ドラゴン討伐隊
帝都、アルフォース城の執務室で、ランジール皇帝とディハン軍務卿は、密偵カムシアの報告書に目を通していた。
軍務卿は、報告書と本人からの報告を合わせ、淡々と説明する。
「カムシアの報告によれば、一太刀すら入れることができなかったとのことです。
騎士団の中隊長クラスに匹敵する実力を、わずか12歳で備えているということになります。
入隊年齢は16歳ですが、それまで放置すれば、貴族派の私兵に囲まれる危険もあります。
従いまして、騎士団側と何らかのつながりを作る必要がございます。
情報を掌握し、事前に対策を講じることで、貴族派に付け入る隙を与えぬようすべきでしょう。」
皇帝は書類を眺めながら眉をひそめる。
「なるほど。しかし例外規定で16歳に満たない者を入隊させれば、
貴族派に付け入る隙を与えることになる。何とかならんか」
「は、陛下。実は民生卿のところに、東の国境の街アーカットの冒険者ギルドから
ドラゴン討伐の依頼が来ております。
第一騎士団を派遣し、野営場所の設営をストーン村に依頼する体で、イヴァンスを騎士団に参加させる算段です。
ドラゴン討伐ですので、帝国騎士団長であるグレッグ将軍――つまり帝国騎士団のトップを動かすことになりましても、支障はないかと存じます」
「なるほど。将軍と騎士団との交流を通じ、こちらに引き込む算段か。よかろう。その案を直ちに実行せよ」
後日、執務室には皇帝、軍務卿、そして将軍の三名で、ドラゴン討伐隊の打ち合わせが行われていた。
実務的なことは軍務卿から事前に聞いていた将軍は、単に皇帝から直接命令を受けるだけだと思い参じていた。
しかし、皇帝から参加メンバーを告げられたとき、グレッグは思わず固まる。
マルティア参謀を同行させる旨を告げられたからである。
「参謀として――マルティアも同行させる」
「……っ!ひ、姫様をですか」
皇帝の娘マルティア王女は今年16歳。
騎士団に入隊し、参謀部に所属して活躍している才色兼備の王女である。
(マルティア様と、しかも任務で……!これは……!)
グレッグの胸中に緊張が走り、肩がわずかに跳ねた。
その反応を皇帝は見逃さない。
「どうした。帝国騎士団員としては、当然の人選であろう?」
「……い、いえ。問題ございません、陛下」
しかし、明らかに動揺している。
皇帝は静かに息をつき、父の顔で言葉を続けた。
「グレッグよ。おぬし、仕事を理由にマルティアと距離を取っておるであろう」
「……」
「このままでは、せっかく幼い頃から築いてきた縁も、すれ違ったままになるやもしれん」
執務室の椅子にもたれ、穏やかに告げる皇帝。
「これは“任務”だ。そして――娘を案ずる父としての助言でもある」
グレッグは一瞬、言葉を失い、やがて深く頭を下げた。
「……承知いたしました。必ずや、任務を果たします」
「うむ。期待しておる。ただ、グレッグよ。
おぬしの美点でもあるが、あまり気を張り詰めすぎるでない。
……まあ、このまま恋仲となっても、儂としては喜ばしい限りだがな」
皇帝は口元にわずかな笑みを浮かべた。




