時には撤退も必要です
「……失礼、しました」
廊下に出て規則正しく歩を進め、宿舎棟へと続くところにあるラウンジスペース横の自動販売機の前で足を止めたミリカは、がばっと両手で顔を押さえてしゃがみこんだ。
──間違えた! 思いっきり間違えちゃったよぉ……っ!!
高校卒業して即入隊、その後休む間も惜しんで訓練に励んだ日々のため、世間知らずの自覚を持ち、また実際にそうである彼女でも、先ほど自分がやらかしてしまった行動が、男の誘い方として間違っているとは分かっているのだ。
『5年前って、それは──世の中の人間男性諸氏にとって、重いと言われて敬遠されるのでは』
彼女の相棒のGARYに彼女の憧れの人の話をした時にそう言われ、そういうものなのかと青くなった記憶はまだちっとも薄れていない。
だから、いきなり告白などするつもりはなかったのだ。今回は、今度の非番の日には何をするのかを聞き出して、それから、あわよくばそれに付き合いたいと申し出るだけのつもりだったのだ。
なのに、彼のダークブルーの瞳に真っ正面から見つめられたと認識した瞬間、周囲46656k立体度をガリアンに囲まれても揺らぐことなく対処できるはずのミリカの脳は、突然沸騰してしまったのである。
そして飛び出したのが「デートしてください」という、己の欲求そのものだったとか、あまつさえ、冗談にされてほしくないと咄嗟に思った口からは出す予定の無かった出会いのことまで吐き出してしまって──もう! もうっ!!
──あああああばかああああわたしのばかあああああああ!!
こんな迂闊な自分だからお断りされてしまうのだと後悔と羞恥が彼女を襲う。しかし同時に思うのだ。
──でも司令、かっこよかった……!
柔弱でも精悍でもないが、厳然とした硬質の端正さをもったガレイド・フェリクスの容貌がミリカはとても好きだった。目尻に浮かぶ皺も、年齢を経て、それに見合った深みを持った男の顔立ちだ。彼女とは頭二つ分違う背の高さも、それを支える引き締まった体躯も、伸ばされた背筋も、張りのある低い声も皆、渋くて素敵だと思う。
これまではもっぱら歩き去る後ろ姿ばかり見ていて、よくて横顔を眺めるだけ、正面からまともに見たのは数える程度──それも短い時間だったから、先ほどのように見つめてもらえて、声をかけられるというだけで、どうしようもないほど嬉しかった。
はっきりきっぱり断られたことを考えると、気分は地面にめり込みそうに落ち込むのだが、認識してもらえたかと思うと天にも昇りそうなほど嬉しい。
乱高下する感情を抱えて、顔を押さえたままうーうーとうなっている彼女の様子は、端から見ても少々おかしく見えたようで。
「……何やってるの、ミリカちゃん」
怪訝そうにかけられたアルトの声に、ミリカは伏せていた顔を上げた。
◆ ◆ ◆
というようなのが読みたいのでキーワードとかに釣られて来た方はきっと同志! どうかついかっとなって書いてください! 僕は乙女心とか到底書けそーにありませんその前に発狂してしまうので、っつーか恋する乙女から見た男の描写にメンタルがごっそり削られました。なのでどうかよろしくお願いします!
あ、あと↓みたいなシーンがあるととっても嬉しいです。
◆ ◆ ◆
「小娘ですけど、もう大人です! だからっ……」
上目遣いでミリカはガレイドを見上げた。
「……手を出していただけませんか?」
──やられる。
何故かそんな単語がガレイドの頭をよぎった。
◆ ◆ ◆
「すみませんでした……」
悄然とうなだれてベンチに座るミリカを前に、ガレイドは嘆息した。
「なぜまたそんな、履き慣れないものを履いてくるんだ……」
それは独白のようなものだったのだが、問われていると思ったのか、ミリカは小声で答えた。
「……その、普通の靴だと、司令と並ぶと大人と子どもに見えそうで……」
いつもの歯切れの良い口調と異なるぼそぼそとした声に、ガレイドは彼女のつむじを見下ろして、一応、納得した。
「ああ──150センチくらいだからな、君は」
「も、もっとありますよ! ひゃくごじゅういってんはち、です!」
弾かれたように顔を上げて強い語調になるミリカに、ガレイドは「似たものだろう」と口に出すのを止めておいた。186センチの彼と並ばなくても子どもに見えてしまうというのも胸の内に留めておく。彼女の気持ちを受け入れがたいとは言え、不必要に傷つけることを望んではいないのだから。
「……そうか」
代わりに出てきたのはあたりさわりのない無難な言葉で、その軽さをごまかすためにガレイドは続けた。
「代わりの靴を買ってこよう。足のサイズはいくつだ?」
きょとん、とミリカは目をみはり、次いでその顔が見る間に赤くなっていく。
「いえ、そんなっ、自分で行きますから……!」
「その靴でこれ以上歩いて怪我をされても困る。いくつだ?」
「23センチですけど、あのっ……」
「分かった。ここにいるように」
言いおいてガレイドはさっさと歩き出した。追ってくる気配のないことにわずかに安堵し、先ほどの自分の発言を思い出して軽く眉を顰める。
──なぜ彼女が怪我をすると困るのだ。
いや、困るのは、ミリカ・サエグサが優秀なパイロットだからだ。他意など、あるわけが無い。
口を真一文字にひきしめて、ガレイドは歩みを早めた。
◆ ◆ ◆
背中に押し付けられた物体に全身が硬直している。
身長はちまいのに、何故にそれだけおっきいのだ。武器か。武器なのか。対個人用にしては殺傷能力が高すぎるんじゃないだろうか。いや自分は何を考えているんだ。
「……軍曹。離れなさい」
「名前を呼んでくださったら、離れます。どうしてもお嫌でしたら……振り払ってください」
言いながらも離すまいとばかりにしがみついてくるのはどうなのだ。困る。いや少しばかり嬉しいと思ってしまうから余計に困る。非常に困る。
「ミズ・サエグサ」
「ミリカ、と」
ねだるその声の甘やかさはなんだ。危険すぎる。
◆ ◆ ◆
「……ダメもとで、配属先を希望して。ここに来る事ができた時、ホントは正直、幻滅するかもしれないって、思いました。でも」
ミリカは、膝を抱えた。
「近くで見ていても、司令は真面目で、かっこよくて。だから、わたし……ちょっと、よくばってしまったんです。──お役に立てるだけで、満足すべき、だったのに」
優秀な部下という評価だけでは、足りなくなってしまった。
あの人の隣に立ちたいと、思ってしまった。
「……司令がかっこよすぎるのが、いけないんです」
◆ ◆ ◆
「私は、臆病でね。──大事なものを喪うのが、怖いんだ。だから、はじめから作りたくないと思うようになった」
──ああ、聞きたくない。
そんな、何も映していないダークブルーの瞳で。
そんな、寂しい拒絶の言葉を、言わないで。
真面目で優しい貴方が好き。
でも、その想いを向けられるのがわたしじゃないのが。
こんなにも──苦しい。
◆ ◆ ◆
「あの子を見殺しにする気か……!?」
「民間人の脱出が最優先だ。人員は割けない」
自分でも硬い声になっているのは自覚があった。けれど、それでも。
「サエグサ軍曹。──聞いてのとおりだ。救援は送れない」
罵られるのを覚悟でガレイドが告げた言葉に返って来たのは。
『……だから、わたしは、貴方を好きになりました』
柔らかい、多分微笑んでいるであろう、声。
──君は、どこまで。
ぎりっと奥歯を噛み締め、ガレイドは続けた。
「それでも、命令だ。──無事に私のところに戻ってこい。君に言わなくてはいけないことがある」
『……今では、だめですか?』
「だめだ」
『……アイ、サー。ミリカ・サエグサ、ただいまより、帰投します』
──貴方のところへ。
吐息のような言葉を残し、通信は途切れた。
◆ ◆ ◆
『心拍数と血圧上昇。カンフル剤は投与しておりませんが』
「必要ないわ」
──戻ってこいと言われた。私のところに、と言われた。
それだけで、頑張れる。
ペダルキック。ミリカの体を襲う慣れ親しんだ加速度。
──生きて還る。
わたしは、絶対に、あの人をおいて、死んだりしない。
『乙女パワー、ですか。ずいぶん偉大で謎な力ですね』
「GARYどこでそんな言葉覚えてくるの、よっ!?」
たてつづけのロックオン・発射。
四散するガリアンの横をすり抜け、三体撃破を告げるAIの声を聴きながらミリカは機体を操った。
◆ ◆ ◆
以上電波受信した部分でした。とりあえず口数多いAIとか敵性異形生命体とかのベタもお約束も大好きですのでよろしくお願いします。
まだよく状況がつかめていない方への説明
・この作品は同好の士を集めるためのトラップです。
・要するに、自分で書いてもそんなにもえないので、同じ様なのが好きな方にサンプル提供して妄想たぎらせて書いてもらおうという作戦です。間埋めてくださる方がもしおられたら別に許可とる必要ないのでがんがんやっちゃってください。あ、でもこんなの書きましたけどどっすかーなご連絡いただけたらこっそり訪問してニヨニヨします。
・別に設定そのままのがみたいというわけではなくて、むしろ「この作者ダメすぎる俺が下克上年の差可愛い子ちゃん攻めおっさん受けの真骨頂見せてやるよ……!」という魂に火がついたら幸いです。喜んでもぐもぐしに行きます。でもびーえるはちょっと苦手ですのでのまかぷでお願いします。
・罠なので連載中のままですが今後の更新予定はありません。ありませんったらありません。
・はじめに謝っておいた理由はご理解いただけたと思いますが、同様の所行はもうしませんので許してください。