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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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レックの訓練③

夕刻、訓練場。


地面には、無数の焼け跡が刻まれていた。

結界の内側は、もはや「訓練」という言葉だけが形骸として残った、

小規模な戦場の跡そのものだった。


「……今日は、ここまでね」


マルティアが、軽く息を吐きながらレックに告げる。


その足元で、レックは――


「……ぴ……」


翼をだらりと垂らしたまま、完全に伏せてしまっていた。


ドキはその様子に苦笑し、頭をかきながら言う。

「シルフィス部隊長……俺たちも、いずれあんな訓練を受けるんですよね」


「覚悟しないといけないわね」

シルフィスは肩をすくめる。

「お肌が焦げたら、どうしようかしら?」


冗談めかした声だったが、内心ではしっかり覚悟を決めていた。


――そのときだった。


訓練場の入口から、聞き慣れた声が響いた。


授業を終えたイヴァンスたちが、レックを迎えに来たのだ。

その隣にはセーニャ、そしてプラーサの姿もある。


「レック、どう――」


イヴァンスがそう声をかけかけた、その瞬間。


レックは、迷うことなく一直線にこちらへ向かってきた。


いや、正確には――

ふらつきながら、今にも泣き出しそうな顔で。


「……ぴ……ぴぃ……」


「えっ、レック?」


セーニャが慌ててしゃがんだ、その瞬間。

レックは、その腕の中に――ぽすん、と倒れ込んだ。


「ぴぃぃぃ……」


小さな体が、かすかに震えている。


訓練場に、気まずい沈黙が落ちた。


その沈黙を破ったのは、

セーニャの穏やかな――しかし、どこか鋭さを含んだ声だった。


「……あら、お姉さま」


セーニャは、ベラミカを見上げてにこりと微笑む。


「ずいぶん、御熱心に訓練されたのですね」


腕の中で、レックが再び――


「ぴぃぃ……」


「……レックが、泣いてますよ?」


その一言で。


訓練場の空気が、凍りついた。


「わ、私じゃないわよ!」


ベラミカが慌てて手を振る。


「マルティアよ、マルティア!

 私は……ちょっと手伝っただけだから!」


「ベラミカ、こちらの方は?」

マルティアがベラミカに声をかける。


「あ、ええと……」

ベラミカは一瞬言葉に詰まり、気まずそうに笑った。


「私の妹、セーニャよ。

 それで……こちらが、一応マルティア王女。

 学園では、普通に一緒だった同級生なの」


それを聞いた瞬間、

プラーサとセーニャはすぐに状況を理解し、揃って跪いた。


「――そんなに形式ばらなくて結構よ」

マルティアは苦笑し、手を振る。

「ほら、立って。二人とも」


「それにしても……」

イヴァンスは訓練場を見渡し、静かに言った。


「マルティアさん、この惨状は……?」


セーニャの腕の中でぐったりとしているレックを見て。


「レックもずいぶん、お疲れのようですし」


そのとき――


「な、なんだよこれ……まるで戦場じゃないか!!」


怒声が、訓練場に響き渡った。


イヴァンスの背後から、

バリンスが血相を変えて駆け込んでくる。


焼け跡だらけの地面。

砕け散った標的。

焦げついた結界の痕跡。


その惨状を一望したバリンスは、

すぐさまイヴァンスを指さして怒鳴りつけた。


「――訓練を、ここまでやらせたのは!

 お前の連れている“それ”か!!」


視線は、レックに向けられている。


「……分かったぞ」


勝手に納得したように、声を荒らげる。


「俺がセーニャと一緒にいるのが気に入らなくて、

 邪魔をするために、こんな真似をしたんだろう!」


一方的な決めつけ。

聞く耳など、最初から持っていない。


「やはり――お前みたいな庶民が、

 この格式高い帝国学園に入学すること自体が間違いなんだ!」


唾を飛ばす勢いで、さらに続ける。


「父上に言いつけて、退学にしてやる!

 その後は――俺が、セーニャの学園での立ち振る舞いを

 直々に“教えてやる”んだ!」


勝ち誇ったように、言い切る。


「……分かったか!!」

返事など、最初から求めていない口調だった。


その間、

マルティアの姿など、完全に視界に入っていなかった。


ありとあらゆる文句を、

息継ぎもなく浴びせきった末――


「……今夜、父上に言いつけてやるからな!!」


そう捨て台詞を吐き、

バリンスは訓練場を足早に立ち去っていった。


マルティアは、小さくため息をつき、

ぽつりと呟いた。


「……あの子、確かリーパルの弟だったかしら。

 ちょっと……ややこしいことになりそうね」


その言葉に、

セーニャははっとしたように視線を落とす。


――理解してしまったのだ。

バリンスが、自分に好意を抱いているという事実を。


一瞬、言葉を失い、

そのまま完全に固まってしまう。


一方、シルフィスとドキは顔を見合わせ、

同時に、深いため息をついた。


「……貴族の子息って」

ドキがぼそりと零す。

「あんなのばっかりなのかな……」


重たい空気が、その場に流れる。


――ただ一人。


プラーサだけは、

その一連のやり取りを眺めながら、肩を揺らして笑った。


「はは、相変わらず――

 バリンスは馬鹿ンスね」


場の空気を読んでいるのか、いないのか。

その言葉に、

シルフィスは片手でこめかみを押さえ、

ドキは思わず天を仰いだ。


「勘弁してくれ」

ドキのぼやきが、静かな空気に落ちた。


イヴァンスは、

その言葉の意味を特に気に留めることもなく、

ただ黙って、去っていった方向を見つめていた。


――かつて、自分が

“バカdeアール”と切って捨てた四人の顔を、

まだ思い出してもいない。


夕刻の訓練場には、

それぞれの温度のまま、沈黙が残っていた。

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