血の洗礼②
ズキン――ッ!!
脳を内側から抉られるような激痛が、森に弾けた。
「きゃ……!」
最初に崩れたのは――プラーサだった。
膝が折れる。
支えを失った身体が、ぐらりと揺れる。
視界が白く弾け、輪郭が崩れる。
「……っ、あ……!」
呼吸が、止まる。
肺が動かない。
空気を吸うという行為すら、思い出せない。
鼓動を追っていたはずの意識が、一瞬で掻き乱される。
「相手は待ってくれねーぜ」
どこからともなく、スランザの声。
冷たく、短く。
感情は、ない。
「サーチしてる場所がバレバレなんだよ」
一拍。
「攻撃されたときの対処もなってねぇ」
ほんのわずか、間を置く。
「乙女じゃねぇんだ。耐えろ」
ズキン――ッ!!
「ぁあっ!」
追撃。
逃げ場のない、二度目の激痛。
頭の奥に、直接打ち込まれるような衝撃。
意識が、千切れそうになる。
姿は見えない。
だが――
“見られている”。
どこからか、確実に。
「それ、戦場じゃ死ぬぞ」
プラーサが歯を食いしばる。
(……分かってる……!)
分かっている。
分かっているのに。
体が、動かない。
痛みが、思考を止める。
視界の端で、誰かが動いた。
その瞬間――
「っ!」
イヴァンスが強引に踏み込んだ。
地面を蹴る音が一つ、鋭く響く。
「プラーサ、離れろ!」
叫びと同時に距離を詰める。
だが――
「感情的になっちゃバットなのよね~」
ぞわり、と。
耳元で囁くような声。
「位置がバレバレなんだよね~」
ズキンッ!!
「ぐっ……!」
今度はイヴァンスの視界が歪む。
踏み込んだ足が、止まる。
筋肉が、命令を拒否する。
「助けに入る判断は悪くないんだけどね~」
くすくす、と笑う気配。
「雑なんだよね~」
“気付いた時には”、もう遅い。
「っ!」
反射的に振り向く。
だが。
そこには――何もいない。
影すら、ない。
ズキンッ!!
「がっ……!」
二度目の痛み。
今度は、より深い。
思考の芯を直接揺さぶるような、鈍く重い衝撃。
「……くそっ……!」
膝が揺れる。
視界が傾く。
だが、倒れない。
無理やり、踏みとどまる。
その様子を――
「いいねいいね~♪」
楽しそうな声が、上から降ってくる。
「ほらほら、もう二人ミスってるよ~?」
ジャックだった。
枝の上。
さっきまでいなかったはずの位置。
まるで最初からそこにいたかのように、自然に。
「このままだと全滅まで一分かかんないんじゃない?」
くすくす、と喉を鳴らす。
「悲鳴、まだ少ないね~」
その瞬間。
「――うるさいわね」
低い声。
ベラミカだった。
一歩、前へ出る。
視線は、ぶれない。
「やられっぱなしで終わるわけないでしょ」
両手が、ゆっくりと持ち上がる。
魔力が収束する。
空気が、歪む。
だが――
「いけませんね」
静かな声。
その声を“認識した瞬間”、
ズキンッ!!
「っ……!」
制御が、乱れる。
「魔導士が詠唱しているところを見せては――致命傷ですよ」
ボルックスの声が、冷たく落ちる。
どこにいるかは分からない。
だが、確実に“見ている”。
ベラミカが歯を食いしばる。
「……っ、く……!」
(速すぎる……!)
思考。
判断。
発動。
その全てが――一手遅い。
一瞬でも“見せた”時点で、終わる。
「お分かりですか?」
今度は、別の声。
静かで、整った響き。
リータンだった。
「皆様の行動は」
一拍。
森の空気が、張り付く。
「すべて遅きに失しているのですわ」
言葉が、静かに刺さる。
森が、沈黙する。
呼吸すら、重い。
その中で――
セーニャだけが、動いていなかった。
ただ、見ている。
静かに。
じっと。
(……違う)
一度、目を閉じる。
音を消す。
思考を削る。
(追うな)
開く。
(“来る側”を見る)
風の流れ。
葉の揺れ。
わずかな“歪み”。
その瞬間。
「……そこ」
ぽつり、と呟く。
そして――踏み込んだ。
迷いなく。
一直線に。
「スリープ!」
間合いに入る。
距離は、十分。
発動は――
「いやはや」
穏やかな声。
だが、その距離には――もう“いない”。
「まこと惜しゅうございますな」
すでに背後。
気配すら、ない。
「初めての成果となりましょうところを……」
レキサルの声。
「それにしても、この六名を相手取り――」
一拍。
わずかに感心を滲ませる。
「かような術を繰り出されるとは、いと見事にてございます」
次の瞬間。
ズキンッ!!
「きゃっ!」
セーニャの身体が跳ねる。
視界が砕ける。
足が止まる。
崩れる寸前で、踏みとどまる。
(……届かない……)
息が、乱れる。
その時。
「ほらぁ」
ジャックの声が、すぐ近くで囁いた。
「惜しかったね~?」
振り向く。
距離は――ゼロ。
「今の、ちゃんと“届いてた”よ?」
にやり、と笑う。
「でもさ~」
その目が、細まる。
「“届いた後”が無いと意味ないんだよね~」
ぞわり、と背筋が凍る。
その瞬間。
ズキン――ッ!!
今までよりも強い激痛が、全員に同時に叩き込まれた。
「がっ……!」
「っ……!」
「……あ……!」
意識が揺れる。
足が崩れる。
視界が歪む。
逃げ場はない。
考える余裕もない。
そして――
「ねぇ」
ジャックが、楽しそうに笑った。
逃げ場はない。
考える余裕もない。
そして――
「ねぇ」
ジャックが、楽しそうに笑った。
すぐ近くで。
息がかかるほどの距離で。
「授業は始まったばかりだよ」
くすり、と。
喉の奥で笑う音が、やけに近くで響く。
次の瞬間。
ズキン――ッ!!
さらに深い激痛が、全員の意識を叩き割った。




