表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/135

裏に潜む影

帝都の一角。


人の流れから、わずかに外れた場所に――それはあった。


石造りの塔。


だが、その存在は街に溶け込んでいない。


むしろ、拒まれている。


視線を向ける者は少なく、

気づいたとしても、無意識に足を遠ざける。


理由は分からない。


だが、本能が告げている。


――近づくな、と。


「Tower of the Damned」

通称:魔約の塔


そう呼ばれるその場所。


厳重に周囲を囲まれており、

一般人が近づくことは許されない。


だが――


その理由を、正確に知る者はいない。


ただ一つ、確かなこと。


内部に足を踏み入れることが許されているのは、わずか三人。


グレッグ将軍。

ラプロス総指南役。

ディハン軍務卿。


それ以外は――


例外なく、排除される。


警告も、交渉もない。


踏み込んだ時点で、終わる。


その最上階。


薄暗い空間の中で、六つの気配が揺れていた。


人の形をしている。


だが――


そこにあるのは、“人間”ではない。


沈黙の中に、殺意と退屈が混じる。


そしてそのどちらもが、均衡を保っている。


「お帰りなさいませ、セラフィス様」


跪いていた紳士が、静かに頭を垂れる。


その所作は完璧。

一切の無駄がない。


だが、その気配は――

研ぎ澄まされた刃のように、触れれば断たれる類のものだった。


「あら、お出迎えありがと。ボルックス。

 皆にお土産買ってきたよ」


軽い声。


この場の空気と、あまりにも噛み合わない調子。


だが、それを違和感と感じる者は――いない。


「セラっちさ〜、ちょい期待してたんだよね。

 どっかで派手に事故って、そのまま自然に還ってんじゃねーかなって。

 まさか普通に無事で帰ってくるとか、つまんねぇっての」


壁にもたれかかりながら、ジャックが笑う。


その笑みは軽い。


だが、その目には一切の軽さがない。


「あらひっど~い。ジャック。

 私が折角元気に帰ってきたのに、いきなりいなくなれって言うの?」


「はぁ? 何マジになってんのセラっち〜。

 ぼくちゃん、セラっちが消えてくれたら助かるわ〜って普通に思ってたし?

 それ常識じゃね?」


くつくつと笑う。


空気が、わずかに軋む。


目に見えない圧が、場の隅に溜まる。


「ジャック、そこまでにしておけ」


低く、抑えた声。


ボルックスが一歩前に出る。


その一歩だけで、場の均衡がわずかに整う。


均衡が――“戻る”。


「セラフィス様、あやつがアルフォース帝国に侵入しておりますが

 いかがいたしましょう?」


「ん~……」


セラフィスは、ほんのわずかに視線を上げた。


何かを考える素振り。


だが、それは思考というより――

“気分”に近い。


「ま、好きに遊ばせとけば?」


軽い。


あまりにも軽い判断。


それでいて、覆ることはない。


「ねぇねぇ〜、せっかくだからさ、ぼくちゃんに命令してよ〜。

 ほら、なんでも聞いちゃうかもよ〜?」


ジャックが身を乗り出す。


期待と、退屈と、殺意が混ざった目。


「別に」


セラフィスは肩をすくめた。


「どうでもいいでしょ」


一拍。


ほんのわずかな、間。


「今回は――放置」


その一言で、場の空気が変わった。


ほんの僅か。


だが、確実に。


“動かない方針”が、決まった。


そのころ、軍務卿の執務室。


重厚な扉の向こう、書類の山に囲まれた空間で、カムシスがディハン軍務卿に報告を行っていた。


窓の外には帝都の喧騒。

だが、この部屋だけは別の時間が流れているかのように静かだった。


「ファーリンにつながる街道で野盗の出没が頻発しているんだ、軍務卿。

 その影響で、ファーリンの食糧不足が深刻化してる」


「ふむ……」


ディハンは顎に手を当て、短く思案する。


「討伐隊を出さねばなるまいな。

 近衛騎士団の出動を準備するか」


「軍務卿、実はそこに問題があるんだ」


カムシスの声が、わずかに低くなる。


「どうやらナピドラ連邦が一枚嚙んでそうなんだ。

 下手に近衛騎士団を出動させると、“自国民を害した”って

 クレームを入れる手はずになってるみたいだ」


「……ナピドラ連邦」


ディハンの視線が、わずかに細くなる。


「サーペインか」


短い一言。


だが、その名だけで場の空気が一段沈む。


「用心に越したことはないが……野盗の人数は?」


「十名程度と聞いている。

 ただし、動きが妙なんだ。

 統率が取れてるし、無駄な殺しはしてない」


「……なるほどな」


ディハンは小さく息を吐いた。


「単なる野盗ではない、ということか」


「たぶん、連邦の“仕込み”だろうな。

 だからこそ、生け捕りが前提になる」


「その通りだ……」


椅子にもたれ、天井を一度仰ぐ。


「証拠を押さえねば、こちらが不利になる」


しばしの沈黙。


判断の時間は、長くない。


「……どうするか」


低く呟き、すぐに結論へ至る。


「仕方あるまい。魔約の塔に行くとする」


「……魔約の塔?」


カムシスが眉をひそめる。


「なんだそれ?」


「カムシスも知らんか」


ディハンは視線を戻した。


「セラフィスの部下たちがいる場所だ。

 グリーンライトではない連中のな」


「グリーンライト以外に、魔導士団があるのか?」


驚きが混じる。


ディハンは静かに頷いた。


「その通りだ」


一拍。


「レッドシャドウと呼ばれている」


「レッド……シャドウ……」


言葉にした瞬間、カムシスの顔がわずかに強張る。


「聞いたことがないな……」


「表には出てこないからな」


淡々とした口調。


だが、その内容は重い。


「極悪非道の連中の集まりだ」


「……おいおい」


カムシスが苦笑する。


「そんな連中に任せるのかよ」


「任せるのではない」


即答。


「“使う”のだ」


短い言葉。


迷いはない。


「今回の件は、表の手では対処しきれん。

 ならば、裏を使うしかあるまい」


「……なるほどな」


カムシスは肩をすくめた。


「で、そのレッドシャドウってのは――信用できるのか?」


「信用はしていない」


間髪入れずに返す。


「だが」


ほんのわずかに、口元が動く。


「セラフィスがいる」


それだけで十分だ、と言わんばかりに。


「……ああ、そういうことか」


カムシスは苦笑した。


納得と、諦めが混ざった顔。


「一番信用できねぇ奴が、

 一番信用されてるってわけか」


「そういうことになるな」


ディハンは立ち上がった。


椅子が、わずかに軋む。


「行くぞ。時間はかけられん」


「……マジで行くのかよ、そんなとこ」


カムシスがぼやく。


だが、その足は止まらない。


「まだ俺は死にたくないんですけど」


「安心しろ」


ディハンは振り返らずに言った。


「死ぬ前に終わる」


その言葉の意味を、

カムシスは深く考えないことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ