
「えぇ!? クロさんが!!??」
「どんだけおどろいてんだよ、超失礼」
「だってクロさんいつも逃げてばっかで、会議にだって参加したのは数えるほどじゃないか!!」
うん! 確かにね! ごもっとも!! ギルド内の仕事ってほとんどしてないわ!!
「いや、まぁ、俺はそういうのじゃないかんなー。てか、これもちょっと違うんだよなー」
俺がやるギルドの仕事って基本裏方だしー。だからあんまり会議とか引率とかじゃないんだよなー。
でもこの書類はそういうのも含んでるっちゃあ含んでるけど、ちょっと現実の仕事も混ぜて書類として提出してるから、ギルドの仕事かって言われるとどうなんだろうね……。
「まいっか。マスター」
シエルファはとっとと話を変えた。自分がここに来た目的を果たすようだ。むっ、なんか納得いかんぞ。
「悪い、ちょっと待て。黒鷺」
「んあ?」
俺の方が先かよ。確認今の間で終わったんだ?
「内容は、了解した。ただ、俺だけじゃ何とも言えねぇな。てか、まじかよ……?」
了解とか言ってんのにマジとかいうなや。
「まぁ、またなんか頼むことがあるかもしれんな。非公式で。そん時はよろしく頼む」
「……了解」
リアルでも仕事来そうな予感か? 忙しいのはメンドくせぇけど、充実すんのは悪くねぇ。
にんまり笑顔で唇をなめる。ちょっと難題の方が燃えるから、来るなら嵐を望むぜ。だからって家ぶっ壊されても困るけど。
「何の話ですか?」
いいとこ坊ちゃんらしくギルマスには敬語。俺も目上のはずなんだけどなー。
「こっちの話な。シエルは何か用か?」
「それがですね」
そう言ってシエルファが持っていた箱を机の上に置いたので、俺は興味を惹かれて覗き込んだ。
「ナニナニ? なんなの?」
「知らないから困ってんだよ……」
「ん??」
「なんだ?」
ギルマスに向かって箱を開く。中に入っていたのは……。
「なにこれ?」
箱自体はB5のノートよりも小さく、中はクッションが敷き詰められていた。
その中央に薄い金属のプレートのようなものが置いてある。色は綺麗に磨かれた銀色。形は少し歪な台形。表面には少しへこんで黒くなった跡がある。
跡は、なんだろう……蛇がのたくったような字をさらにひどくした、蛇がのたうちまわったような模様、みたい?
「わかんないから困ってんだよ……」
さっきと似たようなセリフでため息をつく。本当に困ってそうな表情だな。
「マスター、分かりますか?」
「さぁ……『鑑定士』んとこには持ってったのか?」
サブ職『鑑定士』いろんなアイテムの詳細を鑑定したり、レベルがあがると鍵のかかった箱などを開けられたりするようになる。
時々未知のアイテムとかあるんだよなぁ。ちょっと特殊アイテム扱いで、そのままでは売るにもゴミ同然だし、使うに使えないしで困る。
そこで登場するのが『鑑定士』!! 未知のアイテムが宝に化けるか、ゴミのままなのかは運次第だが、そんな理由もあって『鑑定士』は常に需要がある。
だからうちのギルドの『鑑定士』はかなりの高レベルだ。ほぼギルド全部の鑑定とかしてるからね。そうそう鑑定不可能のものなんてないはずだけど……。
「それがですね。ダメなんですって」
「ダメ? どういうことだ?」
「そもそも鑑定できるようなものじゃないんだとか」
鑑定できるようなものじゃない? それは……どゆこと?
「鑑定不可能ってことは、オブジェか何かか?」
オブジェとはゲーム世界での建造物とか破壊不可能の像などの物質を表す。まぁ、プレイヤーのどうにかできる範囲外のものってこと。
「そんなの普通に落ちているわけないですし……」
まぁ、建造物や像が落ちてたらびっくりだわな。
「んじゃ、なんかのキーアイテムとか……?」
これも破壊不可能で、紛失も不可能だ。譲渡と捨てることは可能で、名前の通り重要アイテム。クエストとかで現れるものだな。
「それこそ鑑定できないわけないじゃん……」
重要アイテムは最初未知のアイテムとして入手して、鑑定して、クエスト発覚、みたいなのも多い。
つまり、鑑定不可欠。
「あ、むしろアイテムじゃないとか!!」
「じゃあどうやって存在してんだよ!!」
石ころバックに突っこんだだけでアイテム欄に表示されます。食べかすをバックに突っこんだだけでゴミと表示されます。
イコール、ゲーム世界のほぼなんでもアイテム扱い!!
「んー……てか、アイテム欄に突っこんだら名前くらいはわかるんじゃね?」
「あ、そっか!」
はっと思い出したように急いでバックに詰めようとするシエルファを、ギルマスが止めた。
「待て」
「え、はい」
「これどこで拾ったんだ?」
確かにそこ一番気になるところだったな。最初に聞くべきとこだったな。
なんで聞かなかったのか。だってまず正体が気になっちゃったんだもーん。俺は推理物、犯人わかってから見たい人なんで。とか言ってみる。いや、普通に読んでも面白いけど。
「それがですね、ギルドのメールボックスに入っていたんですよ」
「メールボックスに?」
メールにはアイテムが一個付けられる。でもアイテムなんて普通に送りつけることが可能だ。アイテムだけを送れる。
だからわざわざメールにつける必要なんてないのに、なんでメール機能を使ったんだろうか。
「差出人は? メール本体はどうした?」
「それが、メールには何も書いていなくて、差出人もなくて……」
「差出人もないの!? なにそれイミフすぎ!!」
メールは差出人なんて書かずとも必ず表示される設定だ。それがないなんて、バグか違法な手段か……。
……違法な手段? 考えすぎかな。
「メール本体はどうした?」
「き、消えてしまって……」
「消えた?」
自分の失態を思い出したのか、シエルファの表情は硬い。
「そうなんです。誰かが間違って消したのか、持って行ったのか……。本文はともかく差出人がないのはおかしいと思いまして、バグだろうと、運営に報告しようと思ったんです。ですが、それは少し手間がかかるので後回しにしてしまい……申し訳ありません、言い訳です。これに気を取られてメールをとっておかなかった僕の責任です……」
ギルドのメールボックスは倉庫同様共同だ。誰でも移動可能だし、シエルファが消すのは考えられにくいから他の誰かの可能性が高い。
だから慎重で、責任感が強いシエルファくんは、しょんぼりとしてしまっている。
「急いで探してみます。本当すみませんでした!!」
消えた、消えたねぇ……消されたわけじゃぁないよね? 違法な手段、遠隔操作、んー、できないことはない。
「いや、それはいい。探すならこいつの方が得意だろうしな。仕事もしてねぇし任せとけ」
「俺ぇ!? いいよ。やったげる」
自分じゃないからって、ただ人のせいにするわけじゃなくて、自分が悪いって反省してるいい子ちゃんには力になってあげましょう。
なぁんて、本当はしっかりわかってます。ギルマスの目がね、語っておりました。お仕事の予感ですね。
ついでにね、さすがに副マスとしてちびっこに責任全部取ってもらおうとすんのもあれだしねぇ。
「その代り、これ頂戴」
謎の物体Xを示す。
「運営に届けるべきだと思うんだがよ?」
バグなら報告すべきだろう。けど俺はこれがなんなのか興味あるし、調べてみたいんだよね、個人的に。
「解析終ってからでいいや。頂戴」
「そんなんでいいのか? わかった。交渉はしてみる。あんま期待すんだよ? でも仕事はちゃんとやれ?」
「メールの行方でしょ? そんくらいちゃんとやりますよ。あ、アイテム欄とかに入れんなよ? あぶねぇから」
これちょっと怪しい。神経質になってるかもだけど、少し慎重すぎるくらいでちょうどいいと思う。バックに突っこむとバックの持ち主が所有者、として記録されるからね。手にもって運ぶだけなら記録はされない。危険なし。
もしかしたらウイルスみたいなもので、感染すんのが持ち主って設定されてたらアウトでしょ?
「クロさん……」
泣きそうな顔でこっちを見てくるちびっこの頭をわしわしとかき混ぜる。
「わっ!? ちょっと何するんだよクロさん!?」
「ギルマスお人よしだから怒ってねぇぜ? しかもこの天才黒鷺さんがついてんだ。ちゃんと何とかしてやっから安心しとけって♪」
「じ、自分で天才とか(笑)」
慰めてやろうと思ったらこれだよ!! (笑)ってなんだよおいこら!! かわいくねぇちびっこ!!
「てめ……」
「でも、捨てられてたらどうするんだよ……」
また気分が落ち込んだ。浮き沈み激しくね!?
そうだよねぇ、普通捨てられてたらもう復元できないもんなぁ。運営に頼めば何とかなるかもだけどなぁ。でも俺にゃ関係ないんだなぁこれが。
「安心しろ。そのバカは自分で自分を天才と言えるくらいの腕がある」
「それって馬鹿にしてね? ギルマス?」
「気のせいだろ」
「ふーん……? ま、ほれ、ギルマスのお墨付きもあることだしよ。安心しとけって。な?」
シエルファの額を指ではじく。
「いたっ」
「にひひっ」
「なにすんだよバカクロさん!!」
「わー怒ったぁ☆」
「お前ら、じゃれんなら外でやれ!!」
「わっ、ここで怒んのかよギルマスぅ!? 沸点謎すぎる!! 行こうぜシエル!」
「う、うんっ」
「じゃなーギルマスー」
「し、失礼します!!」
二人で走ってエレベーターに乗り込む。
沈黙。
いや、話す内容なんてねぇよ。歳も違いすぎるしな……。
「あ、ありがと、クロさん……」
下を向いて、耳まで赤くして、超ちっさい声でお礼が聞こえた。
「……ぷっw」
かわいいとこあんなぁ……w
「な、何笑ってんだよ!! 人がせっかく……っ!!」
真っ赤な顔をあげて猛烈に怒り出すシエルファに、ニヤニヤがとまらん。くっそかわいいじゃないか。生意気なガキだとか思ってたけど、ただのガキだったわ。
「わりぃわりぃ! そんな怒んなって!」
「もー!! バカクロ!!」
「お前までバカクロ言うな!」
ギャーギャー言い合っていたらすぐに一階についた。ドアが開くと同時に俺は飛び出す。
「あばよーシエルファちゃん♪」
「ちゃん付けしないでよ!! バカクロー!!」
ダッシュでエントランスを抜けて外に出る。それから少しして、ギルマスから個人のボイスチャットが入った。
「もしもし?」
「よぉ、まだ少し余裕あるか?」
「五分くらいだな」
ギルマスの話を聞き流しながら、こっそりととっておいたプレートの写真を眺める。こっそりね、ここ大事。
んーーーー、どっかで見たことある気がすんだよなぁ、この模様。気のせい? デジャヴ?
「黒鷺、お前はどう思う?」
「さぁね。こういうことが多発してんなら“午前零時の楽しいこと”に関係するかもしれないけど……どうだろうね?」
小説やアニメ、漫画とかによくあるVRMMORPGで一番あってはならないこと。それはゲーム世界に閉じ込められること。ギルマスはそれを心配している。
そんなんなったら普通に会社の問題どころか、現実での死亡者が出るかもしれんからなぁ。あってはならな過ぎることだ。
だから神経質になりすぎて過ぎることはない。特に変な噂が出て、謎のバグが起きて、不思議な物体が出現したときなんかは、さ。
「……はぁ、ま、心配しすぎだとは思うんだけどよ……」
実際問題、そういうことができるのかどうかと言ったら、どうだろう? と首をかしげることになる。
百パーセント無理、というには、この世の中進化しすぎているし。昔の人から見たら空を飛ぶなんて夢物語もいいとこだろ? でも今は飛行機があって、空も飛べる。つまり、絶対なんてありえない。
だから無理とは言い切れないが、ゲームを封鎖なんて、やるには相当ハードルが高そうだ。だいたいそんなしょぼいセキュリティだったら危険すぎて発売できないしな。世間に認められるほどの防壁はってんだぜ?
「心配しすぎて困ることはないんじゃない? 予兆があるなら備えとくべきだ。ま、結論、うちのギルドだけじゃ何も言えないから行動には移せないけどね」
「だな……。とりあえず上に報告だな。なんかわかるといいんだがよ……」
声が相当疲れてる。ここ最近ピリピリしっぱなしだろうしなぁ。あんまり休んでないのか?
ま、下手な元気づけは逆効果だろ。ここは普通に意見を述べるに限る。
「なんかわからないのも困るけど、何か見つかるのも困りものじゃない?」
「やめろよ、そういうこというの……なんか疲れるわ……」
「ワリィワリィ。んじゃ、俺もう行かねぇと。じゃなー」
「おう。メールのことよろしくな」
「それこそ運営側に頼んだ方がいいんじゃね?」
「まだどうなったか決まってないからな。余計なことには時間かけらんねぇ」
メール自体はただの紛失かもしれんしな。でも差出人は……本体がないと証明難しいか。見間違いってこともあるしな。
「そうだな。まあ、頑張れ。友人として、法に触れない程度に協力してやっから」
「あぁ、サンキュ……じゃあ、白狼とのデート楽しんで来いよ」
「だーかーらー!!」
「はははっ」
俺が文句を言う前に、笑い声を残して切りやがった。
なんか、無性に、はーらーがーたーつーぅぅううううう!!




