ドラゴン討伐隊
帝都、アルフォース城の執務室。
ランジール皇帝とディハン軍務卿は、密偵カムシスから提出された報告書に目を通していた。
ディハンは報告書を閉じ、本人から受けた報告も交えながら静かに口を開く。
「カムシスの報告によれば、年齢を考えれば極めて優秀な剣士です。
現時点でも、帝国騎士団への入隊基準を満たすだけの実力は備えているとのことです」
「入隊年齢は十七歳です。それまでの間、貴族派が接触する可能性は否定できません。
騎士団側で接点を持ち、継続的に状況を把握することを提案します。」
「確かにな。だが、十七歳に満たない者を例外規定で入隊させれば、
貴族派に付け入る隙を与えることになる。……何か手段はあるのか、ディハンよ。」
「は、陛下。ちょうど民生卿のもとへ、東国境の街アーカットにある冒険者ギルドから、
ドラゴン討伐の支援要請が届いております」
「近衛騎士団を派遣し、ストーン村を野営地として利用する名目で現地へ赴かせます。
その際、イヴァンスにも同行を認め、騎士団との接点を持たせる考えです」
「討伐対象はドラゴンです。
近衛騎士団長グレッグ将軍が指揮を執ることにも、十分な理由が立ちます。」
「なるほど。将軍と騎士団との交流を通じ、こちらに引き込む算段か。
よかろう。その案を直ちに実行せよ」
後日、執務室には皇帝、軍務卿、そして将軍の三名で、ドラゴン討伐隊の打ち合わせが行われていた。
実務的なことは軍務卿から事前に聞いていた将軍は、単に皇帝から直接命令を受けるだけだと思い参じていた。
しかし、皇帝から参加メンバーを告げられたとき、グレッグは思わず固まる。
マルティア参謀を同行させる旨を告げられたからである。
「参謀として――マルティアも同行させる」
「……っ!ひ、姫様をですか」
皇帝の娘マルティア王女は今年20歳。
皇帝の娘でありながら、自ら騎士団への道を選んだ才女である。
(マルティア様と、しかも任務で……!これは……!)
グレッグの胸中に緊張が走り、肩がわずかに跳ねた。
その反応を皇帝は見逃さない。
「どうした。近衛騎士団の参謀なのだ。当然の人選であろう?」
「……た、たしかに。問題はございません、陛下」
しかし、明らかに動揺している。
皇帝は静かに息をつき、父の顔で言葉を続けた。
「グレッグよ。おぬし、仕事を理由にマルティアと距離を取っておるであろう」
「……」
「このままでは、せっかく幼い頃から築いてきた縁も、すれ違ったままになるやもしれん」
執務室の椅子にもたれ、穏やかに告げる皇帝。
「これは“任務”だ。そして――娘を案ずる父としての助言でもある」
グレッグは一瞬、言葉を失い、やがて深く頭を下げた。
「……承知いたしました。必ずや、任務を果たします」
「うむ。期待しておる。ただ、グレッグよ。
おぬしの美点でもあるが、あまり気を張り詰めすぎるでない。
……まあ、このまま恋仲となっても、儂としては喜ばしい限りだがな」
皇帝は口元にわずかな笑みを浮かべた。




