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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
少年期

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軍務卿

財務卿は、ドラゴン討伐隊の幕引きの仕方がどうしても気にかかっていた。

軍務卿が、あまりにも露骨に貴族派へ利益を分配しているように見えたからだ。


「まさかとは思うが……軍務卿が貴族派に乗り換えた、ということはないだろうな」


直接聞くのが一番か――。

小さく独り言を漏らしながら思案していた財務卿だったが、やがて腹を括ったように顔を上げた。


そばに控えていた文官に、短く告げる。


「軍務卿を呼んでくれ」


ほどなくして、軍務卿が財務卿の執務室を訪れた。


「財務卿。何かご用件が?」


いつもと変わらぬ軍務卿である。

感情を表に出すことなく、淡々と事務的に話を進める姿勢も、まったく同じだった。


「軍務卿よ。今回のドラゴン討伐隊における、貴族派への利益分配についてだ」


財務卿は視線を逸らさぬまま続ける。


「あまりにも露骨に映る。よもやとは思うが……まさか貴公、貴族派に鞍替えするつもりではあるまいな」


「その件ですか。確かに、私の説明が足りておりませんでしたな」


軍務卿は一拍置き、淡々と語り始めた。


「まず、ドラゴンの遺体についてです。確かに宰相は、自らの息がかかった商会と取引するでしょう。

 そこから相応の利益を吸い上げることも、想定の範囲内です。

 しかし、売却益そのものは、あくまで国庫に納められます」


「次に学校事業です。これは新規事業となりますので、予算は予備費から計上するのが妥当でしょう」


「なるほど。ドラゴンの売却益がある以上、それを原資にせよ、ということだな」


「その通りです。聖教会への契約金も含め、

 概ね五年分の契約金を予備費から計上すればよろしいかと存じます」


「学校事業は、すでに民生卿と法務卿が主導して進めている案件です。

 ですが、この件についても、彼らがこちらの意見を無視することはできません」


「結果として、ドラゴンの売却益は……およそ半分ほどが消える計算になるでしょうな」


軍務卿の説明は、なおも続いた。


「学術卿へ話を通したのも、初期経費を貴族派に負担させるためです。

 新規事業とはいえ、建築などの大きな利権は生じません。旨味は、それほどありません」


「さらに申せば――」


軍務卿は、わずかに言葉を区切った。


「今回のドラゴン討伐隊の真の目的は、

 あくまでイヴァンスを騎士団に囲い込むことにあります」


「ドラゴンを使役したとなれば、その価値はさらに跳ね上がります。

 そこに貴族派が気付けば、少々厄介な事態になりかねません」


「ですが、イヴァンス本人から、騎士団入隊の確約は得られました。

 この点については、すでに解消したと考えてよろしいかと」


そして、淡々と結論を口にする。


「なにより――人材というものは、金で買えるのであれば、買うべきものです」


財務卿は、ここまでを見通していた軍務卿の思考に、背筋がひやりと冷えるのを感じた。


「……そこまで考えておられるのなら、な。疑って悪かった」


財務卿は、わずかに視線を伏せてそう告げた。


「私は、皇帝派と思われているようですが――」


軍務卿は一拍置き、静かに続ける。


「皇帝派ではありません。皇帝に忠誠を誓う、ただの部下です」


「皇帝――すなわち帝国を利するのであれば、

 皇帝派ですら、いや……私自身ですら、

 躊躇なく糧として差し出しましょう」


その抑揚のない口調で語られた言葉は、

財務卿の足元にあったはずの地面を、音もなく崩し去った。


その抑揚のない口調で語られた言葉は、

財務卿の足元にあったはずの地面を、音もなく崩し去った。


軍務卿は、ほんの一瞬だけ視線を落とした。

それは思案というより、過ぎ去った時間をなぞるような間だった。


「財務卿もご存じと思いますが、私は陛下と帝国学園の同級生なのです」


「ああ、もちろん知っておる」


珍しく、軍務卿が自らの過去を語り始めた。


「このような性格ゆえ、貴族派の子息からは、よく嫌がらせを受けたものです。

 私自身は、特に気にしていなかったのですが……」


「当時、皇太子だった陛下が、折に触れて彼らを注意してくださったのです。

 私から取り入ることはありませんでしたが、

 陛下の方から、よく声をかけていただきました」


「よく――『お前は親友だからな』と、そう言っていただきました」


「卒業後も、公務の補助を命ぜられることが度々ありました。

 それを負担に感じたことは、一度もありません」


「……いやな気持など、微塵も感じなかったものです」


「皇帝になられて、軍務卿に引き上げていただいたのは、私が三十の時です」


「帝国評議会に名を連ねるにあたり、

 『妻帯しておらぬとはけしからん』と、随分と強く言われましてね」


「結果として、今の妻と結婚することになりました」


「……まあ、この性格ですから」


「私としては、侯爵家を存続させるのであれば、

 養子を迎え入れれば、それで十分だと考えていたのですが」


「ああ、覚えておるぞ。皇帝が即位されて最初の仕事が、

 お主の嫁探しだったからな。

 いきなり呼び出されて命じられた時は、

 ――さて、これはどうしたものかと、正直かなり頭を悩ませたものだ」


「財務卿にも感謝しております。

 私にふさわしい方を見つけていただきましたから。

 ……ふ、今日は少し多弁になったようですな。

 失礼しても、よろしいでしょうか」


「ああ。今回のことはよくわかった。繰り返しになるが、疑ってすまなかったな」


軍務卿が退出した後、財務卿はふと、そんなことを思った。


――軍務卿も、笑うのだな。

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