ストーン村のイヴァンス
ストーン村に生まれたイヴァンスは、ごく普通の少年だったが、
ほかの子どもたちより運動能力が抜きんでていた。
6歳にして弓矢を手にし、村の食料調達を目的とした魔物狩りに参加する。
村人たちは、彼の集中力と観察眼にただただ目を見張るばかりだった。
性格はどこか軽く、悪気もなく物事の本質をストレートに口にしてしまうところがある。
イヴァンスには幼馴染がいた。クラリスである。
彼はとにかくクラリスが大好きで、いつも彼女に向かって言っていた。
「俺はクラリスと結婚するんだ!
……でもさ、クラリス、一人だけ他の女の子と付き合うのは許して」
そんなことを、本人は悪びれもせず口に出すのだ。
クラリスはいつも同じようにため息をつく。
「イヴァンス、あなたね~
お嫁にしたいって言ってる相手に浮気宣言って……
どういう性格なのよ。まったくも~」
そのやり取りは、もはや二人の日常であり、
村の誰もが聞き慣れた光景でもあった。
村長の娘で、素直でかわいらしく、気立ての良い少女として知られるエマに、
密かに恋心を抱く者は少なくなかった。
ビソップをはじめとする少年たちも、淡い想いをクラリスに抱いていたが、
イヴァンスには何一つ敵わず、
しかもクラリスとの距離感も埋められない。
当然、誰もが同じ結論に辿り着く。
――相手が悪すぎる。
結局、彼らはクラリスへの想いを胸にしまい込み、
「はあ、無理だな…」と小さくため息をついて諦めるのだった。
イヴァンスにとって、特別に憧れる人物がいた。
それが、聖教会のレイカシスターである。
イヴァンスは、何かと理由をつけては、レイカシスターのもとで奉仕活動やお祈りに顔を出すのだった。
「あら、イヴァンス君。今日もお祈りに来たのね。
信心深いことはいいことですわ。さあ、一緒にお祈りしましょう」
イヴァンスは、にこにこしながらひざまずく。
「はい! ちゃんとやります!」
ただ心の中ではこう思っていた。
(レイカ姉さん、今日も優しいな……
やっぱ落ち着くわ……)
手順を間違えてしまっても、レイカシスターはにっこり笑って教えてくれる。
「イヴァンス君、焦らなくていいの。信仰は気持ちが大事ですわ」
イヴァンスはさらに嬉しくなって、また手を合わせる。
教会は神聖な場所であり、そして彼にとっては、ちょっと大げさに言えば「安心できるお姉ちゃんの家」のような空間だった。
12歳になる頃には、剣技も本格的に身につけ、
弓・剣・格闘、いずれにおいても村随一の狩人として名を馳せる存在となっていた。
その腕前の噂は、ついにアルフォース帝国の帝都まで噂が届いた。
帝国騎士団の軍備強化に抜け目のないディハン軍務卿の耳にも、例の少年の評判は入っていた。
ディハンは冷静な表情のまま、部下の密偵カムシスを呼び寄せ、
「直接、イヴァンスという者を調査せよ」と命じるのだった。
「へいへ~い、ディハン様! ストーン村まで行ってきま~す!」
カムシスは、鉄仮面のようなディハン軍務卿にも物おじしない、数少ない肝の据わった部下である。
「さてさて、どんな坊やなんだか。ちょっと楽しみだな」
そう呟きつつ、カムシスはひらひらとマントをなびかせ、馬に飛び乗った。
道行く村人や旅人に軽く会釈しながらも、頭の中ではすでにイヴァンスの観察計画を組み立てている。
「弓に剣に格闘――ああ、聞くだけでワクワクするぜ。さて、坊やよ、カムシスに本気を見せてくれよ!」
こうして、帝国軍務卿直属の軽妙なる密偵の旅が、いよいよ始まるのだった。




